第51話 一家


これが、2章「迫りくる危機たち」最終話となります。

前回あと2話って言いましたが、意外とまとまってしまいました。



ーーーーー



 今日は、魔王建国歴8903年1月1日。

 あけましておめでとうございます、と言う文化は残念ながらなかったので、リエを曖昧に誤魔化した。


 今夜は一家全員が集まる。

 新年だからではないし、ロイリーの婚約者レイバンス様のお披露目でもない。

 ハイカル家の陞爵のお祝いのパーティーである。

 父方からは前男爵当主(祖父)、前男爵夫人(祖母)。弟君と妹君もいらっしゃるそうだが都合がつかなかったらしい。

 母方からは叔父アイクとその家族。

 使用人総出でパーティーを成功させると意気込んでいた。


「お嬢様、そろそろ着替えていただきませんと」


 騎士志望の侍女コノンにかけられた言葉に私はキョトンとした。


「え? なんで私が着飾るの?」


 単純な疑問だった。

 身内のパーティーなんだから普段着でいいと思っていた。


「パーティーですし。ね、リエ様?」


「ええ、ミュラー様は大変可愛らしいのでこのままでもよろしいですが、せっかくですからぜひしてくださいませ」


 息継ぎせずに長文を言い切った侍女長は、もはや私の応援団長と言ってもいいだろう。


「あなたたちの熱意は伝わったわ。好きになさい」


「かしこまりました」「はい!」






 5の鐘が鳴った。

 パーティーの始まりの合図である。

 ホストである私たちは大広間の中でそわそわしていた。


 形式は立食スタイルというもので、様々な種類のメニューを好きなように取って、いろいろな人と交流することを目的としたものだ。

 私だけ気を遣われて椅子が用意されている。


 開会の宣言とかもないらしく、私は一時的に帰ってきた姉ロイリーから離れないことを決めた。

 作法を間違えることはなさそうだしね。


「ミュラー、くっつきすぎじゃない? 手紙は送っていたでしょ?」


 ロイリーは袖をつかむ私に言った。


「久しぶりのお姉様から離れろと? なんて酷な試練なのでしょう!」


 大袈裟な身振りも交えて悲しみを表現する。

 すると、彼女は私を撫でてくれた。


「ついてきてもいいけど、挨拶はしてね」


「はい、了解です!」


 席を立った私たちが向かったのは、叔父一家のところだった。

 先の件でアイクにはお世話になったからである。


「ご機嫌よう、叔父様」


 ロイリーが軽く足を引き挨拶した。


「お久しぶりにございます、ロイリー様。ミュラー様は1ヶ月ぶりといったところでしょうか」


 アイクは腰を折ったあと、私に話しかけた。


「はい、そうですね」


「ミュラーは叔父様にお会いしたことがあるの?」


「伯爵邸の会議室に参ったときにですね」


「……そういうことね」


 すると、アイクの妻とみられる女性が深く頭を下げた。


「ロイリー様、ミュラー様、お初にお目にかかります。アイクの妻マリーと申します。お見知りおきを」


「初めまして、叔母様。姪のロイリーです」

「同じくミュラーです」


 マリー叔母様はお子を連れてきていた。


「息子のキアンと娘のアンです」


 一瞬マリー=アントワネットが思い浮かんだ。

 この世界にこの名前で有名な人なんていないから偶然なんだけど。


「お初にお目にかかります、ロイリー様、ミュラー様。キアンと申します」

「え、えっと、アンです! よろしくお願いします!」


 キアンは私とロイリーの間くらいの年齢だ。少し大人っぽい。

 対してアンは、弟カイレーより幼いか。かわいくてよろしい。


「そんなに気張ることはないわ。従姉妹なのだし呼び捨てでいいよ」


「そ、そんな、畏れ多いです」


 とビクビクするキアン、両親の顔色を伺ったアン。

 キアンに自分を重ねてしまう。


「お兄ちゃん、お父さんもお母さんもいいって言ってるよ?」


 彼は後ろを振り返り妹の発言を確かめた。


「なら、お言葉に甘えて。……ミュラー、ロイリー」


「よくできました、キアン」


 私は頭を撫でてあげた。

 入院時代に小さな子と仲良くする方法は実地で学んだ。

 彼は驚いたけど、もじもじしながら目を閉じた。


「アンも撫でてほしい?」


「はい!」


「元気な子ね。来なさい」


「ありがと、ねえね」


