73.毛刈りされるリュシー

 用意したブラシを放り出し、コリンヌにハサミを手配してもらう。あちこち探した結果、庭師の剪定ハサミを借りた。手入れがされ切れ味の良い刃物を手に、リュシーの毛を切る。開くと肘から先くらいの大きなハサミが、じゃきんと音を立てて焦げた毛を落とした。


 リュシーは背中が気になるのか、時折振り返ろうとして私に叱られる。


「ダメよ。あなたがいけないの。どうして焦がしちゃったのよ」


 叱られるたびに、言い訳じみた鳴き声が放たれる。その内容を纏めた結果、赤いドラゴンと追いかけっこをした事実が判明した。彼が溶岩の噴き出る火口に首を突っ込んだので、真似をしたらしい。熱くて途中でターンしたらからかわれた。腹が立って追い回した結果、気づいたらあちこち焦げていた……と。


 なるほどと納得する前に、赤いドラゴンに文句を言ってやらねばと思う。赤竜は推定二百歳以上だが、リュシーはまだ二十年未満だ。私が拾って育てた卵の子は、鳥でいう雛だった。見た目は大きくなっても、幼子以下を危険な場所に連れて行くなんて!


 降りてきなさいと叫んでも、叱られると察した赤竜は頭上で旋回するだけ。むっとして、睨みつける。ようやく降りてきた。本当に怒ってるのよと示せば、彼らには伝わる。


 舞い降りて、翼を畳んだり開いたり。羽毛もないのに、羽繕いの真似をして、ちらちらと私の表情を窺った。巨体の竜が癇癪を起こして暴れれば、私など簡単に潰れる。それなのに、叱られた子供の顔が母親の顔色を窺うような仕草で……おかしく思えてきた。


 表情を緩めないまま近づき、じっと見つめる。睨み合う間にも、リュシーの背中の毛皮は整えられていった。コリンヌがハサミを借りる際に声をかけたので、庭師達が手伝いに駆けつけたのだ。


 じゃきん、じゃきん……手際よく刈られるリュシーは、怖くなったらしい。しょんぼりと背中を丸めて蹲ってしまった。


「なんで叱られるかわかる? リュシーはまだ卵の殻をつけた子供なの」


 ぎゃあ! 反論する赤い竜の鼻先を、拾った木の棒で叩いた。私はかなり全力で振ったけれど、鱗に守られるドラゴンにはかすり傷もつかない。ただ、叩かれたことに衝撃は受けたようね。


「飛べるからって大人扱いはダメ。前にも叱ったでしょう」


 叱られたのは青い竜だった。毛皮が気になったのか、啄んで抜いてリュシーを泣かせたのよね。あの時も私が叱ったわ。それを見ていたのに、またやるなんて。腰に手を当てて睨む私に、赤い竜はぺたりと顎を地面につけた。詫びの姿勢だ。


「謝罪は受け取るわ。ちゃんとリュシーにも謝って、仲直りしなさいね」


 ぎゃっ! 了解を示す鳴き声に、満足して頷いた。さて、うちのリュシーの毛はどうなったかしら? 振り返った先にいたのは、毛刈り後の羊に似た毛なしドラゴン。おかしいわね。毛皮はないのが標準なのに、なんだか見窄らしくなったわ。

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