第11話 朝の宣言



 窓から光が差す。目が覚めた僕は、ふと隣を見た。寝息を立てるラスタの顔がそこにはあった。彼女をそのままにして、僕は部屋を出た。あらかじめ暖炉で火をつけた煙草をふかしながら、玉座のある間にでると、待ち構えていたかのように、オルサバトルが起立していた。その勤勉ぶりに僕は驚きつつ、どっかりと席に座った。


「やあ、おはよう。――ずっとそこにいたの?」


「いえ、もうそろそろ起きてこられるだろうと思いまして」


彼女は淡々と答えた。


「タイミングはばっちりだよ。怖いくらいね。どこかで覗いていたりして――なんてね」


 僕は冗談を飛ばしたつもりだった。


「ええ、それはもう――」


 するとオルサバトルは前髪をかき分けて、右目をよく見せた。目は赤く煌めいて、鋭く光った。


「この魔眼で、魔王様のことは部屋の鏡を通して、常に見ておりますので」


「え」


 思わず肝が冷えたが、すぐに煙草でごまかした。もしかすると昨日の脱走も見られていたのかもしれない。それを知ってか知らずかオルサバトルが尋ねてきた。


「昨晩はよく眠れましたか?」


「うん――昨晩はすばらしい夜だった」


「それはよかったです」


 僕は意を決して、煙草を捨てた。そして宣言する。


「僕は魔王になるよ」


 その言葉に彼女は一瞬目を輝かせた。そして厳かに姿勢を落とし敬礼の態度をとった。


「かしこまりした。エース様」


 彼女の態度を見て、なにかお腹がくすぐったくなるような、妙な快感がよぎった。これが人の上に立つことか。なんだか社長になった気分だ。いや、魔王と配下ではそれ以上かもしれない。

 オルサバトルは姿勢を戻して僕に言った。


「それでは、今晩は就任を祝う会を開きましょう」


「うん――」


 会と言っても、堅苦しいものではなく、酒と料理が出る酒宴のようなものらしい。僕は昔から誰かに祝われるのは苦手だった。今日の主役などと言われ、視線が集まるのが照れくさいのだ。でも魔王になったのだから、出席して配下に威厳を示さなければ。


「よしよし、僕も楽しみにしておこう。――ところで、僕はこれから何をすればいい?」


「そのまま座っていてください。用があればいつでもお呼びください」


「それは困る。僕はここの事は何もわからない。それに退屈だよ。退屈だな、魔王ってやつは」


「それでは、会まで時間もありますので、ポレに城を案内させます」


 そう言って彼女は一礼してから去っていった。

 ふと、ラスタのことが気になった。僕が部屋に戻ると、彼女はちょうど着替えを済ませていたところだった。


「おはよう、エース。ご飯は食べる?食堂があるのよ」


「へえ」


 そういえば腹が空いてきた。


「ここの食事は私とメイドのクレエペンの二人で作ってるのよ」


「へえ、君も作るの?」


「クレエペン一人じゃ大変だから」


「優しいんだね」


 ラスタは少し照れて笑いを浮かべた。でも、上に立つものとして彼女の姿勢は正しいのだろうか。僕は魔王はそれぞれの役に指示を出すものだと思っていたが。彼女は魔王にしては優しすぎる。僕は彼女たちの仲に温かいものを感じた。

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