野分過ぐ異郷に当てもなき中年

季語 野分(秋・天文)


野分とは、台風の呼称。野の草を吹き分ける、強い風の様子を表している。



出張で泊まっているホテルの一室から、見知らぬ街の風景を眺めている。


ちょうど台風が過ぎ去って、窓の向こうの空気は、雨に濡れた湿り気と風のざわめきを含んでいる。


おかげで暑さも少し和らいで、外出して飲み歩いたりするにはちょうどいい気候なのだが、それも何だか億劫で、煙草を燻らせながらぼんやり本をでも眺めて過ごす。


知らない街に来て何だかワクワクするような心の若さが、今日は足りない。仕事の疲れから?それとももう何日も家族と離れて過ごしている淋しさから?


気の乗らない鬱屈とした時間が、なんだか自分がすっかり中年であることを、痛く自覚させる。



野分過ぐ異郷に当てもなき中年


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俳句とエッセイ 2024 八月 石塊 @takagisekikai

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