第26話 世界を救うために
研究室に飛び込んだ私とリリアの息は荒く、心臓の鼓動が耳に響いていた。
外の混沌とした状況が、この一瞬にかかっているという緊張感が、部屋中に満ちていた。
「準備はいい?」
私の問いかけに、リリアは決意に満ちた表情で頷いた。
「ええ、やりましょう」
私たちは同時に装置のスイッチに手をかけた。
この瞬間にかけた長い研究の日々。
そして、両世界の未来。
全てがこの一瞬にかかっている。
深呼吸をして、私たちはスイッチを入れた。
装置が低い唸り声を上げ、次第にその音は大きくなっていった。
リリアの周りに、かすかな光のオーラが現れ始める。
それは最初、ほんのりとした淡い光だったが、徐々に強さを増していった。
「うっ……」
リリアが小さく呻いた。
彼女の顔には、苦痛の色が浮かんでいる。
「大丈夫?」
私は心配そうに尋ねた。
リリアは歯を食いしばりながら、何とか頷いた。
「平気よ……続けて」
彼女の決意に、私も覚悟を決めた。
装置のダイヤルを慎重に調整する。
出力を少しずつ上げていく。
リリアの周りの光は、それに呼応するように強くなっていった。
窓の外では、空が不気味な色に染まり、建物が歪み始めている。
時空の歪みは、刻一刻と進行しているようだった。
私たちに残された時間は、もうほとんどない。
「リリア、もう少しよ!」
私は叫んだ。リリアは必死に耐えている。
彼女の体が、まるで内側から光っているかのように輝き始めた。
その光は、次第に部屋全体に広がっていく。
突然、装置が激しく振動し始めた。
警告音が鳴り響く。
「くっ……このままじゃ……!」
私は咄嗟に装置に飛びついた。
制御パネルの数値が、危険な領域まで上昇している。
このまま進めば、装置が爆発してしまうかもしれない。
しかし、ここで止めるわけにはいかない。
両世界の命運がかかっているのだ。
「リリア、もう少しだけ頑張って!」
私の声に、リリアは必死に頷いた。
彼女の体から放たれる光は、もはや眩しすぎて直視できないほどだ。
その時、突然部屋の扉が開いた。
「アヤカ!」
振り返ると、そこには父が立っていた。
彼の表情には、驚きと恐れが混ざっていた。
「お父さん……」
「何てことを……」
父は呆然と私たちを見つめていた。
しかし、すぐに彼の目に決意の色が宿った。
「どうすれば良い?」
その一言に、私は胸が熱くなった。
父は、私たちの研究を理解し、支援してくれている。
今この瞬間も、私たちを信じてくれているのだ。
「制御パネルを……!」
私の指示に、父はすぐさま動き出した。
彼の指が、素早く制御パネルを操作していく。
警告音が少しずつ収まっていく。
「あと少し……!」
私の叫び声が響く。
リリアの体から放たれる光は、もはや部屋全体を埋め尽くすほどになっていた。
その光は、まるで生き物のように脈動し、私たちの周りを包み込む。
そして——
「はああっ!」
リリアの叫び声と共に、眩い光が爆発的に広がった。
その瞬間、私は目を閉じざるを得なかった。
数秒後、恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
リリアの周りには、無数の光の粒子が舞っていた。
それは、まるで星空のようだった。
彼女の体からは、かつて見たこともないほど強力なマナが溢れ出ている。
「リリア……」
私は息を呑んだ。
彼女は、まるで別の存在になったかのようだった。
その姿は神々しく、そして畏怖の念すら感じさせる。
リリアはゆっくりと目を開けた。
その瞳には、無限の深さを感じさせる光が宿っていた。
「アヤカ……」
彼女の声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
「成功したの?」
私の問いかけに、リリアはゆっくりと頷いた。
「ええ……信じられないくらいの力を感じるわ」
彼女は自分の手を見つめた。
その指先から、小さな光の玉が生まれては消えていく。
「これなら……きっと」
リリアの言葉に、私も強く頷いた。
この力なら、きっと時空の亀裂を修復できるはずだ。
両世界を救う希望が、ここにある。
しかし、同時に不安も感じずにはいられなかった。
こんな途方もない力を、私たちはコントロールできるのだろうか。
「アヤカ、準備はいい?」
リリアの声に、私は我に返った。
そうだ、ここからが本当の戦いの始まりなのだ。
「うん、行こう」
私たちは顔を見合わせ、頷き合った。
そして、父にも目で合図を送る。
彼も、静かに頷き返してくれた。
「世界を……救うわよ」
リリアの決意に満ちた言葉と共に、私たちは研究室を後にした。
外では、混沌とした世界が私たちを待っている。
しかし今、私たちには希望がある。
リリアの増幅された魔力と、私たちの絆。
そして、両世界の人々の思い。
これらを胸に、私たちは次なる挑戦へと踏み出した。
世界を救うための、最後の戦いへと。
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