メタバースマルチバース 〜ユニバースディ〜

硝酸塩硫化水素

はじまり

ep1 地図(Road Map)

「ねぇ、ユウくん。何を描いてるの?」


「えへへッ。特別に見せてあげる。どう?カッコいいでしょ!」


「えっと……これはなぁに?」


「象さんの耳と鼻。コウモリさんの羽に、キバは鋭くてギラリと光る。目はギョロっとしててカッコイイなにかの動物さん」


「へぇ、そうなんだ?でも、急にどうしたの?」


「だって、ボク……」



_____



「ディアちゃん、ここが俺達の目的地であってるかい?俺達はここに来たコトがないから、ディアちゃん頼みなんだ。本当にあってるんだよな?」


「はい、間違いありませんッ!ここが正真正銘、ディエーレ山脈の入り口です」


 目の前に広がるは広大な草原。ここが山脈の入り口と言われても納得に足る信憑性もへったくれもないだろう。だが、ここまで同伴しこの地に連れてきた少女の瞳は自信に満ち溢れていた。



「ディアちゃんが言うなら本当……なんだろうな。よし、お前達行くぞッ!準備しろ」

「じゃあディアちゃん。これお代」


「はい、ありがとうございます。確かに銅貨3枚頂きましたッ。また御入用の際は『魔の酒場亭』でお待ちしてますッ」


 こうして銅貨を受け取ったディアは早々にその場を退散する事にした。

 ここまで冒険者パーティーを乗せて走ってきたクルマのエンジンをブルンとかけると、そのパーティーが見ている方向とは逆の方向にハンドルを切り返してその場を後にしていったのだった。



_____



「ディア、どうだった?ちゃんとディエーレまで送れたのかい?」


「バッチリだよ、おかみさん。でも、ディエーレ山脈って山脈なのにどうして草原なのかしら?」


「アンタ……まさか……やったのかい?」


「あ……れ?ワタシなにかやらかしました?」


「はぁ……まったく仕方ないコだねぇ。でもま、ディエーレ山脈に送り届けたコトには違いないから、あのパーティーには申し訳ないが目を瞑ってもらおうかねぇ。でも……エレ、なんかあると困るからサービスでサポートしといてやんなッ!」


「ええぇぇぇぇ、またアタシなのぉ?……ディア、高いからね?」


 おかみさんと呼ばれたこの店の店主に名指しされたエレは、ジト目でディアを睨むと小言を放ち店を後にしていった。

 実際に「おかみ」とディアを除けば、残りの従業員はエレしかいないのだから、当然と言えば当然の采配なのだが、そこは言わぬが花だろう。



 この店はアーレの城下町の外れにある通称『魔の酒場亭』と呼ばれる「何でも屋」だ。『酒場亭』と呼ばれる事から夜は酒場として営業する事もあるが、それは本来の営業種別とは異なる。だからこそ酒場はで営業しているだけと言う事だ。

 よって、店の看板には『酒場』の1文字も入っていない。

 だが、通り名としてはそちらの方が何かと都合が良い。『魔の何でも屋』よりは『魔の酒場亭』の方がしっくり来るし、『何でも屋』じゃ箔がない。だから気分屋おかみの気分次第だろうが『酒場』としての実績さえあれば良かったとも言える。




 この世界には正確な世界地図が存在していない。それは過去から現在に至るまで誰一人として作るコトが出来なかったからだ。

 地図を作れない理由として先ず、海を渡る術が存在していないと言える。何故ならば安易に沖に繰り出せば海獣うみけものの胃袋に収まるのが関の山だからだ。

 更に空を飛ぶ技術も無い。仮に空を飛ぶ何かしらの力を得たとしても、空の支配者たる空獣そらけものの執拗な追跡から逃れる術は無い。

 だからこそ世界地図は誰一人として作れなかった。決してこれまでの先人達がだったと言う事では無い。


 ディア達の住まうアーレの城下町が存在している大陸――『セレスティア大陸』の地図ならば存在しているが、そんな地図ですら一般人が手に入れるのは金銭的に無理と言うものだろう。

 だからこそ、ディアだけが乗る事が出来る『クルマ』の存在は一介の冒険者や旅人にとって無くてはならない存在なのだ。

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