死ねない転生者
魁羅
第一章 ヴァルテスト王国編
第1話 異世界
午前零時、暗い山道を歩いて三時間が過ぎた。時間をかけて辿り着いた場所は、断崖絶壁の崖。一歩踏み出せば落ちそうな場所まで行き、そこから下を覗いた。街灯一つ見当たらないここに光りはなく、暗闇の中にある地面を見ることはできない。
自分の命を自分で終わらせる。
あの日、両親を失ってから全てが変わった。生活、学校、感情すらも。今までは笑って過ごせてたと思うが、もう笑って過ごすなんて無理だった。貯めてあった貯金は全て奪われ、痣や傷のせいで学校の居場所も奪われ、もう何をしていいか分からなくなった。生きる希望を見いだせなかった結果、こうして立っているのだろう。
誰かに相談できていたら、自分から行動できる勇気があれば、何か変わったのだろうか。
しばらく立っていると、突風が吹き足元がふらついた。両手を広げて重心を前に倒した。
僕は落ちたのだ
勢いは止まらず、どんどん速くなっていく。どこかの木の枝が鋭利な刃物のような凶器となり、ピシッと頬に当たって切れた。暗闇の中の地面に気づくはずもなく、石が強い衝撃で割れたような音がなり、頭から血が流れ出した。それが辺り一面に広がっていった。
それが最後の記憶だ。
そして僕は、知らぬ間に時間という概念があるか分からない場所にいた。特に何か見えたり聞こえたりする場所ではない。ただ暗いだけの空間。まるで、あの深夜の山のような暗さ。いや、あれよりもっと暗いだろう。
死んだのは間違いない。確かに血が流れ出ていた、あの感覚を覚えている。では、ここはどこなのか。死んだのと同時に、地獄でも落ちたのだろうか。
分からない。
ここがあの世というのなら、他の人や動物の魂が一つくらい見かけてもいいはずだ。しかし、それらしいものを見かけることはなかった。また、それを確認できる
どれくらい経ったかは分からないが、突如として、暗い空間に変化が起き始めた。それは、暗かったはずの空間が、一筋の光が差し、少しずつだが明るくなり始めた。
そして、暗かった空間に明るい光が全体的に行き渡った瞬間、部屋の天井らしき部分が見えて、僕は目覚めた。
頭が混乱しているのだろうか。先ほどまで、暗く何も見えない所にいたはずなのに。
起き上がると、見慣れない部屋に僕はいた。毎日掃除されているかのような綺麗に整った部屋。太陽の光が差す窓を開け、外の景色を見た。そこには、自分の知っている世界とは全く別の景色が広がっていた。街の雰囲気、建物の素材、何もかもが日本の造りとは全く異なるものばかりだった。一度窓を閉め、冷静に考える。もう一度部屋を見渡した。ベッドが一つ、本棚が一つ、机と椅子がそれぞれあって、クローゼットらしきものがベッドの目の前にある。本棚を見て、一つ閃いた。
本……。本には文字が書いてあって……。そうだ、文字を見ればここがどこなのか、分かるかもしれない
本棚から一冊本を取り出し、タイトルを見た。しかし、そこに書かれてあったのは、日本語でも英語でもなく、謎の言語であった。
自分自身、何で生きてるのか疑問だったが、それよりも今ここにいる世界が、今までとは別の世界である事のほうが驚きを隠せなかった。
「一体、どうなっているんだ? 僕自身に何が起こっているんだ?」
一人でぶつぶつと呟いていると、部屋のドアを開ける音が聞こえた。
右の視界の方から声がして、腑抜けた声が出てしまった。
「何を寝ぼけた事を言ってるのですか? 」
そこには、黒髪の短髪で、メイド服を着た女性が立っていて、こちらをじっと見ている。
「えっと、その。おはよう……ござい……ます」
「はい、おはようございます。それで、何をしていたのですか?」
「それは……この本がちゃんとはまってなかったから、直そうかなと思って……」
「そうですか。まぁいいです。そういう事にしておきます。こちらに本日の服装を用意致しましたので、着替えておくようにお願いします。私は一度席を外しますので、もう一度来るまでに着替えておくようにお願いします」
「分かりました……」
