第2話

 まずは自分の肉体を造らねばならない。

 魂だけの存在のままだと出来ることも限られるからな。

 そのためには素体となる死体が必要になるわけだが……。

 いや、この世界の情報が必要だな。このままだと言葉も通じないだろうし。

 どちらにしても【超級死霊術】のスキルを使えば死体から取得できるだろうが。

 死体探しと言ったらどこを探すのが一番か。

 そうだね、お墓だね。

 とはいえ今の俺は魂だけの存在。

 物理的に干渉する手段を持たないので墓荒らしをするのも難しい。

 ならばそこらに死体が転がってる場所を探すのが一番だ。

 

 幸いと言っていいのかわからないが、この世界はダークよりのファンタジー世界だ。

 あまり優しい世界とは言えずスラム街なんぞも存在する。

 そう!スラム街!

 不衛生で裕福でない人達が暮らしており、死体が転がっているのも珍しくない場所だ。

 というわけで魂だけの状態でスラム街をうろうろして死体を探していたがそこら辺には転がっていなかった。

 どうもスラム街のはずれに死体置き場というか、穴の中に死体を投げ込む場所があるようだ。

 身ぐるみ剥いだ後の死体はスラムの住民にとっては価値はなく、ほおっておけば腐敗臭もする厄介物でもある。疫病の元にもなる。

 その辺の知識がスラムの住民にあるのかは怪しいがとりあえず片付けはするようだ。

 スラム住民にとってはゴミ扱いだが俺にとっては宝の山だ。

 死体は有難く使わせてもらうとしよう。


 死体置き場はちょっとした洞窟のようになっていた。

 白骨化した死体やら、腐りかけの死体などが放置されている地獄のような場所だ。

 そこら中から腐敗臭がする。

 どの死体も身ぐるみ剝がされており、体にまとっているのは腐りかけの襤褸切れのよう布のみだ。


 さて、基本的に転生者が得られる能力というのはこの世界の住人も得る事ができる能力だ。

 なんだよ、転生者専用のチート能力じゃないのかよと思うかもしれない。

 だが、転生者が得られる能力はこの世界の住人も得られる能力ではあるが、それはたゆまぬ研鑽の果てに得られるようなものから、特定の血統が代々受け継ぐような希少な能力も含まれる。

 そのような強力な能力を無条件で得られるのだ。

 それこそチートではないかと思う。


 俺の【超級死霊術】も高位の魔術師が人間を辞めて、その身をアンデッドに変えるような研鑽と修練と執念の果てに得られる能力なのだ。

 この能力を使えば脳の破損状態にもよるが、死体の脳みそから知識や技術を吸い出すこともできるし、強力なゾンビを生み出すこともできる。

 十分にチートな能力と言えよう。

 ちなみに死体の脳みそから知識を吸い出すといっても脳みそちゅーちゅーして情報を吸い出すのではない。

 死体に残ってる怨念というか残滓からサイコメトリーのように情報を得る、物理的ではないオカルトや魔法的な方法だ。

 死体が多少破損したり時間が経過してても問題はない。

 これだけ山のような死体があれば有益な情報も得られるだろう。


 と思ったのだが、こんなにも情報源があるのにゴミみたいな情報しか手に入らないじゃないか。

 とりあえず会話は問題ない。辛うじて文字の読み書きもできる。

 だが技術的なものは絶望的だな、脳の損傷による情報の劣化もあるがもともと碌な技能を持ってる死体がない。

 精々ごろつきが使うような喧嘩殺法に我流剣術くらいしか技能が手に入らなかった。

 とはいえないよりましか。そもそも優秀な人間ならスラム街で野垂れ死になんてしないだろうしな。


 まあこの辺は別の方法で新鮮な死体が手に入ったらおいおい追加していこうか。

 ダークファンタジーのような世界だし、運よく手に入る事もあるだろう。


 さて、後は自身の魂の鎧でもあり世界への干渉手段でもある肉体の作成をしよう。

 【超級死霊術】を使えばまるで生きているかのようなゾンビを作ることもできる。

 この世界でも一般的なゾンビは体が腐敗して崩れているような、俺らの世界でのゾンビと聞いて想像するようなものとさして変わらないんだが。

 【超級死霊術】は【死霊術】の最高峰なだけあって普通のものとは違うゾンビも作れる。

 飯も食えるし、心臓も動いている体温もちゃんとある。そんなほぼ生命活動をしてるのと変わらないゾンビが作れるわけだ。

 ここで作るゾンビは自分の体でもあるわけだし腐敗したボロボロの体は避けたい。

 技術を惜しみなく使ってちゃんと作るぞ。

 俺は【物質生成】を使う事によって【超級死霊術】の肉体作成のフォローもできるのでいろいろ融通が利く。

 思ったより【物質生成】と【超級死霊術】は相性がいいな。

 

 というわけで中肉中背のこれといって特徴のない適当な青年を作成した。髪は黒くて瞳はこげ茶、典型的な醬油顔の日本でよく見るタイプの人だ。なんならアジアでよく見る人ってレベルに範囲を広げてもいいかもしれない。

 いや絶世の美男子とか作れよと思うかもしれないが、その辺は作成者の想像力しだいなので……芸術家でもない俺じゃぁ【超級死霊術】の基本セットのデフォルトで作れる一般的な人間になってしまうのだ。

 デフォルトで一般的な青年が作れるだけよかったともいう。

 とにかく! これがこの世界での俺の体だ。


 早速拳を握ったり開いたり、屈伸をしたりしてみたが体の稼働に問題はなさそうだ。

 

 「あー、あー、あー、アメンボ赤いなあいうえお」


 発声も支障なし、呼吸視覚触覚嗅覚も問題なし。

 まあ【超級死霊術】のおかげで目が見えなくても外界の情報を知覚できるんだが。

 体もできたし次は服やら装備やらを作るとしようか……。

 すっぽんぽんで動き回るのはよろしくない。

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