15 大庭景親
そして治承四年。
戦後、景親は平家のいくさの実務を取り仕切る、伊藤忠清から呼び出しを受けた。
「実は、以仁王の
忠清は福原にいる清盛の命を受け、令旨を受けた者たちが誰なのかを探っていた。
令旨を持って行った源行家を捕まえるのが一番だが、行家の行方は
「すると、だ。熊野の別当・
*
かつて源義朝は、東国に勢力圏を築いた。
さらに、そこから京畿に向かって線を伸ばしていた。
それは、義朝の側室――子どもたちの母親を見ると、よくわかる。
長男・義平の母は相模の豪族・三浦良明の娘(諸説あり)。
三男・頼朝の母は由良御前(尾張・熱田大宮司の娘)。
六男・範頼の母は遠江池田宿の遊女(遊女と言われているが、長者の娘という説もある)。
他にも、子は
こうして見ると、相模、遠江、尾張、美濃……と、義朝は線を意識していたのであろう。
「新宮の源行家とやら、その線を逆にたどったか……となると、伊豆か」
清盛は、湛増の注進を聞いて、即座にそう判じた。
それから、
おそらく、頼朝のことを言っているのであろう。
忠清は主君の怒りが頂点に達する前に、ではどうなさいますかと問うた。
清盛はすぐ答えた。
伊豆・相模の者どもを使え、と。
*
「――だからこうして、おぬしに声をかけている」
忠清としても、今すぐ平家として軍を動かすわけには行かぬ。
以仁王の挙兵を、鎮圧こそしたものの、京の情勢はまだまだ不安定だ。
それに頼朝は令旨こそ受けただろうが、まだ挙兵していない(この時点で、まだ頼朝は山木兼隆を襲撃していない)。
また、後白河法皇が、まだ何か策しているかもしれぬ。
「そこでじゃ、相模のおぬしなら――大庭景親どのなら、伊豆に顔が利く。大軍を持つ」
頼朝の動向を探り、場合によっては兵をもって
忠清は――清盛はそこまでの許しを与えた。
景親は、そこまでしてくれるならと勇躍して相模へ帰った。
そして帰った先で。
「挙兵だと?」
頼朝は、景親の動きを察知したのか、素早く挙兵してしまう。
むろん、実際は目代・山木兼隆の動きに反応した、あるいは他の頼朝寄りの豪族の動向を見すえたものでもあったが。
そして山木を討ち、中原を制した頼朝は、以仁王――『最勝親王』の令旨を持ち出してきた。
これを知った景親は、さてこそ
「では今こそ積年の恨みを……いや、清盛さまのお言葉どおりにすべき時。兵を集めよ」
こうして大庭景親は動く。
平清盛の読みどおりに。
……頼朝は清盛の読みの速さ、凄まじさに舌を巻いた。
だが誰にもそれを示すことはなく、気づいていたのは政子ぐらいで、それも
「……さてどうするか」
と。
*
「三浦を頼ろう」
頼朝はそう言った。
北条館の大広間で。
ついこの間、大庭が大挙して攻めてくるとの話が入った。
どうするか、というささやきが、そこかしこで聞こえる。
頼朝の側近たちの中でもささやかれるようになったある日、頼朝は主だった者を北条館の大広間に集めて、言った。
「平家の動きは素早い。ならばこちらも受けざるを得ない」
速戦を狙ってくるのなら、それ以上に速く。
頼朝は、相模の勢族の三浦を頼ることを示した。
「今、この頼朝の兵は三百。大庭の兵は三千。勝負にならない」
しかし、大庭と同じ相模の三浦は、頼朝に味方すると言ってくれている。
三浦は、三浦半島を本拠地とする一族で、その勢力は大きく、海を越えて房総にまで手を伸ばしていた。
「どちらにしろ、このままでは伊豆一国も治めることもできない。人が少なすぎる」
そのためにも、一刻も早く三浦と合流し、頼朝の勢力を一段階上に持っていかなくては。
それは、場にいる者たちに共通する思いだった。
「そうこうしている間にも、大庭はやって来る。すぐに三浦に使いを出し、伊豆に来てもらってはどうか」
宗時が提案する。
義時はそれに反駁する。
「そうすると三浦が――半島ががら空きとなる。そうおいそれと伊豆に来いと言えないのでは」
「では、どうするのだ。こちらから三浦に行くのか」
「いや、それは……」
そこまで言って、義時は政子の目線に気がついた。
頼朝は表情を変えていない。
義時が言いよどんでいる間に、宗時は叫ぶ。
「いいか。こちらには以仁王、ではない、『最勝親王』の令旨があるのだ。来いといえばいいではないか。三浦は味方すると言っているのだ。ならばその言葉どおりにしてもらえばいい。三浦の領地はそりゃ気の毒だがな、今、頼朝どのが潰れれば、北条も三浦もあとがないぞ」
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