22 運命を握る者達

キメ顔でそう言った男の子…ナカラにオロロンさんは少しだけ俯き…体がプルプルと震える。


「なっ…ナカラ…ぁ…」


ククッ…そんな表情は似合わん。ほうら…アタシの胸に飛び込むが


「な、ん、で…生きておると、すぐに、わしに伝えなかったんじゃぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」


顔をバッと上げ、泣き顔のオロロンさんの腰の入ったいいパンチが、ナカラの鳩尾に直撃し、静かに悶絶して……数分が経過した。


「えっと、大事…ですか?」


「ダメ。近づかない方がいい。」


「でも…」


あ…ありがとう少年。だが心配せずとも…そろそろ、動けそうだ…ククク。加減してくれてたからな。ああ。分かっていたとも。こうなる事も…既に、知って…いた。とにかく…彼を玉座の間に連れていかなければ。


「いい加減に離すのじゃナキス!!そのまるで反省もしない態度といい、まだ全然、殴り足りておらん…わしが、わしがっ…どれだけ、どれだけっ!!ユティの分まで…殴ってやるぅ!!!」


「オロロン様!!その気持ちは、何となく分かりますが…あぁもう、少しは落ち着いてくれ…おい、人間っ、我が止めてる内に……!」


終始怒り狂うオロロンさんをナキスさんが何とか、羽交締めにしている内に…寝息を立てている男を背負って立ち上がった。


「…ヘラ。ナカラを背負ってくれ。」


「やだ。」


(何か、因縁がありそうだけど…そんな事に構ってる暇は…ないよな。)


僕は深々とヘラに頭を下げた。


「頼む…これは僕がしたい事なんだ。」


ヘラはキッとナカラを睨んだ後…渋々、左足を持った。


「……ありがとう。」


「キラがしたい事なら…協力する。行こう?」


僕はヘラと一緒に歩き出す。本来なら厳重に立ち入りが規制されている、あの階段に。その登った先にあるであろう…玉座へと。


フッ、人と天使がいい友情関係を築いているのか…とても素晴らしい事だが、余りにも運び方が酷くないかね…さっきから、岩がガンガンと頭にぶつかるのだが…ククク…グッ…これもまあ、分かっていた事なのだがね。ククッ…クククッ………………痛い。


……



幸いな事に、階段のに到着しても、いつもいる女神と会う事もなく…作業を続ける人達に気づかれないように階段を登っていると…前を歩くヘラの足が止まった。


「…どうしたの?」


ヘラが苦しそうに、胸を抑えて…その場でうずくまった。


「っ…!?ヘラ!!」


「はぁ……大丈夫……大丈夫だよ。キラ。」


「でも…苦しそうじゃないか…!!僕は別に平気だから、一旦…戻った方が。」


「命令は絶対順守…キラの為なら…私…は。」


少年の言う通りだ。ここから先は、アタシ1人でも歩ける。第一、ここで無駄に命を張ってもいいのかね?


(……え?)


