第12話 朝食
しばらくして、案内役を任されたポレが来た。僕が魔王になったと知ってるようで、オルサバトルと同じように玉座の前で腰を落とし敬礼した。
「お待たせしました、エース様」
「おはよう。それとエースでいいよ。特に君にはこれから色々教えてもらおうと思ってるんだから」
「もったいないお言葉です。不肖ですが、ポレ精一杯頑張ります」
「頼んだのは城の案内だったね」
「承っております。どうぞこちらへ」
ポレが慇懃に手をエレベーターへ差し向ける。早速行きたいとこだが、僕はさっきラスタと朝食を食べる予定をしてしまった。
「ポレ、その前に飯にしようか。ラスタも今から用意するって言ってるんだ」
「それはいいですね。私もご一緒させていただきます」
「うん、来るといいよ」
ラスタも出てきて僕らは食堂のある場所へ向かった。この玉座の間からかなり下に降り、廊下を出てすぐのところにあった。特別遠いわけではないが、実際移動してみると、ホテルに来ているみたいで、この間は少しわくわくした。しかし、これが毎日続くとなると面倒に感じるのかな。面倒くさがりの僕らしい悪い癖だ。
食堂は特別豪華な装いをしているわけではなく、煉瓦がむき出しの壁に囲まれ、ランプが控えめに照らし、十人くらい座れる大きなテーブルがあって、すぐそばに厨房がある。
厨房にラスタが入るのを見届けていると、もう一人の初めて見る魔族がいた。見た目は例外なく人間そっくりだが、髪の色はラスタやポレのような紅ではなく、色が薄い黒髪だった。
(彼女がラスタの言っていたメイドのクレエペンか)
なるほどたしかに、着ている服装もエプロン姿でメイドらしい。他の彼女たちの際どい装甲とはちがい素朴な感じがする。
僕とポレは先に席に座って料理を待っていた。
「あの子がクレエペンだね」
「そうです。彼女はここの唯一のメイドです」
「さながらコックだね」
「調理も担当しますが、他にも掃除や言伝の任も任されてます」
「そんなに?この広い城をたった一人で?――それは、大変だ」
「ですが、こうしてラスタ様も自ら調理を手伝われたり、掃除と言っても、我々が使う部屋は限られていますし。それに彼女は真面目なんです。何を言っても嫌とは言いませんから、そこは私も見習いたいですね」
「君たちは本当によくできた子たちだよ。全員と結婚したくなっちゃうな」
感心して、つい本音が漏れた。ポレは顔を伏せて照れ隠ししている。彼女も素直でかわいい。僕は人づきあいとか、コミュニケーションは大の苦手だけど、ここは本当に心地いい。特別贅沢なものに囲まれているわけではないのに、この男の欲が満たされていく感じがたまらない。これがリア充ってやつなのか。自分の事じゃない、他人のために生きたいと思うことがこんな幸福感を生むのか。
「そういえば、他の仲間はいないね」
僕は何気ない一言のつもりで言ったが、途端にポレは暗い顔でうつ向いた。
「みんな朝は遅いんです。自分で軽食を済ませる人もいますし――」
「それはいかんなあ。せっかく作ってくれるのに」
やはり城が広いと移動が面倒になってくるのだろうか。それにしてもさっきのポレの暗い表情がなんか気がかりだった。
そんなことを思ったとき、出来上がった料理が運ばれてきた。朝食だから豪華なものではないと分かっていたが、出てきたのは、固そうなパンに、スープ。いたって庶民感漂う質素なものだった。ただ、スープの方は具もたくさん入っていて、美味しそうだ。僕は一口飲んで、唸った。
「うん、美味しいよ」
「前の椅子に座った二人はそれを聞いて笑顔をみせた。
「それは私とクレエペンの特製なのよ。喜んでもらえてよかった」
食事を済ませて、僕は立ち上がった。ラスタたちはまだ片付けもあるので、僕とポレで城を見回ることにした。
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