第12話

「今回はケテル始まりかぁ。逆流かな?」

「え?」

「え?」

Kの言葉に地図を見直す。

「マルクトじゃないの?」

「配置的に、多分ケテル。これ、南北逆配置っぽい。…クリフォトここで方位があるかは解らないけど」

言われて見ればそうかも知れない。見慣れた地図をひっくり返されると解り難い。

「東西南北は存在しません。所在は庁舎を基点としたx,y,zの座標で示されます。これは何処の地区でも同様です」

地図が庁舎の図面に切り替わる。四方に突起物があり、それがx軸とz軸の方向を表しているようだ。

「座標、地区ごとなの?」

「はい!各地区は独立して球形に閉じています。界層が異なるので、経路を用いない移動はできません」

「世界限界があるってこと?」

「はい!世界限界は海の形で視認できます」

「それで、空にも海が見えるのか…」

「そういうことです!」

物理法則はしっかりしていると思ったが、ダァトと比較して、というレベルだったらしい。いや、その形で視認できる…という表現だったから、実際に海に包まれているわけではないのか。aにはよく解らない。

「ところで、皆さんの来訪の目的は何ですか?」

その質問への応対はKに任せることにした。

「あー、えーっと…強い玄獣を仲間にしたくて…」

Kは此処に至るまでの流れを話した。そのしどろもどろな説明を聞いて、タウちゃんは頷いた。

「なるほど!ではその貝空の同位体をお探しですね。それならやはり各地区巡ってみるのが良いです!」

「同位…体?」

「はい!」

セフィロートで唯一個体の玄獣が生まれる時、クリフォトにも同等の力を持つ存在が生まれるらしい。それらは融合することもあり、成り代わることもあるという。

『なるほど。例えばグランチェスカだな。あれは成り代わられたのだろう』

「グランチェスカ?」

「そうですね。グランチェスカという個体名を持つ存在はサタリエルにいるそうです。シェリダーと成り代わったと思われます」

「居場所も判るの?じゃあ──」

「残念ながら、我々が把握しているのは古い存在に限られます。お探しの貝空の同位体はまず名前も存じませんし、居場所までは判りません」

「そっか」

「それと、先程も伝えましたが、同位体は稀に融合してしまいます。必ずいるとは限りません」

ジズフの言葉を思い出す。運が良ければ、と言っていた。

「うん、まぁ…とにかく巡ってみるしかないね」

「はい!因みに、あちら側の者が全地区を巡れば世界を変えられると言われています」

「世界を…」

セフィロートでは「願いが叶う」だった。「世界を変える」とは、どの程度の規模の話なのだろう。

「実際にかつて世界は塗り替えられているそうです。とはいえ、あちら側のことなので我々には詳細は解りません」

「世界の変革は望んでないけど、それは、何かルールを書き換えられる…ってこと?」

その言葉に、aはハッとしてKを見た。

「我々には詳細は解りません。そのような解釈も出来るかも知れません」

例えば、何か玄霊戦に有効な手を作り得るかもしれない。

「煌力で発狂しない世界にする、とかね」

「可能不可能は我々には解りません。やってみれば判ります」

「おーけー、ロマンがある」

世界を巡る目的を得た。

「ところで…」

aは辺りを見渡した。ここは案内された庁舎の一室。会議室のように見える場所だ。なので、まだ確信には至らないのだが…

「この世界って、ひょっとして人いない?」

「人、の定義にもよります。人型を取るものは沢山いますが、ヒューマンはあなた達が初めてです。僅かに種族の異なるホーマサスや魚は訪れたことはありますが、住民ではありません」

「魚!?」

『今で言う有翼種かな』

「有翼種、魚類だったの!?」

「魚と呼ばれる人種であり魚類ではありません。翻訳に不備があったのでしたら訂正します。有翼種、というのですね!」

ちょっとドタバタしたが、察するにやはり人間はいないのだろう。だが此処に来るまで、人間に限らず、なんの生き物も…なんならロボも、見ていない。

「人類以外であれば、居ますよ。この会議室にも一体。あちらでデスクワーク中です」

「え!?」

慌てて示された方を見るが、何か居るようには見えない。

「あ、いや、ぼんやり?」

Kが目を眇める。真似してジッと見てみると、段々ぼんやり何か見える気がしてきた。

「なるほど。来たばかりですので、感覚器の調整が出来ていないようですね!その内適応します」

居ると言うなら…と、aは意識を切り換える。構えてみれば、姿は漠然としていても気配は確かに感じられた。

「よし、イケる」

「イケなーい!」

aの気配探知によれば、デスクワークをしていた何者かは作業を止めこちらを見ている。立ち上がり、近寄ってこようとしている。思わず身構える。

「バチカルが興味を示すのは珍しいですね!…関わりがあるのですか?」

「…あ!?らいおん…?」

見えたのか感じたのか予想がついたのか、Kが声を上げた。

「ライオン?」

『ケテルの守護獣の同位体か、なるほど』

そういえばaはケテルの国家守護獣とは面識がない。さきの事件の折、チラリと話にだけは聞いた気もするが、そのくらいだ。

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