第33話「炎節」

 *


 想定していた通りに物事が運ぶことは、決して多くない。

 

 むしろ少ないと言ってしまっても良いのではないか。


 だからこそ、駄目だった時のための対策をしておくのである。


 のだが。


 今年の梅雨は、流石さすがに想定外であった。


 暑い。


 この時期からエアコンを付けることは、ここ数年珍しいことである。しかし、見事に暑さに身体が付いていけなくなってしまった。雨対策はしていたのだが、暑さ対策は杜撰ずさんだったのである。私も私で、地球環境を舐めていた。かなり天候で体調が左右される性質なので十分な対策を講じていたつもりであったが、それらは徒労に終わった。


 まあだからといって、仕事を休むわけにもいかない。


 幸いなことに、職場までに長時間直射日光に当たり続ける環境ではない(ビルの影などで何とか防ぐことができる)ので、何とか己が職務に従事している。


 そして小説の方は、というと。

 

 相変わらず書いている――書き続けている。


 どうも小説に限定して、私は天候の影響を受けないらしい。どれだけ腹痛頭痛に悩まされていても、小説だけは、書き続けることができるようである。


 予想通りかというと、これはこれで想定外の出来事である。


 てっきり去年のように、暑さにやられて小説が一切書けなくなるという事態に見舞われるとばかり思っていた。


 去年は、本当に何も書けなかったのだ。


 ネットに投稿する小説数を鑑みるとそうは見えないかもしれないけれど、公募小説新人賞に応募した数が、去年と今年で、既に6月の時点で2倍以上差がある。


 その状況を思い出して、ああ、私も人間なのだな、と思ったものだったが――どうやらそれは一過性のものであったらしい。


 まあ、いくら書けたからといって、必ずしもそれが評価されるとは限らない。


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、ということわざがあるけれど、こと小説に関して言うのなら、その言葉は通用しない。面白くない小説を量産したところで、それはただの面白くない小説として下読みの段階で落とされるだけである。


 元来小説は、書き終えた作品数や1日に書けた文字数を競うものではない。


 ならば小説の――作家志望の神髄はどこにあるのかとえば、それは。


 


 なのだと、私は思っている。


 あくまで、私の考えであるが。


 見方を変えれば、続けることができるということは、それだけの環境に恵まれている、ということでもある。

 

 エアコンという文明の利器に頼りながら、執筆と仕事に従事できることに感謝しつつ。


 体調をおもんぱかって、このえんせつの中を、生き抜くとしよう。




(続)

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