20 『王』の指揮で『演者』は踊る

ワタクシは力尽きて倒れた浪漫女を眺める。


「………。」


このボロボロの浪漫女をブッ殺して…息の根を止めるのは息を吸うように簡単な事だ。


「けど、それじゃ野蛮だから淑女じゃねえとかほざいて、後でザクトにボコされるか…命拾いしたなテメェ。」


倒れた浪漫女の顔を死なない程度で一発蹴ってから、その体を抱えると、背中をチョンチョンと叩かれた。


「アァン!?んだ、テメェ…は。」


「おはようございますアデネ様。クソジジイの…ザクトでございます。」


ワタクシは反射的にハリセンで叩かれる事を警戒するが、いつまで経っても叩かれる事はなかった。


「?挙動不審になってどうかしたのですか。」


「え…あぁ…な、なんでもございませんわ。」


「先ほどの儂を侮辱した件については…後日しっかりと再教育致しますので、ご安心を。」


「しっかり聞いてんじゃねェかよ!?」


「ええ…アデネ様の教育係ですので。後、口調が崩れてますよ。そこも含めて…ふむ。再教育のプログラムを組まなければなりませんな。」


思案顔をするザクトの思考を何とか乱すべく、ワタクシはすぐに口を開いた。


「っ、ここに来ているという事は…ワタクシに話したい事があったのではなくて?!」


「おっと…そうでしたな。すぐにでもアデネ様の耳に入れておくべき重要なお話がある故、ここに来たのでした。」


「おほほ…ザクトは忘れっぽいんだから!!!」


「いやはや、アデネ様程ではありませんよ。」


「……ん?今なんつった?」


「アデネ様。口調が崩れておりますよ。」


クソジジイめ。はぐらかしやがって…てか重要なお話だァ??


「また山頂を糞悪魔共に奪取されましたか?」


「いえ…違います。」


「違う…?なら【遺産】が見つかったとかでしょうか。」


「…特にそういった『探索部隊』からの連絡はないですな。」


「あー…誰かの誕生日…とか?」


「いいえ。」


「じゃあ、何なんだよ!!勿体つけずにさっさと言いやがれ…!!!」


ザクトは肩をすくめながら言った。


「麓の施設であるNo.255が攻撃されました…現在、念の為にと門番を任せていた天使2機がそれで重傷を負い…別の施設で、しかるべき治療を受けています。あの方が助けてくれなければ…どうなっていたか。」


「施設No.255…確か、昨日そこにいた人間全員を山頂に駆り出して、結果…全滅したから封鎖する事になったのではありませんでしたか?」


「その通りでごさいます。毎晩の記憶力トレーニングが生きてきましたな。」


(余計な事言うな…クソが。)


「その下手人は捕えたのですか?」


「ええ。天使のお二方を救ってくれた後、捕縛致しましたとも…しかしながら、その捕縛したお方が問題なのです。」


「救っただァ?はぁ…もう回りくどい事なんて言わずに、言ったらどうで…」


「『創造神』ユティ様でございます。」


ワタクシは一瞬、言葉を失った。


(えっ…ユティが?逆賊になって『大神』を降ろされたって、姉貴から手紙で聞きましたが…)


「本来なら、すぐにでも天界に突き出すのが良いのでしょうが、アデネ様と話がしたいと…うるさくおっしゃっております。如何しますか?」


「…分かりました。互いの秘密を分かち合った友として…そのお話は聞きに行きましょう。」


「ユティ様は現在、臨時キャンプで拘束しております…その少女は、私が預かりましょう。」


ワタクシは浪漫女を抱えている事を思い出して、ザクトにそっと渡した。


「この状況を見るに…この少女も下手人の一味ではあると進言致しますが。」


「黙れ。誰が何と言おうが、浪漫女はワタクシの客人だ。丁重にもてなせ…絶対に死なせんじゃねェぞ。」


(鼓動を感じた時から、テメェの事が気になってんだよ…あの船や『何か』といい、ワタクシがぶっ倒したんだから…約束通りしっかり教えてもらいませんと。)


「…かしこまりました。この老いぼれ…精一杯頑張らせて頂きます。では、失礼致します。」


浪漫女を抱えて華麗に一礼すると、瞬時に姿を消した。ワタクシも負けじと、華麗に跳躍しようとして…腹に開いた傷の所為で、何回か地面の味を味わって…臨時キャンプに戻った。


……


誰もいなくなった事を確認してから、スッと姿を現した。


「ケケケ…2人の視界からオレの存在を奪って観察してたが…突っぱねて、正解だったぜ。」


あの後クソ長ったらしい…加入するメリットを聞かされ「へぇ〜」となって、あの一言。


——大陸に反旗を翻す叛逆者が巣食う帝国を神、悪魔、精霊の3種族で一気に叩きます。


それが【3種族同盟】の最初の仕事だと…悪魔オレや精霊に力説してくれた。


そんな混沌女のやり口は…まともな奴だったら、百点満点だと拍手喝采を送るレベルだが、遊びとしちゃあクソほど面白くねえ。


(悪魔と戦争やめるとか、この大陸に悪魔の特別区域を設けるとか…途中から、もう阿呆らしすぎて、笑っちまう所だったぜ。ケケケ。)


グダグダと続くこの戦争をやめたり、特別区域なんてモンで満足しちまう奴らだと本気で思っているのなら…悪魔を舐めすぎだ。


その点。あの秩序男は、中々オレ好みな奴だったが…もう滅んだしな。悪魔と違って神は復活とかしねえからなぁ…あー残念だぜ。



神は互いに仲間意識はあるが、悪魔にはない。



よって、どう転ぼうが…あくまで(悪魔だけにか?)オレ個人の意思であり、他の奴らにはそれが全く適用される事がねえって事だ。


オレは船だった残骸の一部を手に取る。


(あの時、あえて人類代表を生かしておいて正解だったぜ。こんな面白えモンが見られたんだからよ。)


元創造女と船女の身柄や頼みの剣もぜーんぶ…山岳を拠点とした戦神女率いる『悪魔討滅隊』が押さえている。


「……どう足掻くのか…見ものだぜ。なあ?」


——精霊?


持っていた欠片を、勘で何もない空間に投げると…予想通り、黒い冠をつけて泥で滲んだような蒼色の瞳が特徴的な男…精霊が姿を現した。


(……?)


「…おやおや。気づかれてしまったか。私もまだまだという事かな?」


「…天界で終始、沈黙を決め込んだ引きこもりの王様がオレに何か用か?」


天界で見た時にもあったこの僅かな違和感。だが…その正体が何なのかは……分からない。


(いや……理解する事を…拒絶しているのか?)


「ごめんごめん。普段、魔法の研究ばかりで、他者と話す事には慣れてなくてね。私も久々に家から出てもう本当、ホームシック気味だから…ささっと言う事にするよ。」


色々と考えを巡らせる中、内心では全く笑ってもねえ癖にニコッと微笑んで、こう言った。



——天界が動く前に、武力を喪失した帝国を私達2人で滅ぼさないかい?




《第二章 侵略のカト帝国編 完》



Next…《第三章 婚約のカト帝国編に続く》

























































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