彼女は早々と部屋を離れた。自分の着ていたパジャマ? を脱ぎ、ベッドの片隅にきれいに畳まれた服を取って着替えた。。素材の質や色合いから、高価な雰囲気が漂う。中々着慣れない服に着替えるのに少々時間は掛かったものの、彼女が戻って来る前になんとか着替え終えた。
着替え終えたものの、彼女はまだ戻って来る気配はない。そして、これといってやる事がない。文字は読めないし、あのメイドさんの名前も分からないし、ましてや自分の名前さえ……。
そこで、そういえば自分の名前は何だっけと、思い出す。目をつぶり、じっくりと考えるが思い出せない。
心の中が煙でいっぱいに満たされるような、自分自身について分からないのがとても焦れったい。
分からないものは分からないため、今はそういうものだと理解せざるを得ない。
とりあえず、何でもいいから行動しよう。
まず最初に目に入ったクローゼットを開けてみた。中には剣と杖、それと幾つかの本が仕舞ってあった。本に関しては、本棚に入り切らなかったものをここに置いてあるといった感じだ。
それ以外は特に何もなかったため、クローゼットを閉じた。
次にタンスを開けた。中には先程着た高級な服が何枚もあった。他には腕輪や首飾りなどといった高価なアクセサリーが入っているだけで、自分自身についての情報は何一つなかった。
次は自分の机から読み取れそうな情報を探した。
机の上は綺麗にされており、
次に引き出しを開けた。そこにはペンと紙が何枚かある。それ以外は特になく、ごく普通の状態である。
次は二段目の引き出しを開けた。すると、何冊かノートっぽいものが仕舞ってあった。
なんとなく、手前の物から取り出した。表紙は特に何も書かれていない。早速ページをめくった。やはり、何が書いてあるかは分からないが、上の方に数字らしきにものが書いてあった。
五……? それから、十三……なのか?
これが数字ならば、何かを表している。その周辺には文字らしき物は特になく、数字らしきにものの後ろも文字はない。
だとすれば、これが表しているのは、日付だろうか。
一度そう仮定して、次のページをめくる。すると「五」と多分「一」の所は変わらなかったが、その後ろの部分が変化していた。その下の文も同じ文ではなさそうなため、書かれている内容も多分変わっているだろう。
次のページも、また次のページも後ろの数字だけが変化している。そうなると、これは日記ではないだろうか。
自分の部屋にある日記なら、僕自身の出来事が書いてある内容だと思うが、やはり文字が読めなければ意味がない。
ペラペラとめくっていくと、途中で変な文を見つけた。文というか、その文の中にある単語? がおかしいというか。
前のページではそのような箇所は無かったが、この日から文字が別の文字と混ざったような感じの文字になっているというか……。いわゆる、文字化けが起こっていた。
次のページをめくると、文字化けした文が段々増えてきて、四、五ページめくると、それはカオスな文になっていた。文は横に綺麗に書かれているが、もうそれは別の世界の文字を見ているような感じだ。
そして、不可解なのが、このカオスな文からところどころ読めそうな箇所があるということだった。
漢字? 平仮名? 片仮名? かは分からないが、それらが入り混じった文字があった。
そして、一気に最後のページを開いた。そのページを見たら、六月十三日と日付が書いてある。
先ほどのページまでは知らない言語だったはずなのに、突然知っている言語が書いてある。
六月十三日
伝えたいことだけ書いておく
たとえ、僕が僕でなくなっても、新しい僕が、きっとなんとかしてくれるはず。
絶望的かもしれない。未来が見えないかもしれない。しかし、どんな困難にも耐え抜いてくれ。きっと希望がある。
最後に、もし、名前を忘れてしまったら、このページを見て思い出してくれ、
すまない、僕にはもう時間がない。
カルマ・ヴァルテスト
死ねない転生者 魁羅 @apple4KT
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