そう言われて、ヘラは何故か歯を食いしばって…左足から手を離した。


「ねえ、キラ…一緒に戻ろ?」


「…え?」


「もうアレは1人で動ける…だから。」


「いや。僕は彼を…玉座に送らないと。」


自分でも驚いた。なんで、そんな事を…言ったんだろう。


『——彼…ラストの事を見捨てないであげてね。』


あの女神の所為…なのか。でも…神都を滅ぼして、食事に何かを混ぜて壮大な何かをしようとしている彼…ラストを見定められる、千載一遇の機会なんだ。


「ごめん。でも…約束する。絶対、ヘラの元に帰って来るって。」


「…ほんとに?」


「僕はヘラに嘘はつかないよ。」


「…っ。」


何も言わずに、早足で階段を降りて行ってしまった。


「…やっぱり、辛かったのかな。」


ククッ…アタシからはノーコメントだ。


ゆっくりと起き上がり、頭から血がボタボタと垂れるナカラは、そんな僕を見て何故か苦笑いを浮かべていた。


……



数時間後、僕とナカラは、棺の周りに花畑が広がる空間にたどり着いた。


「…っ。何で…こんな所に棺が。」


その中には、黒髪の少女が眠っていて…触ろうとする僕の手をナカラが止めた。



あそこの階段を登れば遂に目的地だ。それと、無闇やたらに物や人に触れない方が身のためだぞ?何が起きるか分からんからな…無論、この世界を統括…したかったアタシはどうなるか知ってるし、その結末を知っているが。



真剣な表情で言われて、僕は頷き…上に続く階段を登る。


——死後に創られたアタシの模造品…これはその完成形…例え、そう分かっていても…悲しいものだな。


その小さな呟きは、僕の階段を登る音でかき消されていった。


……


階段を登りきった僕は、愕然とする。


「ここが……玉座の間?」


黒色の大きな玉座があり、赤い絨毯が敷かれているだけで…それ以外の調度品といった物がまるでない。殺風景な光景が広がっていた。


彼は玉座に座らせておいてくれたまえ。少年よ…ここまで、ご苦労だった。


ナカラが改まって、深々と顔を下げた。


「え、そんな事ないよ…僕はただ…」


後は自由にやりたまえ。あの子の為に、すぐに戻ってやってもよし。気になっている事を調査するのもよしだ。どちらを選ぶのかは…正直、アタシは知っているが…直接、そこにいて見てやる事は出来ない。何せアタシには…もう一つだけ、天界にて果たすべき……があるからだ。


「…?」


最後の部分はよく聞こえなかったが、ナカラは何処からか黒いローブを取り出し不敵に笑い…一陣の風が吹いて、瞬きした頃には…その姿はなかった。


僕は背負っていた彼を玉座に座らせて、まじまじとその顔を眺める。


(やっぱり、この人が…。)


「よお。寝てやがる人類代表の顔をジロジロ眺めて…何やってるんだ?」


反射的に振り返ると、僕以外に誰もいなかった筈の玉座の間の入口の扉が開いていて…


そこに…いつの間にか男が1人、立っていた。


……


それと同時刻…微睡の中、声がした。


「私の影武者から色々と話は聞いていたけど、想像以上のお寝坊さんなのだね。もう起きないのかと思ったよ。」


土の匂い…まだトンネルの中か……いや違う…鳥や虫の鳴き声も聞こえる…ここは森……っ!?


俺は今まであった事を思い出し、すぐに飛び起きて…声の主から距離を取った。


「警戒しなくてもいいのに。とりあえず、まずは簡単な自己紹介をしようか…えぇと。私はオルン。ただの『精霊王』さ。」


「……んんっ。ラストだ。」


凄く眠い…まだ、よく思考が纏まらない。暫く寝てなかったから…根を詰めすぎたか。オルン…精霊王…不干渉を貫く精霊が一体…俺に何の用があるんだ。


「ラスト…か。ああ見て分かる通り、私は交流とか意思疎通が苦手でね。だから今日も代わりに、私の影武者が天界に行ってくれたんだ。」


「……」


は。精霊が…天界に……?


「口下手なのは許して欲しいな。ある程度慣れたら、普通に話せるんだけど…」


「…今は、本題に入ってくれ。天界に…何の用があったんだ。」


悪魔の他に…精霊も組んでいるとなると、今後の計画や状況は大きく覆る。覆ってしまう。


「心配せずとも、私はそれについてキミに教える為に…わざわざこうして干渉したんだ。」


精霊王の口元が一瞬だけ歪んでいるように見えたが、不意に欠伸が出て、腕で涙を擦ると…元の穏やかそうな表情を浮かべていた。


(いや、気のせい…か。)


その疑念は、精霊王が語る…【3種族同盟】の内容やらの話によって、有耶無耶にさせられた。

















































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る