060

 それから約一ヶ月。新しいドレスを作ったり、貰ったりしながら十数件のパーティや食事会に出席し、オーキンドラフ様やベガルーニ様の紹介で貴族達と顔を繋ぎ。何とか問題を起こさず無事に社交シーズンを終えることが出来た。

 自分が結婚する披露宴ひろうえんで祝福を贈られるのはとても恥ずかしかったし、未だに結婚する事に想像が沸かないけど悪くない気分だ。

 パーティでも遠回しすぎて気付かなかっただけかも知れないけど、聞こえる範囲では陰口も無く。比較的過ごしやすかった印象だ。

 むしろオーキンドラフ様に魔法師団に所属する貴族達を紹介された時のほうが困った。


「これがあの全身鎧の。噂の身体強化を見せてくれんか。何?許可など後から取れば良い。」

「凄まじい魔力量だな、間違いなく私の数倍はありそうだ。どの様な訓練をしておるのだ?ぜひ魔法師団に訓練内容の共有をして欲しいのだが。」

「それだけの魔力量を持っているのなら魔法師団に入るべきであろう。なに?出力が足りない?そんなもの訓練すれば増えるから心配はいらん。

 そんな事よりもその大量の魔力でより効率的な訓練の研究をだな…」


 などなど、会うたびに入団勧誘と研究協力を頼まれ、しばらくは忙しいからと断り続けるのが大変だった。

 訓練法の研究には少し興味があるけれど、長々と王都に滞在する余裕も無いし、オーキンドラフ様を通して教えるくらいで丁度いいだろう。


 あと大変だったのは社交界デビューの若者が集まるパーティだろうか。

 オーキンドラフ様と一緒に行けなかったのがわざわいして、ダンスの誘いどころか結婚の申し込みまであり。断るのが大変だった。

 爵位が上の方達が多くてダンスを断れなかったのも悪かったんだろう。いや、踊っている間は新しく声をかけられないから助かってたのかな?

 人気だったのは私だけではなく、新しく貴族になった同期達や新しく貴族家を立ち上げた貴族の次男や三男なんかも同じ様に群がられていたので、デビュタント達には狙い目だと思われていたようだ。

 私の婚姻はすでに国王様からの許可を戴いているのでくつがえることは無いのだけど、そこまで詳しく知っている者も少なかったのだろう。


 一番面倒だったのは自分の派閥を考えなければいけない事か。

 辺境伯様は領地貴族派で、魔法師団は国王派なのでオーキンドラフ様は領地貴族派と国王派にまたがる中立派なのだ。当然私も結婚したらそこに所属する事になるのだけど、貴族として取り立ててもらったのは辺境伯様なので、今は領地貴族派に所属しているらしい。いつの間にか。

 王国騎士団と文官は貴族派と国王派に分かれているので、親しくなる時には派閥に気をつけろ。と、注意を受けたのだけれど覚えきれない…同期達は全員、王都から遠い領地を貰い領地貴族派と見られているのが幸いかな。

 そういえばドレスの元の持ち主であるメルノークトープ子爵婦人にもお会いした。

 聞いていた通りとてもふくよかな方だったのだが、お年を召されて大分お痩せになったと聞いた時は思わず2度見をしてしまった。

 優しい雰囲気の方で、母達の努力の賜物たまものであるドレスのアレンジも褒めてくださったのがとても嬉しかった。


 王都でしなければならない事も終わり、今後は一度騎士爵領に戻った後に輿入こしいれになる。

 貴族として使える様な荷物なんて、鎧とドレスしか持っていないから戻る必要もないのだけど、一応別れを済ませることが大事らしい。

 まだチタンを扱える鍛冶師がゴードンさんしかいないからちょくちょく帰ることになるんだけどね。

 連れて行くのは護衛役のリフテットとオーキンドラフ様に借りた兵士2人と、馬の世話と馬車の御者をするマクミールだけで。デガート達や新しく雇った門番などの人員は留守番だ。

 側仕えも必要なんだけどリフテットに兼任してもらう事にした。

 記憶を失っていても慕われていた人柄は健在なのか、人手不足で便利に使っていたら私が手放せなくなってしまったんだ。

 細やかな気配りが出来て頭も良く、訓練にも付き合ってくれて、私よりも貴族の習慣や名前に詳しいとても優秀な侍女兼従者となってしまった。

 訓練で斧を向けた時には少し取り乱していたが、戦鎚なら大丈夫なようだ。後ろめたくはあるけど、代わりが見つかるまでは記憶を取り戻さないで欲しい。

 騎士爵領への帰り道は、新しく買った戦馬に乗りつつ、疲れたら馬車に乗るという乗馬の練習が出来るので、行きよりは暇つぶしも出来そうだ。

 何よりも面倒事がほぼ終わったという開放感で帰りの足はとても軽かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る