第12話 ゲームって以外に面白い!

 転移装置に触れたシロガネとニジナは、再び光に飲み込まれた。

 けれど今回は変な所には飛ばされない。

 無事にフォンスまで戻って来ると、とりあえず無事を確かめる。


「ふぅ、よかった」

「うん、よかった」


 シロガネとニジナは胸を撫で下ろした。

 ランダム転移をいざ経験すると、本当に転移装置を使うのが怖くなる。

 そんな臆病さが、深層心理に呼び掛けると、シロガネとニジナは互いに顔を見合わせた。


「面白かったね」

「うん。結果的に」


 お互いにこの冒険を楽しんでいた。

 だから怒りの感情が外に飛び出すことは無く、互いにニコリとほほ笑む。


 けれど一つだけ違う所もあった。

 そう、シロガネの新装備だ。

 フォンスはあくまでも始まりの街、物流の拠点。

 たくさんのプレイヤーやNPCが入り乱れるが、そんな中で、シロガネのような目立つ装備を着ていれば、誰だって注目の的にする。


「なんだか見られてる?」

「うん、目立ってるね。シロガネ、美人だし新しい装備を手に入れたからかも」

「そうなの?」

「うんうん。とってもよく似合ってるよ」

「ありがとう」


 ニジナはとにかくシロガネを褒めちぎる。

 するとシロガネは真顔で「ありがとう」と返した。


「もう、いつも真顔なんだね。まあ、シロガネらしいけど」

「ごめん」

「大丈夫だよ。ところで感想は?」


 ニジナはシロガネに感想を訊ねる。

 ゲームを始めて初日にして、それなりの冒険を経験した。

 きっと様々な感情があるだろうが、シロガネは少し言葉に迷う。


「うーん、意外に面白い」

「い、意外に?」

「うん。ゲームってあまり遊んだこと無いけど、このゲームはなんだか不思議」

「そうだね、このゲームは不思議だよね。不思議と……馴染むよね」

「うん。同じく」


 シロガネもニジナもゲームを思う存分楽しんでいた。

 しかしニジナは知っている。

 こんなもの、まだまだ序の口。初歩の初歩で、これから楽しいことがもっとある筈だ。


「シロガネ、もっとこのゲームを楽しもうよ」

「えっ?」

「だからね、私ともっと遊んでくれる?」


 ニジナはシロガネに訊ねた。

 芯の篭った強い瞳でシロガネのことを認める。

 するとシロガネも目を合わせると、二人だけの間で、特殊な空気が帯びた。


「もちろん。私、ニジナとなら、もっとやれる」

「そっか。でも、他の人とも遊ぼうね!」

「うん、その内」


 シロガネは誰とでも態度を変えない。

 けれど親友であるニジナとは少し関係値が違う。

 そのおかげか、シロガネは全力を振るうことができた。

 そしてそれが親友であるニジナの頼みなら、尚更瞳に心火が宿る。


「それじゃあ、次のダンジョンに行こうと思うけど、シロガネはどうする?」

「まだ行くの?」

「もちろん。こんなところでログアウトするのは勿体ないでしょ?」


 ニジナはますますやる気を出していた。

 それもその筈、シロガネが今日一日だけで、こんなにも強くなったのだ。


 こんな所で負けていられない。

 PCOの先輩として、意地を見せようと思ったのだ。


「分かった。私は行く」

「そう来ないとね。それじゃあ、次は何処に行く?」


 ニジナはシロガネに意見を求める。

 メニューを開き、地図バーを表示。

 シロガネとニジナに見えるよう、広大なマップが表示されると、ニジナは指を指す。


「私はこの辺に行ってみようと思うんだけど」

「また森?」

「うん。フォンスの周りには、森のダンジョンが多いからね。シロガネはどうしたい?」

「私は……ニジナが行きたい所に行きたい」


 シロガネに意思は無かった。いや、それこそが意思だった。

 ニジナの隣を付いて回る。

 今シロガネにできるのはそのくらいで、それがシロガネのしたいことだった。


「えっ、いいの?」

「うん」

「そっか。それじゃあ、今度はシロガネが選んでね」


 ニジナはそんなシロガネを心配する。

 けれどもう決まった以上、仕方が無い。

 マップを閉じ、少しの休憩を挟んでから、シロガネ達は再びダンジョンへ向かう。


 ゲームって意外に面白い。

 そう思い始めたシロガネにとって、この経験はとても大事。

 大切な親友と遊ぶゲームは気が知れていて、とても和やかだった。

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