第23話 科学と魔法のアンマッチ
時空の歪みが発生してから数時間が経過した。
私たちは必死で装置の完成を急いでいたが、同時に周囲で起こっている異変にも目を向けざるを得なかった。
両世界の融合は、予想以上に複雑な問題を引き起こしていたのだ。
「アヤカ、見て!」
リリアの声に振り返ると、窓の外で信じられない光景が広がっていた。
街路を走る車が突然宙に浮き、まるで空中を走っているかのようだった。
「あれは……浮遊魔法?」
リリアが困惑した様子で言った。
どうやら、アルカディアの魔法の影響で、科学技術が予期せぬ動作をしているようだった。
「ちょっと、危険すぎる……」
私が呟いた瞬間、浮遊していた車の一台が急降下を始めた。
幸い大きな事故にはならなかったものの、これが大規模に起これば大惨事になりかねない。
一方で、アルカディア側の風景に目を向けると、魔法の光で満ちていたはずの街並みが、突如として暗闇に包まれていた。
「あれは停電……?」
父が声を上げた。
どうやら、私たちの世界の電磁波がアルカディアの魔法エネルギーと干渉し、魔法の灯りを消してしまったようだ。
「これは想定外ね……」
リリアが心配そうに言った。
「魔法と科学技術が、お互いを妨げ合っているみたい」
その言葉に、私たちは重大な問題に気づかされた。
両世界の技術が単純に共存するのではなく、予期せぬ形で相互作用を起こしているのだ。
これは、想像以上に危険な状況かもしれない。
しかし、問題はそれだけではなかった。
研究室の外に出ると、街中が混乱の渦に巻き込まれているのが見て取れた。
アルカディアの住人と現代日本の人々が入り混じり、互いに戸惑いの表情を浮かべている。
「あの服装は何だ?」
「魔法を使うな!危険だ!」
「この箱は何の呪物だ?」
あちこちで小競り合いが起きていた。
文化の違いが、予想以上に大きな衝突を引き起こしているようだった。
「リリア、このままじゃ……」
私が心配そうに言うと、リリアも深刻な表情で頷いた。
「ええ、価値観の違いが大きすぎるわ。アルカディアでは魔法が当たり前で、科学技術なんてほとんど知られていない。逆に、この世界の人々にとっては魔法が信じられないものでしょう」
その通りだった。
私たち自身、最初は互いの世界を理解するのに苦労したのだ。
それが突然、全ての人々に押し付けられているのだから、混乱するのも無理はない。
さらに厄介な問題もあった。
警察と魔法警備隊が言い争っている場面に出くわしたのだ。
「こらっ! 路上で魔法を使うのは禁止だ!」
「何を言っている。魔法の使用は我々の基本的人権だ!」
両者の主張が真っ向から対立している。
法律や倫理観の違いが、新たな軋轢を生み出していた。
「これは厄介ね……」
リリアが眉をひそめた。
「アルカディアでは魔法の使用は日常的で、むしろ使わないほうが不自然なの。でも、ここではそうじゃない」
「そうだな」
父が深刻な表情で言った。
「法律の問題だけでなく、倫理的な観点からも難しい問題が山積みだ。例えば、魔法で人の心を操作することは、この世界では重大な人権侵害になる」
その言葉に、私たちは愕然とした。
確かに、アルカディアでは日常的に使われている魔法の中には、この世界では到底許されないものも多くあるだろう。
「逆もあるわね」
リリアが付け加えた。
「アルカディアでは、自然を過度に開発することは厳しく制限されているの。でも、ここではそうじゃないでしょう?」
私は頷いた。
環境保護に関する考え方も、両世界で大きく異なっているのだ。
さらに歩を進めると、病院の前で混乱が起きているのが見えた。
「なぜ魔法で治療しないんだ!」
「そんな非科学的なことはできません!」
医療の現場でも、魔法と科学の対立が起きていた。
アルカディアの住人にとっては、魔法による治療が当たり前。
しかし、この世界の医療従事者にとっては、それは非現実的で危険な行為に映るのだろう。
「ねえ、アヤカ」
リリアが不安そうに私を見た。
「このままじゃ、本当に大変なことになるわ」
私も同感だった。
両世界の融合は、単に空間が重なり合うだけの問題ではない。
文化、価値観、法律、倫理……あらゆる面での衝突が、社会の基盤を揺るがしかねないのだ。
「急がないと」
私は決意を新たにした。
「装置を完成させて、この状況を元に戻さないと」
リリアと父も頷いた。
私たちは急いで研究室に戻り、作業を再開した。
しかし、頭の中では様々な問題が渦巻いていた。
両世界を完全に分離することは本当に正しいのだろうか。
それとも、融合を受け入れ、新たな世界を作り上げていくべきなのだろうか。
その答えを見つけるのは、きっと簡単ではない。
しかし今は、目の前の危機を回避することに集中しなければ。
そう思いながら、私たちは装置の完成に向けて全力を尽くした。
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