第2話 耳かきの巻

 萌の家の縁側に座って、わたしたちはがりがりくんソーダ味を食べていた。

 冷たくて美味しい。

 萌の長い脚は地面についているが、小柄なわたしは脚をぶらぶらさせている。

 太陽はギラギラと輝き、蝉はやかましく鳴いていた。

「今日はあれをしようよ」と萌が言った。

「あれ?!」

 わたしは驚き、がくがくと震えながら萌を見た。

 40項目の夏休みの宿題はかなり進み、残すところあと7つとなっている。


 9 キスする(深いやつ)

 11 肝試しをする

 15 セックスする

 23 裸を見せ合う

 28 プレゼントを贈る

 30 変顔をする

 35 耳かきをしてあげる


 ついにセックスなのか……?

 それともキスの深いやつか?

 がりがりくんが溶けて、青い液体が手を伝った。

 萌がわたしの手を取って、なまめかしい舌を出して、溶けたアイスを舐めとる。

「珠希の汗とソーダの甘い味が混じり合って、最高に美味しい」なんて言う。

 大好きな萌に手の甲をぺろぺろと舐められて、わたしの背筋にぞくっと甘い電流が走った。

「あれってなんなの?」

「あれはあれよ」

「まさかセッ……」

 萌の童顔が不思議なほど妖艶に見える。

「うふっ、はずれ。今日やりたいのは耳かきだよ~」

 にへらっと彼女は笑った。

 そっか、耳かきか。

 ほっとしたような残念なような気持ちになった。

 わたしは死ぬほど萌を愛するようになっている。セックスを迫られたらたぶん拒否できない。

 そのときが来るのが怖いような待ち遠しいような……。

「耳かき棒を取ってくるね。アイスの棒は捨ててくるよ」

 わたしと萌の分のがりがりくんの棒を持って、萌は家の中に入った。

 わたしは萌の家の庭に生えている柿の木を見ながら、耳かきか、と思った。今日は平和だな。

 萌が再び縁側に現れた。彼女は竹製の耳かき棒を持っていた。

 縁側に座り、むっちりとした太ももをぽんぽんと叩く。

「さあ、耳かきをしてあげるよ。ここに頭を乗せて」

 膝枕なら経験済みだ。わたしは萌の太ももに自分の頭を置いた。

 ああ、柔らかくてあたたかい……。

 萌が顔をわたしの左耳に近づけてきた。そして、ふっ、と息を吹きかけた。

「ひうっ」

 変な声が漏れてしまった。

「や、や、やめてよー」

「ふふっ、感じちゃった?」

「息なんかで感じるかー!」

 そう叫んだが、嘘だった。耳の穴に入ってきた萌の息で、わたしの脳髄はぞくりと痺れたのだ。

「そ。まあいいや。本番はこれからだよ~」

 萌は右手で耳かき棒を持って、わたしの耳の浅い部分をそっとやさしく掻いた。  

 また声が出そうになった。

 ものすごく気持ちよかったのだ。

 さり、さり、と萌がわたしの耳を掻く。深い部分には挿し込まず、浅いところに触れる。溝に入れたり出したり、やさしくなぞったりほじったりする。

「あ、あ……」

 わたしは悶えそうになる。

 耳かきって、こんなによかったっけ?

 平和だなんてとんでもない。耳かきは、とてつもない愛撫だ……。

 萌はすごくゆっくりと手を動かす。

 わたしは目をいっぱいに見開き、「やめて……」とつぶやいた。

「なんで? これは夏休みの宿題だよ~。やらなくちゃいけないの」

「じゃあ、ちょっと休ませて。耳かきを甘く見てた。心の準備をさせて……」

「だめだよ~。あぶないから動かないでね~」

 さり、さり、しょり、しょり……。

「や、やさしくしないで……」

「うふふふ、珠希、よだれ垂れてるよ~」

「あう……拭いてよ……」

「やだ~、珠希がよだれ垂らしてるのカワイイ~」

 屈辱的だが、わたしは逃れることができなかった。気持ちよすぎる……。

 萌が握る耳かき棒が、しだいにわたしの耳の穴の深い部分に入ってくる。

 こり、こり、と脳へとつながる耳の穴を掻かれて、わたしの快感は高みへと昇っていった。

 こり、こり、さり、さり、こりこりっ……。

「うう……あああ……」

「おっきな耳くそが取れた~」 

「み、み、耳くそって言うな……」

「あははっ、ごめんね~。耳垢って言えばいいのかな? それとも耳カスかな?」

「はあ、はあ、くそって言わなければ、どっちでもいい……」

「じゃあ耳垢でいっか。もっと取るよ~」

 わたしは萌の手で耳垢をいくつもほじくり取られ、そのたび快楽に震えた。

 好きな人の手による耳かきは、セックス同然なんじゃないかと思えるほど甘美だった。

 わたしは左耳と右耳を耳かき棒によって蹂躙され、甘く悶え苦しんだ……。


 もちろんお返しはしてやった。

 萌の耳を徹底的にやさしくいたぶった。

「あああ~っ」

 感じやすい萌のあえぎ声があたりに響き渡ったのは言うまでもない。

 家にいるのがわたしと萌だけでよかった。

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