 生暖かい視線を3つ分、私は知らないふりをした。

 ……お姉様も混ざればいいのに。







 叔父一家との挨拶を終えたら次は祖父母だ。

 ちょうど両親が歓待している会話が聞こえてきた。


 美味しそうな食事を食べられないことにショックを受けながら近づいていく。


「それでそのときにミュラーが……おや噂をしていたら当人が来たようだな」


 なんで私の話をしていたんだろう、と思いつつ、同時に片足をひいた。


「お久しぶりにございます、お祖父様、お祖母様。お元気でしたか」


 代表してロイリーが話している間、私はカーテシーを続ける。

 ドレスの裾を意味もなく見つめながら、彼女たちの話を聞いた。


「久しいの、ロイリー。何年ぶりだったかな」


「父上、9年前かと存じます」


 祖父らしき声のあと、ケイリーの解説が入った。

 つまりロイリーに話しかけたご老人は、前男爵である。


「おおそうかそうか。そんなに経ったか。そりゃこんなに成長するわけだ」


「ありがとうございます」


「父上、次女を紹介します。ミュラーです」


 カーテシーから直り姿勢を伸ばして、口上を述べた。


「お初にお目にかかります、お祖父様、お祖母様。ミュラーと申します。お目にかかれて嬉しいです」


 最後につけ足した言葉は柔らかめにしておいた。

 いくら身分社会でも、私たちは祖父母と孫娘だからだ。


「わしもようやく会えて嬉しいよ。此奴こやつが全く会わせてくれんかったんじゃ」


「父上……」


 いい父子だ。


「私もそう思うわ。ばあやになるまでなんで隠していたの?」


「母上は理解してくれると思ってましたのに、とても残念です。そもそも父上も母上も隠居の身でしょう」


「「隠居すると孫に会っちゃいけないの(か)?」」


 返事が重なるので、私はクスクス笑ってしまった。


「お祖父様もお祖母様もお父様と仲がよろしいのですね。少し安心いたしました」


 これなら嫁姑問題も大したことなさそうだ。


「あなたは私たちのことを心配する必要なんてないのよ? 自分のことだけ考えていなさい」


「……お祖母様、ありがとうございます」


「お義母様も安心してご隠居なさいませ。ケイリー様と私で子爵家を必ずお守りいたします」


 決意のこもった目で夫の手を握り、アマリはそう宣言した。


「心強い嫁だこと。もちろんあなたたちに任せているわ。ねぇあなた?」


「君たちのおかげでわしらは隠居できておる。毎日感謝してるさ」


「お父様もお母様も私たちにとっては自慢の両親です」


 ロイリーも続いてそう言った。

 最後に私に視線が集まった。

 ……もう、飢饉のときのスピーチのせいかしら。


「再来年、私は学院に入学します。ここからは離れることになります。でも、王都でなにがあっても家族の暖かさを胸に頑張っていきたいです」


 そして家族全員の目を見て満面の笑みを浮かべた。


「お姉様、お父様、お母様、カイレー、お祖父様、お祖母様。みんな大好きです!」


 この場にはいないけれど……もちろんリエもコノンも大好きよ。






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2章の最後までお付き合いいただきありがとうございました。

次にお会いするのは来年度ですが、それまでこの作品を忘れないでください。

「この後のミュラーも見たい!」という方は、いいねと⭐︎評価もよろしくお願いします! できればコメントも残してください。

また、他のユーザー様にも「ぜんわかを知ってほしい!」というコアなファンの方は、レビューもよろしくお願いします!


リエ「ミュラー様を忘れるなんて……あり得ませんよね?」

ロイリー「次はミュラーの学院編だよ」

コノン「それって私の出番あるんでしょうか?」

アマリ「ついに娘たちが2人とも学院へ行くのね……」

ケイリー「まだ親離れしないで」

ミュラー「しませんよ、お父様。じゃあ、みんなまたね!」

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【2章完結】前世で若くして病死した私は、今世の持病を治して長生きしたいです[ぜんわか] ルリコ @rorico08

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