「えっ、お前らまだ付き合ってなかったの!?」 ②

「ナツメさんの武術は、“少々”ってレベルじゃないでしょうが」

 雄介が溜息まじりにそう言えば――


「いやいや、あたしなんかはまだまだ未熟。オヤジはおろかアニキ達にすら勝ったことがない。お爺様に至っては勝負にすらならない」

「知ってる知ってる。それで、そのドぐされチンピラはどういう反応をしたのさ」

「ドぐされチンピラって………まあ、彼は格闘技に興味があったらしくてね、

『ちょっと私に技をかけてみてくださいよ』なんて言い出してさ」


 お見合い相手としては、話を弾ませたかったのかもしれないし、あわよくばナツメさんの手でも取れると思ったのだろう。雄介は(ハレンチな野郎だ)とひとり勝手に思った。


「最初に言っておくけど、あたしはちゃんとお断りしたんだよ。『恥ずかしいですし、それに危ないですから』って。それでも彼が『いやあ、私はこう見えてもけっこう鍛えているんですよ』とか言って引かないから――」

「恥骨を蹴り割ったと」

「ちょ、まて、まって。あたしをなんだと思ってるんだ。どうして見合い相手を再起不能にせにゃならんのさ!?」

「じゃあ猿臂えんぴを顔面に叩き込めばいいと思いましたッ!」

「それはユウちゃんの願望だろう。まったく」

「まさか五体満足で返したんじゃないでしょうね」

「か……返したに決まっているだろう!? 死合いじゃないんだ。見合いだ見合い」

「ちっ、サンピン、命拾いしたな………次は無いと思え」

「ああもう、話がちっとも進まないじゃないか。それでね、こう、できるだけ穏便に事態を収拾しようと、無い知恵をしぼったわけよ」

「そうだね、無い知恵だね」

「何か言ったか」

「気のせいだよ」

「……まあいい。そこで思いついたのが腕相撲だ」

「う・で・ず・も・う」

「うむ。『でしたら、私と腕相撲をしていただけませんか、それでわかっていただけるかと思います』と言ったわけだ」

「大惨事の予感がする」

「おおっ、どうしてわかった!?」

「……」

「……」


 気まずい雰囲気が立ち込める。いたたまれなくなったナツメさんが、言い訳がましく口を開く。


「いやな、最初はうまく力を加減して、『あら、互角ですわね、ほほほ』ってな具合で相手の面子も立ててやろうと思ったんだけど……」

「折っちゃった?」

「違う! 折ったんじゃない! 折れたんだ! あれは事故だ、事故!」


 雄介は、幼子に諭すように年上の女性に語りかける。


「ダメでしょ。お見合い相手の腕ヘシ折っちゃ、ダメだよね。それにさっき『五体満足で返した』って言いませんでしたか? ウソはよくないですよ」

「違うんだ! その悟りきった菩薩像みたいな表情で説教をするのはやめてくれ!

相手が意地になって全然引かないもんだから、こっちもちょいと出力上げたら、変な角度で力が伝わっちゃって、ふ……不覚!」


 テーブルに突っ伏すナツメさん。雄介は大きく溜息をつく。


「そもそも問題なのは力の加減じゃなくて、どーしてお見合いの席で腕相撲しようなんて発想が出るかってとこなのッ! 例えば、相撲は相撲でも、お見合いの時に指相撲をして、それがきっかけになって結婚した人たちがいたけど、腕相撲と指相撲じゃトキメキ度数が全然違うわよね? お分かりぃ?」

「だ……だけどさ、鉄輪流じゃ指相撲もれっきとした鍛錬の一つなんだよ。組み合った際、いかに効率よく相手の指関節を破壊するか――」

「恋愛の話をしているはずなのにどうしてそんなに殺伐とした流れになるのよッ!

ンもぉぉぉぉ!!」


 雄介は怒りのあまり、白目をむきながらおしぼりをブルンブルン振り回す。

 さすがのナツメさんも、これには面食らった。


「(なぜにオネェ口調!? 怖ッ!?)あ、あたしが至らなかった。すまん、謝る! だからそんなに怒らないで……お平らかに……お平らかに……どうどうどう……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る