断章 ◾️◾️◾️
天界…朝。
玉座でユティと会話する。
「【全種族P.P.共栄圏】が明日なのに、その前日に結婚するなんて…流石に忙しくない?」
ククッ…問題ない。寧ろ、アタシは今から楽しみな位だ。
「そう?なら奇遇だね、実は私もなんだ〜♪」
らしくもなく、アタシは【台本】にはない事を口走ってしまった。
「実は、裏でサプライズを用意していて…」
「えっ、サプライズ?」
おっと。今の発言は気にしないでくれ。
『いや、そりゃあ無理な話でしょ…でもまぁ…うん!楽しみにしとくね♪』
……
天界…夜。
【台本】通りに、昼にわざとバリラの策略に乗って結婚式に行かず…誰もいない閑散とした式場を歩いて…足を止めた。
そこには椅子に座り、花嫁姿でケーキも食べずに頬を膨らませて、アタシが来るのを待ってくれていたユティがいる筈で……
手。足。目。耳。胴体。頭。脳。心臓——
思い描いていた未来とは違い、大きな机の上に切り落としたであろう大量の刃物とユティ…だったモノが散乱しているだけだった。
「……は?」
すぐに、脳内にある【台本】を確認して…内容が更新している事実に…アタシは言葉を失い、自然と涙が流れる。
——パラッ。
バリラの策略は囮。本命は、明日に控えた【全種族P.P.共栄圏】を結婚式を利用して、ユティを殺す事で阻止する事。
本来なら【台本】の中で起きると決まった事象は変わったりとか変える事が出来ないのだが、ユティは【台本】において、主要な人物じゃないから、たった…たった一言【台本】から逸れてしまっただけでその結末が変わってしまう。
アタシは無言で『鍛治神』頼み、修繕に出されていたユティの黄金の剣に、七色の宝石を埋め込んだ…渡す筈だったその剣で、自分の心臓を突き刺した。
「ゴフッ……これで…698敗目。次の時間軸のアタシに託そう。」
黄金の剣を力ずくで引き抜いて、仰向けに倒れる。
「クク…雨が降っていたのか。気づかなかったな…クククッ……」
まだだ…次に行こう。
この天界や大陸を統括するべき存在であるこのアタシが唯一、心の底から愛したユティを救えるまで…【台本】に従い何度でもやり直そう。
………
……
カト帝国…否。神都クロネスの玉座にて。
その夜。【全種族P.P.共栄圏】の資料を意味もなくまとめていると、ようやく誰かの足音が聞こえてきて…顔を上げた。
クク…待ちかねたよ。警戒しなくてもいい。既にエクレールは下がらせた。貴君の忠実な部下達にも帰るように伝えてもいいぞ?
———?
ははっ…失礼だな。アタシを誰だと思ってる?この天界…否、大陸の全てを統括…したかった男だぞ?
—————。
狙いも分かっている…このアタシの首だろう?
アタシが提唱するこの大陸中全ての悲願…【全種族P.P.共栄圏】をなかった事にする為に。
———!?
何が起きるか…全く予想も検討もつかないからこそ人生は面白く、未来の自分がなにがどうなるかが分からないからこそ、今現在の自分が希望胸に想像を膨らませる事が出来る。
貴君は永遠に分からないだろうが、分からないは…『面白い』のだ。人生をもう9999回繰り返して、アタシはそう思ったよ。
———。
ククッ…この気持ちを理解してもらおうだなんて思ってないさ。でも、仮にだ。生まれながらにして今日の朝ご飯から、この先起きうる事象全てを見通せる存在が特に自分の未来も変えずに、運命に見放された大事な誰かを救う為に心を殺して、見通した通りに行動して生きていたとしたら…貴君はどう思うかね?
——————。
そうだろうな。面白味もなければ、生きている意味もないと吐き捨てるのが自然だ。そんな生き方は神どころか家畜未満…ユティなら『カラクリ仕掛けのロボット』とでも言うのだろうな…クククク…しかしだ。
そこで言葉を区切り、アタシは…目を瞑った。
……
…
ザクト。全種族の原種たる存在を間接的に、殺した反動で、不完全な不死者になった処刑人にして、我が忠実なる使用人だった男よ。
こちらに時間があれば、雑談の一つくらいはしたかったが…残念ながらそんな時間を『台本』は与えてくれないらしい。
帝国での騒動も、エヌカロットの乱入により強制的に終結。キラは無事に目的を果たし、最深部に帰投。エクレールといった他の連中も全員…リードによって『煉獄』に連れて行かれた事で助けられたか。
レレアはアタシとの打ち合わせ通り、ザクトによってハリセンで飛ばされて今頃…帝国で天界に行く準備を整えているだろう。マキナやエクスも……3日もあれば、帝国に到着する。
アタシは不敵に笑う。
もうやり直す事は出来ない。乱数や盤面的にも最高に近い…ここで決着をつけよう。
現状、アタシがバリラによって暗殺されてユティを生きている事で生じるイベント…『帝国誕生』を引き当てている。
アタシが直接やれる事はもう…天界に潜伏し『煉獄』で、今頃、右往左往しているエクレールや他の神や天使を権能を使って呼び出し、最後のいいとこ取りをする事くらいだ。
(…レレア。アデネ。マキナ。エクス。そして…ラスト。)
ユティを救う役者は、ここに揃った。
———さあ。10000回目の挑戦を始めよう。
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