第2話 シルビア



 ひび割れた真っ白な少女の像はメイド服の少女の人形に生まれ変わった。


 着ているメイド服はロングスカートのクラシカルタイプ、ブロンドの髪はシニヨンヘアで纏められていた。俗にいう正統派メイドがそこにいた。


 ひび割れてボロボロだった顔は傷ひとつない滑らかな白い肌に生まれ変わり、こちらを見据える瞳は澄んだ青色をしていた。


 姿形が変化したのはゴーレム化したからなのだろうか。そして何故メイドなのか。わからないことが多いがとりあえず成功したから良しとしよう。



 メイド服の少女はタクトの目の前までやってくるとスカートの裾を摘み片足を軽く曲げる。メイドが挨拶する時にやるやつだ。確かカーテシーと言ったかな。


 タクトがそんな事を思っている間、メイド服の少女は表情を崩さずジッとこちらを見つめていた。


「ごめん、挨拶がまだだったね。俺は灰原タクト、君のマスターだ。よろしく」


 タクトが挨拶をするとメイド服の少女はペコリと頭を下げた。


「あとは…そうだ、名前。名前を決めないといけないな。うーん、シルビアなんてどうかな?」


 メイド服の少女改めシルビアはサムズアップして応える。先程とは違いリアクションが急にフランクになり驚いたがどうやら気に入ってくれたようだ。



「あー、そういえばゴーレムって登録しないとマズイんだっけ」


 レアアイテムを手に入れて興奮した勢いで行動した為、後のことを全く考えていなかったタクト。


「うーん、この辺にダンジョンセンターあったかなぁ」


 調べてみると自転車で十分程の所にダンジョンセンターがあることがわかったので向かうことにした。


 自転車に乗るタクトと後ろの荷台に立ちタクトの肩を掴むシルビア。


 ゴーレムとはいえカバンに入ってもらうのも忍びないのでこのような形になった。人じゃないし多分大丈夫だろう。




 目的地のダンジョンセンターに到着する。


 ダンジョンセンターは大抵役所の近くに併設されていてタクトが向かう場所もその一つだ。


 受付を済ませ順番を待つタクトとシルビア。


 移動中も薄々感じていたがどうやらシルビアは目立つようだ。周囲の視線を集めていたが当のシルビア本人は全く気にしていない。


 人型の従魔で女の子は珍しいと聞いていたがここまで注目を集めるとは思わなかった。


 待っていた時間は十分もなかったがとても長く感じた。


 周囲の視線には晒され続けてはいたが話しかけられることはなかった。他人のスキルやアイテムなどを聞くのはマナー違反とされているからだ。



 個室に案内され従魔登録の手続きを始める。


 書類を書き終わるとスキル鑑定を行う。アイテムによっては使用するとスキルが変化する場合があるからだ。


 鑑定するとタクトのスキルは『ガチャ』から『ゴーレムマスター』に変化していた。


 スキル『ゴーレムマスター』はその名の通りゴーレムに関するスキルでゴーレムの使役はもちろんのこと、強化や改造を行うことができる。


 このスキルの特徴はゴーレムの核でしか入手できないということ。理由は不明だが他のテイマー系スキルとは違い最初から所持している者は今まで確認されていない。


 しかしこのスキルはゴーレムの核さえ使用すればスキル変更できる上に従魔を無傷で手に入れられる。その為ゴーレムの核は人気があり高額で取引されていた。


 タクトは迷わずゴーレムの核を使用したがその選択に後悔はない。大金に興味がなかった訳ではないがガチャとはいえ自身で手に入れたアイテム。自分で使うのが正しいと思ったからだ。


 隣で静かに座っているシルビア。


 彼女とのこれからの生活はきっと今までより楽しいものになるだろうという確信がタクトにはあった。







 無事手続きを終えたタクトとシルビアは帰宅する。


 ひとまず最優先事項を終えホッとするタクトだが問題はまだ残っていた。


 明日から大学に行かなければならない。その間シルビアの事をどうするか。


 流石に一緒に授業を受ける訳にはいかない。それに大学に連れて行くとなると今日以上に騒ぎになるのは確実だろう。


 通常従魔はダンジョン外では亜空間に転送されるのだが、シルビアのようにダンジョン外でも活動できる従魔もいる。ゴーレムが人気なのはその辺も含まれている。


 シルビアも一応亜空間に送る事が出来るのだが拒否されてしまった。


 タクトとしてはシルビア本人の意思をなるべく尊重したいと思っているので無理強いできず悩んでいたが、その問題はとある人物により解決した。




 翌日。


「それじゃあ、いってきます。シルビア、ミコトさんの言う事ちゃんと聞くんだよ」


 シルビアはサムズアップして答える。


「ミコトさん、シルビアの事お願いします」


「おー、いってら」


 気だるげに返事するボサボサの髪にジャージ姿の女性。彼女はタクトの叔母でこのアパートの大家、灰原ミコト。


 シルビアの事をミコトに相談したところ、タクトが大学に行っている間シルビアの面倒を見てくれる事になった。




「シルビア、ミコトさんただいま」


「おかえり〜」


 大学から帰って来たタクトをシルビアとミコトが出迎える。


 シルビアの様子を聞くとアパートの掃除など家事手伝いをしていたそうでその働きぶりはプロレベルとのこと。メイド姿は伊達ではないらしい。


「いや〜、シルビアちゃんのおかげで大助かりだよ」


 ベタ褒めするミコトの横でダブルピースするシルビア。身内とはいえいきなり他人に預けることになって心配したが問題なかったようで安心した。



 部屋に戻ると今日の出来事を身振り手振りで説明するシルビア。タクトはその一つ一つを褒めるとシルビアはとても嬉しそうにしていた。


 不意にシルビアがタクトに抱きつく。魔力補充のようだ。


 ゴーレムは主人からの魔力供給で活動できる。パスが繋がっているので密着する必要はないのだが悪い気はしないのでシルビアの好きにさせている。




 毎日欠かさず回していて身体の一部となっていたガチャスキルは無くなってしまったが不思議と後悔はない。


 これからシルビアと過ごす日々は今まで以上に楽しくなるだろうという予感があったからだ。




























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