あやかし後宮の月花妃

紅城えりす

序章 始まりは清らかな川辺で

大切な『やくそく』

 これは遠い昔の話。

 まだ物心が付く前のこと。

 口減らしとして家から追い出された私の前に猫が現れました。

 不思議な白猫は私を見つめながらこう言います。


「お前、帰る家が欲しいか?」


 私が頷くと、猫はくるりと山の方へ視線を移しました。


「それなら望み通り家をくれてやる。俺に付いてこい」


 白猫は尻尾を立ててから歩き始めました。

 傷だらけの足を引きずって私も猫と共に山の方へ向かいます。


「ちょぴり辺鄙な場所だけど、別に良いよな。というか、お前は容姿が良いから変な虫がつきそうだし。むしろ山の方がいいかも」


 ブツブツと独り言を呟く猫。

 当時の私に、彼が言いたかったことは到底理解できません。

 ただ、最後に猫が放った言葉は、今でも鮮明に覚えています。


――お前の魂が穢れるような時が来れば、その時は……俺に渡せ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る