第55話 ドリップハニーを如何するの?
「キャンディさん、いますか?」
「来た」
シロガネとニジナは酒屋キャンディドロップに足を運んだ。
扉のノブに手を掛けると、鍵は掛かっていない。
にもかかわらず未だにOPENになっていない看板。
色々と疑問が湧くが、気にせずに店の中に入った。
カランカラーン!
入店と同時に心地の良い鈴の音。
中は相変らずバーカウンターのような造りになっている。
奥には酒やジュース類の瓶が並んでいて、何処となく雰囲気がある。
「うっ、酒臭い」
「そうだね。えーっと、キャンディさんは?」
「……あっ!?」
シロガネが急に声を上げた。
視線を追いかけるニジナは、カウンターの内側。奥の方に赤い髪をした女性が居た。
上の部分だけ緑色に染めている。確実にキャンディドロップだ。
「キャンディさん!?」
「ああ、えっと、ニジナだっけ?」
「アレ、この間と違う?」
シロガネは違和感に気が付く。
キャンディドロップの雰囲気がこの間と違う。
雰囲気よりも何よりも顔色が圧倒的にいい。
手には水の入ったグラスを持っており、ゴクリと飲み干す。
「あー、美味しい」
「キャンディさん、仕事だからって無理したらまた潰れますよ?」
「うっ、痛い所突くなー。でも、ニジナの言う通りかも」
「ぜ、全然違う!?」
いつもは無心で何にも興味を抱かないシロガネが声に出すくらい驚いている。
それも仕方が無く、キャンディがキャンディらしくな。
唖然としてしまう中、キャンディはシロガネに謝る。
「貴女はシロガネだっけ? この間はごめんなさいね」
「謝られた!?」
「シロガネ、今日はまともなキャンディさんだよ」
「まともな?」
「うん。キャンディさんは現実でお酒に携わっているから、その影響でいつも酔ってるみたい。体はお酒に耐性があるみたいで、お酒が抜けるのも早いけど、回るのも早いから、無理しすぎるとこの間みたいになっちゃうんだよ」
「……面倒な人」
確かに面倒な人なのは確かだ。
けれどキャンディはそれが分かった上で飲んでいる。
とは言え午後になれば話は変わる。酒も抜けきっているおかげか、話がまともに通じる。
「それで、ドリップハニーは採って来た?」
「は、はい。あの、これをどうするんですか?」
ニジナはインベントリから瓶を取り出す。
中にはドリップハニーが入っている。
キャンディに手渡すと受け取って、何やら作業を始めた。
「キャンディさん?」
「なに作るの?」
「コレに薬草を混ぜる。後は舐めやすいように固める」
「「固める?」」
キャンディは不思議な作業を始めた。
蜂蜜に薬草をすり潰して混ぜている。
舌触りが悪くならないよう、最小に細かく刻むと、蜂蜜のドロッとした液体に薬草の葉が散った。
「よし、後は煮立って冷やして固めるだけ」
「もしかして、飴を作るの?」
「あっ、確かにソレっぽい」
「ん? 飴を作るのよ」
そう言いながらキャンディは鍋を用意する。
薬草入りの蜂蜜を用意した鍋に流し込み、木べらを使って煮立てていく。
真下から弱火の炎が炙り、自然の中で生まれた不純物を取り払い、少しずつ伸ばしていた。
「本当に飴を作るんですか!?」
「当り前よ。そのために採って来て貰ったんだから」
「だからって、なんで飴なんですか?」
如何して飴を作っているのか。キャンディらしいと言えばらしい。だって
けれど飴を作る理由はイマイチピンと来ない。
もしかすると、薬草が関係しているのだろうか?
「薬草を混ぜるってことは、誰か病気の知り合いがいるんですか?」
「病気?」
「うん。ゲーム内で受けた傷は、ほとんど時間経過で治るんだけどね、特殊なものになると長期間蝕むものもあるんだよ。そのせいかな、NPCの多くは苦しんでいる人もいるみたいだよ」
あくまでも他人事になってしまうのは、実際に見たことが無いからだ。
けれどVRゲームを普通のゲームと思って
それでも人間は不思議な生き物で、一度得た便利を捨てることができないのだ。
「さてと」
「後は冷やせば完成ですね!」
「これでお終い?」
「「お終い」」
布の上に飴を流した。一つ一つを型に流し込むと、形を留めて形成する。
後は数時間冷やせば完成だ。
キャンディは満足そうに椅子に腰を預けると、ニジナは訊ねた。
「キャンディさん、あの飴はどうするんですか?」
「えっ、もう少ししたら分かるよ」
「分かる?」
「うん。前以って伝えておいたからね」
一体誰に何を伝えたのだろうか?
その答えは三時間後に分かることになる。
ここまでやったんだ。最後まで知る権利があると、シロガネとニジナは待つことにした。
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