第39話 エピローグ

 あれから1年が経った。

 私とリリアが両世界を救い、テクノマジックの存在が明らかになってから、あっという間の1年だった。

 両世界は驚くべき速さで変化し、私たちもその変化と共に成長を続けてきた。


 今日も朝から、アルカディアと現代世界を行き来する忙しい一日だった。

 アルカディアの魔法評議会での会議を終え、現代世界の国連本部での会談に向かう途中、私は窓の外の景色を眺めながら、この1年を振り返っていた。


「アヤカ、考え事?」


 リリアの声が、私の心に直接響いた。

 テレパシーによるコミュニケーションは、もはや私たちの日常の一部となっていた。


「ええ、この1年のことを思い出してたの」


 私は微笑みながら答えた。

 リリアも同じように懐かしむような表情を浮かべた。


「本当に、たくさんのことがあったわね」


 アルカディアは、魔法と科学の融合により大きく変わった。

 かつては厳格だった階級制度が徐々に緩和され、魔法使いと一般市民の垣根が低くなっていった。

 魔法学校では、従来の魔法教育に加えて科学の授業が導入され、若い魔法使いたちは両方の知識を身につけるようになった。


「覚えてる? あの魔法学校の生徒たちが、初めて顕微鏡を覗いたときの驚いた顔」


 私は思わず笑みがこぼれた。リリアも楽しそうに頷いた。


「ええ、まるで新しい魔法を発見したかのような顔だったわね」


 一方、現代世界でも大きな変化が起きていた。

 マナの存在が一般に知られるようになり、多くの人々がその力を感じ取れるようになった。

 科学者たちは、マナを科学的に解明しようと日々研究を重ねている。


「最近の研究では、マナが量子場理論で説明できる可能性が高まってきているわね」


 リリアが最新の研究結果を教えてくれた。私も頷いた。


「そう、でもまだまだ謎が多いわ。マナの本質を完全に理解するには、もう少し時間がかかりそう」


 テクノマジックの発展は、新たな倫理観の形成も促していた。

 両世界の人々は、魔法と科学の力をどのように使うべきか、真剣に考えるようになった。

 テクノマジック倫理委員会は、両世界の代表者たちと共に、新しい時代にふさわしい倫理基準の策定に取り組んでいる。


「でも、まだまだ課題は多いわね」


 私は少し疲れたように言った。

 リリアも同意するように頷いた。


「そうね。特に、テクノマジックの軍事利用を巡っては、まだ意見がまとまっていないわ」


 私たちは、両世界の調停者として日々奔走している。

 魔法評議会と現代世界の政府の間に立ち、両者の理解を深めるために努力を重ねてきた。

 時には激しい議論になることもあるが、少しずつ前進していることを実感している。


「でも、私たちがいなければ、こんなにスムーズには進まなかったはずよ」


 リリアの言葉に、私も同意した。

 私たちには、両世界の視点を持つという特別な立場がある。

 それが、様々な問題を解決する上で大きな助けになっていた。


 しかし、まだ解決できていない謎もある。

 時空の歪みの根本原因は、いまだに明らかになっていない。

 私たちは、その謎を解明するために研究を続けている。


「時空の歪みの原因が分かれば、もっと効果的に両世界を守れるはずよ」


 私は真剣な表情で言った。

 リリアも頷いたが、その目には少し悲しみの色が浮かんでいた。


「そうね。そして……私の両親の事故の真相も、きっと分かるはず」


 リリアの両親の事故。

 それは、彼女の心に深い傷を残した出来事だった。

 私たちは、その真相を突き止めるために、様々な調査を行ってきた。

 しかし、まだ決定的な証拠は見つかっていない。


「必ず真相を明らかにするわ、リリア」


 私は彼女の手を握りしめた。

 リリアも力強く握り返してくれた。


「ありがとう、アヤカ。あなたがいてくれて、本当に心強いわ」


 私たちの絆は、この1年でさらに深まった。

 共に困難を乗り越え、喜びを分かち合ってきた。

