第48話 ついに見つけたドリップハニー

 シロガネはニジナを護衛していた。

 いつでも剣を鞘から抜けるように指を掛ける。

 周囲を見回すがプレイヤーの姿もモンスターの姿もない。

 一応安全は確保されているが、警戒は絶対に怠らなかった。


「ニジナ、大丈夫?」

「うん。ちょっと待ってね……よしっ、もういいよ」


 ニジナは目を見開いた。

 何処かスッとした顔をしており、スキルは上手く機能したらしい。

 もちろんシロガネには何が起きているのか分からないが、ニジナの顔色を窺って大丈夫だと判断した。


「ニジナ、なにか分かったの?」

「うん。【探索】は無事に機能したみたい。これで迷わないよ」

「迷わない?」


 そう言うとニジナはシロガネを先導するように前に立つ。

 敏捷性自体は変わっていないせいか、動きはゆっくりしている。

 けれどシロガネは文句の一つも言わず、後ろをチョコンと付いて行く。


「ニジナ、新しいスキルって?」

「【探索】って言う、指定したものが周囲にあるかどうか調べるスキルだよ」

「調べるスキル?」

「うん。立ち止まって目を閉じないといけないから、誰かに守って貰わないとまともに使えないんだけどね。それでも時間は掛かる分だけ、確実に探索できるんだよ」

「へぇ。凄いね」


 シロガネは一言褒めた。やはりニジナは只者じゃない。

 何だか自分のことのように誇らしくなると、無心なシロガネも嬉しくなる。


「えっと、ちょっと待って……」


 ニジナは真っ直ぐな道で立ち止まる。

 この先には再び道が伸びていて、獣道になっていた。

 だからシロガネにはただ真っ直ぐにな道をひたすら進めばいい。そう思うのが筋だが、ニジナは目を閉じて再び【探索】を始めた。


「そうだよね……ここをこう行って……でもそれだと。待って、この先は危険だから……うん、やっぱりここから左に進んだ方がいいかも」

「ニジナ?」


 ブツブツ独り言を呟くニジナをシロガネは心配そうに見つめる。

 顔色が険しくなり、如何やらこのまま真っ直ぐ行くのはダメらしい。

 一体何がダメなのか。ニジナにしか分からないが、良くないことが待っていそうだ。


「シロガネ、こっち行こう」

「こっちって、道が無いよ?」

「無くても進もう。そのための道は私達が作るんだよ」


 ニジナはカッコいいことを言っておきつつ、つまるところ道なき道を進む。

 そのために背中に背負っていた盾を突き出す。

 如何やら左に逸れるらしく。草木がわんさか生え切っていた。


「ニジナ、なにして……」

「【風属性魔法(小):ウィンド】!」


 ニジナは【風属性魔法(小)】を発動した。ニジナが元々持っている魔法スキルだ。

 今までは空いている片手を突き出して魔法を唱えていた。

 けれど前回以上に高速で魔法が唱えられ、しかも自慢の盾から放たれる。その威力は桁違いで、補正が加わっているとしか思えない破壊力だった。


 ドッカ―ン!


 けたたましい轟音が風切り音と共に鼓膜を貫く

 ニジナは歯を食いしばり耐え、シロガネはまるでノーダメージ。

 完全に無心でやり過ごすと、先程まで草木が生え揃っていた森の中に、新しい道ができあがる。


「ニジナ、凄い。カッコいい」

「ありがとうシロガネ。それより急ごう。正直今の轟音で、この先にいるモンスターが近付いて来ちゃうかも」

「この先にモンスター? なにも感じないけど」


 ニジナとしてはこれだけの威力が出るのは想定外だった。

 完全に呪いの装備の弊害で、悪い所が大きく出ている。

 唇を噛んで申し訳ない顔をするが、いつまでも立ち止まっていたらモンスターに襲われると危惧する。それにしても如何してモンスターの存在に気が付けたのか、【気配察知】持ちのシロガネは首を捻りつつ、ニジナに従って背中を追う。


「ニジナ、この先にあるの?」

「うん。私の【探索】と【索敵】が教えてくれてるよ」

「【探索】は分かるけど、【索敵】?」


 これまた知らないスキルの名前だった。

 シロガネはポカンとしてしまうと、ニジナは恥ずかしがりながら笑みを浮かべた。


「うん。私ね、スキルを何個も手に入れたんだ」

「その一つが【索敵】?」

「そうだよ。【索敵】は周囲に存在する生命を無意識で知覚できるんだよ。そのおかげでモンスターの位置もバッチリ。とは言っても、スキルをずっと使うと頭が痛くなっちゃうから、連続で発動はできないけどね」


 ニジナは蟀谷付近から汗を掻いていた。

 類似するスキルを同時に発動した影響か、それとも【索敵】を使ったせいでとてつもない情報量が流れ込んできたからか。

 脳がパンクしそうになっており、シロガネは親友を気に掛ける。


「ニジナ、無理はしないでね」

「うん、無理はしないよ。おっ、見えて来た!」

「見えて来た?」


 ニジナはシロガネの視線を誘導し、目の前を見せる。

 ニジナの肩口から奥が覗き見えると、まだ草木が生い茂る。

 一体何が見えているのか。恐らく頭の中で見えているであろうニジナの思考を読むと、段々視界に緑以外のものが見え始める。


「ん?」


 耳元を小さな生き物が飛んでいた。

 何故だが慌ただしく飛び回っていて、一瞬しか見えなかった。

 追いかけようと視線を左右に振るが、既に緑の中に消えていて、形まではハッキリしない。


「今のは?」

「ほらシロガネ、私達の目当てのものだよ」

「目当てのもの? アレは……」

「ドリップハニーの巣だよ。ようやく見つけられたね」


 あまりにも急な展開で、シロガネは頑張って付いて行こうとする。

 けれどここまでスムーズすぎて、ニジナは逆に気持ちが悪い。

 それでも最短時間で目当ての蜂の巣を見つけることができた。その正体こそ、高さ百五十センチ程の位置に生えた短い木の枝に吊るされる、木の実の形をした不思議な蜂の巣だった。

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