第15話 サグルとミリアと探索者の覚悟
「「いたー!!」」
思わぬタイミングでの件のヒーラーの登場に、サグルとミリアがテーブル席から立ち上がって指差し、それにより件のヒーラーにギルド中の視線が集まる。
「え、何、何!?」
件のヒーラーは突然の事態に戸惑いを見せる。
サグルはそんなヒーラーと接触すべく素早く席を離れて件のヒーラーの前に立ち、
「こんにちは、あの、覚えていますか?」
と、声をかけてみる。すると件のヒーラーはしばらくの間サグルのことをしげしげと見つめ「あー」と何かを思い出す。
「貴方、この前ダンジョンで治療した――」
「サグルって言います。あの時はどうもありがとうございました」
「でも貴方、あの時は魔力切れで意識なんてなかったじゃない。それなのにどうして私のことがわかったのよ」
「それはホラ、あそこに」
言ってサグルがミリアの方を指差すと、ミリアは苦笑いを浮かべながらサグルたちの方へ向かって手を振っていた。
「ああ、彼女もいたのね。それで、私にお礼をって中々に律儀じゃないの」
「いえ、実はそれだけじゃないんですよね」
「それだけじゃないって他に何か用事でも?」
「ええ、ちょっと言いにくいことなんですが……」
「何?私も暇じゃないんだけど」
「あのですね」
「だから何?」
「俺ら実はチームSAGURU TV っていう配信者兼探索者をしてまして――」
「あ~」
件のヒーラーは何かを察したかのような反応を示す。
「実は俺たちフリーのヒーラーを探してまして。良ければお姉さんにうちのヒーラーになっていただけないかなと……」
サグルはあまり自身がないのか、覇気の欠けた言葉を発する。すると件のヒーラーはため息を一つこぼして、
「貴方」
とサグルのことを呼ぶ。
「はい?」
「貴方一応チームのリーダーなんでしょう?だったらまずその自身のない物言いを何とかなさい。そんな自身のなさそうな勧誘の仕方じゃパーティーに参加したいと思ってる人間までヤル気を失ってしまうわよ」
「すみません」
「それにそこの貴女!!」
件のヒーラーはビシッとミリアの方を指差す。
「ひゃい!!」
思わずミリアは席から立ち上がり直立不動になる。
「あの時私が言ったこと、当然まだ覚えているわよね」
「は、はい……」
「あの時に私が言ったことの答えがまさかヒーラーを補充するなんてふざけたものなんじゃないでしょうね」
「それは、え~っと……」
ミリアは気まずさのあまりに目を反らす。すると件のヒーラーは盛大にため息をついてから言う。
「あのねえ、私が聞いたのはあくまで一例であってこの先似たような経験はいくらでもするのよ。なのに貴女ときたらヒーラーの補充?貴女探索者を馬鹿にしてるの?」
リリィだけでなく件のヒーラーからの2度目の叱責に流石のミリアも涙顔で落ち込みうつむいている。
「あの~お姉さんのご叱責はごもっともなんですけど……ヒーラーとしての加入については……」
「論外よ」
そう言って件のヒーラーはギルドを後にしたのだった。
しんと静まり返るギルド内。その静寂を破ったのはギルドの主ことリリィによる巨大な音の拍手だった。
「ナイストライ」
そしてリリィは何度も拍手を繰り返し、それに呼応するかのように他の探索者たちも、
「ナイストライ」
だとか、
「よくやったぞ」
だとか、
「頑張れよ、諦めるな」
だとか様々な励ましの声がサグルたちに向けられる。 しかし、それらの言葉はミリアにとっては余計に自身をみじめさせるものでしかなくミリアは瞳に涙を溜めてプルプルと拳を震わせていた。
「ミリアさん……」
そんなミリアの姿を見たサグルはミリアの心境を察してそれ以上の言葉を重ねることが出来ない。が、ミリアという少女はそれで終わるほど弱くはなかった。
「リリィさん」
涙まじりの声でリリィのことを呼ぶミリア。
「あいよ」
リリィは全てを察したかのようにミリアの目の前にジュースの入ったジョッキを置き、
「かましてやれ」
と、ミリアを励ました。するとミリアは目の前に置かれたジョッキを持つ。
「サグル君!!」
宣言にも似た誰何にサグルは思わず直立不動の姿勢をとる。
「はい!!」
そんなサグルを指差しながら手に取ったジョッキからジュースを大量に口に含み、ハムスターの様に頬を膨らませてズンズンとサグルの方に歩いてくる。
その瞬間、サグルは嫌な予感、いや、嫌な予感というのはミリアに失礼だ。
サグルにとある予知にも似た直感が働いた。
「ミリアさん?」
「……」
ミリアはサグルを真っ直ぐと見据えて歩いてくる。
「ちょっと早まるのはよそう、ね、ミリアさん」
それでもミリアは止まらない。頬を紅潮させ覚悟の決まった目をしている。これは流石に不味いとサグルはミリアの手から逃れようとするが、
「ん!ん!」
ミリアがサグルの一番近くにいた探索者を指差す。
「おいおい兄ちゃん逃げるのはよそうぜ」
「嬢ちゃんが折角勇気を振り絞ってるんだ。その覚悟、受け止めてやりな」
そう言ってサグルの両脇をガッチリと固める。
「ちょっと、何やってるんですか、下手したらは――」
そこまで言ってサグルの両頬がミリアの手によりガッチリとホールドさせられる。そして、
「あ――」
そこには膝から崩れ落ち、シクシクと涙を流すサグルと、
「シャー!!見たかコラー!!」
覚悟が決まりきったミリアの姿がそこにあった。
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