 それは、私たちの力の源となっている。


 しかし、新たな脅威も見え始めていた。

 両世界の融合に反対する勢力が、徐々に力を増しつつあるのだ。

 彼らは、伝統的な価値観や既得権益を守るために、テクノマジックの発展に強く反対している。


「最近、反テクノマジックのデモが増えてきているわね」


 リリアが心配そうに言った。

 私も頷いた。


「ええ、特にアルカディアでは、魔法の純粋性を守るべきだという主張が強くなってきているわ」


 私たちは、この新たな脅威にも立ち向かわなければならない。

 両世界の融合がもたらす利益を説明し、人々の不安を和らげる努力を続けている。

 しかし、それは簡単なことではない。


「でも、私たちにはできるはず」


 私は強く言った。

 リリアも同意するように頷いた。


「そうね。私たちには、両世界を繋ぐ力がある。きっと、この問題も乗り越えられるわ」


 私たちの決意は、1年前よりもさらに強くなっていた。

 困難は増えたかもしれないが、それに立ち向かう勇気と知恵も身についた。


 国連本部に到着し、私たちは建物の中に入っていった。

 今日の会議では、テクノマジックの国際的な規制について話し合われる予定だ。

 難しい議論になるだろうが、私たちは最善を尽くす覚悟ができていた。


「準備はいい?」


 私はリリアに尋ねた。彼女は微笑んで頷いた。


「ええ、いつでも」


 私たちは、会議室のドアを開けた。

 そこには、両世界の代表者たちが待っていた。

 彼らの表情には、期待と不安が入り混じっている。

 私たちの役割は、その期待に応え、不安を和らげること。


「皆様、お待たせしました」


 私は力強く語りかけた。


「今日は、テクノマジックの未来について、建設的な議論ができることを期待しています」


 リリアも続けた。


「私たちは、両世界の架け橋として、皆様の意見に耳を傾け、最善の解決策を見出す努力をします」


 会議が始まり、活発な議論が交わされた。

 時に意見が対立し、激しい言葉のやり取りもあった。

 しかし、私とリリアは冷静さを保ち、両者の意見を丁寧に聞き、理解を深めるよう努めた。


 会議が終わり、私たちは疲れた様子で部屋を出た。

 しかし、その表情には満足感も浮かんでいた。


「今日も良い議論ができたわね」


 リリアが言った。

 私も頷いた。


「ええ、少しずつだけど、前に進んでいる気がする」


 私たちは、窓の外を見た。

 そこには、アルカディアと現代世界が融合した不思議な風景が広がっていた。

 魔法の塔と高層ビルが並び立ち、空には飛行機と魔法の絨毯が同時に飛んでいる。


「私たちが作り出した世界ね」


 リリアが感慨深げに言った。

 私も同じ気持ちだった。


「そう、だからこそ、この世界を守り、より良いものにしていく責任がある」


 私たちは、まだ多くの課題に直面している。

 時空の歪みの謎、リリアの両親の事故の真相、そして新たな脅威。

 しかし、私たちには乗り越える力がある。


「さあ、次は何をしよう?」


 リリアが尋ねた。

 私は少し考えてから答えた。


「テクノマジックの研究所を視察しに行かない? 新しい発見があったって聞いたわ」


「いいわね。行きましょう」


 私たちは、新たな冒険に向けて歩み出した。

 未来は不確かで、多くの困難が待ち受けているかもしれない。

 しかし、私たちには希望がある。

 なぜなら、私たちは一緒だから。


 両世界を繋ぐ架け橋として、私たちの旅はまだ続く。

 そして、その旅路の先に、きっと素晴らしい未来が待っているはずだ。

 私たちは、その未来を信じて歩み続ける。

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てくの☆まじっく〜女子高生アヤカと魔法使いリリア〜 烏丸 @crow202403

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