第24話「撞着」
*
スランプに陥った。
小説が、まともに書けなくなった。
人によって、その従事する事柄によって、スランプの種類があるだろうが(創作友達が一人もいない私には、その種類というものが全く分からないのだが)、私の場合は、「全く書くことができなくなる」という状態に陥る。
書く気力はあるのだが、一文字たりとも、文字が進まない。
脳の中の、物語を出力するためのインクが枯渇してしまったように。
書こうとしても書こうとしても、打鍵の手が止まってまともに動いてくれない。「新規ワードドキュメント」という名称の、冒頭のアステリスクを付けたファイルと、プロットだけが延々と増えてゆく。
これがもし、「書くことができるけれど納得のいくものが書けない」などという状態ならば、後々立ち直った時のために、書いたものは絶対に無駄にはならないけれど、私の場合は、それができない。文字通り一文字も書けないのである。何か脳髄の、小説の執筆に関わる部分が狭窄されたように感じてしまう。
まあ、「小説に関わることが全てできなくなる」という訳ではない。実際、プロットを書くことはできている(プロットとは、
困るのは、賞への応募が止まることである。
世には新人賞だけでも、意外に数がある。私のような作家志望は、仕事の合間に、書き終え、推敲(10回以上は推敲するようにしている、少ない方だと自負している)をし、応募要項をよく確認した後、出版社に送信・郵送する。そんな日々を繰り返している。
公募小説新人賞に応募し、そこで何らかの結果を出すことが、今の目標である。しかし、こんなところで
もし、小説を書くことを仕事としていて、書けなくなったら。
無論、夢物語だとは自覚している。ただ、もしそうなった場合、スランプなんて言い訳は通用しなくなる。自分の小説が、売り物になるのである。そしてそれに携わる人々は、趣味ではなく仕事でやっている。出版、編集、印刷。多くの人が関わってくる。
スランプなんて言っていられないだろう。
読者が、いるのである。
楽しみにしてくれている人が、いるのである。
「書けなくなりました、んじゃ、作家辞めます」
それが、簡単には通用しない世界にもなってくる。
そういう世界で生きている人々の土俵にすら私は立てていない――にも
以前書いたかもしれないが、小説は「一人で」書くことができる。
デビューしたならば、出版社の方とのやり取りや相談、意見交換などもあるかもしれないけれど、そうなるまでは、一人である。
こういう場面では、しばし「自分との戦い」として、葛藤する己を客観視したつもりになって競争心を燃やそうとするけれど、私はそうはしない。その結果として得られるものはないと、知ってしまっている。
これは戦いではない。
故に、勝ちも負けもない。
できない自分でも、駄目な自分でも、書けない自分でも、そんな自分もここにいても良いんだと、受け入れる。
まずはそこから、私の物語を始めよう。
再始動である。
(続)
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