第2話 飴玉

 タケとンギ。


 私たちの接点と言えば、「同じキノコ類のあだ名をつけられている」ということくらいだった。


友達からの話で彼女の存在は知っていたが、「ああ、同じキノコがいるのか」というくらいの印象でしかなく、実際、マイとは3年のクラス替えで初めて一緒になった。




 長いまつ毛とくせのある髪。


マイには昭和のアイドルの様な面影あった。


 騒がしい教室の隅にいた私に、マイは声をかけてきた。


「エリンギちゃん…だよね?私、皆からマイタケって呼ばれてるんだけど…」


「マイタケ…ああ、C組の!」


「そうそう」


「でもなんで私のこと分かったの?多分だけど話したこと無いよね」


「だって…」


 マイは目をまん丸にしたまま、私の髪をじっと見つめた。


「ウチの学校で青く染めてるの、エリンギゃんだけなんだもん」


(ああ、そうか)


「青いの綺麗だなー。私も髪、染めて見ようかなあ」


 マイは眉にかかった髪を指にくるくると巻きながら言った。


「止めときなよ、手入れ大変だし、髪傷んじゃうから。マイはそのままの方が可愛いよ」


 私は思わずそう言ってしまい、やけに恥ずかしくなってマイから目を反らした。


 一方のマイは相変わらず気の抜けた表情でこちらを見ていたが、頬を少し染めてニコリと微笑んだ。


私はその笑顔にあっという間に引き込まれていた。


 マイは黙ったまま、おもむろにポケットに手を突っ込むと飴玉を3個取り出し、私に差し出した。


「貰って良いの?」


 私が尋ねると、マイはコクリと頷いた。


それが、私たちの最初のやり取りだった。



「あ、エリのレモンスカッシュ…もしかして、あの時の味覚えててくれたの?」


 マイは空になったグラスの氷をストローで回しながら、意地悪そうな笑顔で言った。


「いや…ホントにたまたま」


「なーんだ。つまんないの」


 そう言ってマイは口を尖らせたまま、ぷくーっと頬を膨らませた。


 私はその姿を見ると同時に、マイのフグのように膨れたほっぺを両手で挟んだ。


 ゆっくりと空気が抜けると、マイは満足そうな笑顔を見せた。


「これは覚えてたんだね」


「いや、覚えてたっていうか…」


 私はじっと自分の手のひらを見つめた。


 今はただ、彼女に触れた温もりが懐かしくて、それ以上言葉が繋がらなかった。

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