17 計画失敗☆後は頑張ってね2人とも♪

ロケット花火を真上に打ち上げ、撃つ場所を指定し『八重桜』の制圧射撃を浴びせれば、神や天使(なんなら面白半分で悪魔も)は『八重桜』を狙う筈だ。


マキナが砲撃を終え次第敵を挑発しながら、カト帝国へ撤退している間、見張りとして残っている天使を葬り、俺と女神が施設の中にある鉱山に侵入。入り口を女神が塞いで、鉱石を回収しつつ、最深部で掘っているトンネルが繋がるまで籠城戦に持ち込む。


そして繋がれば…トンネルに女神に速度重視の列車とレールを創造させて、回収した鉱石を詰め込み次第、発車。そうする事で、ここから3日はかかる距離をたったの2時間に短縮。


そして悠々とカト帝国へと帰還した後。女神をマキナの援護に行かせている間に、俺は最低限の鉱石を持って全自動工廠に行き、彼女の使う武装を制作。剣を本格的に起動させて…出撃させる。


いくら神や天使(悪魔も含む)といった奴らでも、3日間も飲まず食わずで不毛な追撃戦を繰り広げていたら、疲弊しているだろう。


こうなれば元々、対都市に特化しているマキナとは違い…対神、対天使、対悪魔に特化した剣…否、彼女の独壇場だ。


かくして、『八重桜』に釣られてカト帝国に攻めた奴らは残らず殲滅して、結果…鉱産資源取り放題となり…また一歩、俺の野望に近づいていく。


そう………その筈。だったのだ。



「俺は……どこで、間違えた。」


全ての元凶であるこの大戦犯を連れてきてしまったからか…俺とした事が、女神を策に組み込むなんて…少し思い返せば、たまたまいい方向に転んだ事はあっても、俺の計画通りに上手く行った試しがまるでないじゃないか。くそっ…そんな馬鹿げた判断した事が…俺の敗因か。


「もうっ、そんなに落ち込まないでよラスリント。ひくちっ……この牢屋って天界のと違って床が冷んやりしてて、体調崩しそうだにゃあ…ちょっと、君…上着とか持ってる?」


「『戦神』アデネ様が戻って来るまで…我慢。寒くても神は風邪引かない。」


「逆賊のユティ様はそろそろ黙って下さい。猿轡も必要ですか?」


「い、いやぁ…遠慮しとくよぉ。身動き一つ取れないしぃ〜☆」


全身を頑丈なロープで拘束されて、椅子に括り付けられているのにも関わらず、女神はこの状況を楽しむかのような笑みを浮かべていた。


(っ…何考えてるんだ。このままだと、俺や女神は殺されてるというのに…いやまだだ。マキナが戦神に捕まる前に、何としても天使2機の監視の目を掻い潜り…どうにか脱出する方法を考えなければ…)


唯一の希望だった剣も没収されて施設の2階にある牢屋にぶち込まれた俺はこの状況を打開するべく目を閉じて、考えを巡らせる。


「この牢屋の椅子の座り心地は…37点かなぁ。ずっと座ってたら腰が痛くなりそうだよぉ…今頃、マキナちゃん大丈夫かなぁ。まっ、どうにかなってるか☆」


「ねえリィン。この女神凄くうるさいから…猿轡。持って来たよ。」


「助かりますミィン…では、逆賊のユティ様…これをお付けしますので、無駄な抵抗はしないで下さいね。」



(……。)



「…えっ。嘘…いやいやいや、まって、いやっやめっ…助けてー!!!可愛い茶髪の天使達にイタズラされちゃうぅぅ!?!?」


「……この状況を楽しんでますね。」


「うーん…よし。もっといい声聞かせろよ。」


「リィン!?一体、どこでそんな言葉を覚えて…」


「……?アデネ様の真似だけど。」



ガタガタッ、ガタガタッ…



「きゃー。ランボーしないでぇー私には、元彼というか…彼氏がいるのっ…だ、だから…」


「ふぅん彼氏ィ?ははっ、そいつぁいいねえ…昂らせてくれるじゃんか。」


「…ちょっと、リィン…逆賊のユティ様と遊ぶのは…また後ででも出来ますから…」


「姉貴。いつまでも、そんなシケた事ばっか言ってんじゃねえよ。」


「っ…ぁ。」



バタンッ…!!!



「っ!?…はっ……ちょっと、なんかショックで倒れちゃったよ!?!?」


「…姉貴。テメェはさっさと、阿呆の私から縁を切りやがれ。そうしなきゃ…幸せになれねえんだよ。」


「ピクピク泡吹いて痙攣してる…そろそろふざけるのもやめよ、ねっ…本当にショック死しちゃう…てか聞いた事ないよ!天使がショック死って。」


「…うーん。どうだった?」


「えぇいや感想!?相方が倒れている今、感想が聞きたいのかい!?君…いや、リィンちゃんだっけ。いやぁ、面白いね。私でも引くくらいのマイペースさんな所とか…あははは!!楽しいなぁ…そうだ、折角だし君達についてとか、色々聞きたいな♪」


「…うん。私も、話してて…楽しいから。えっと、」


「ユティだよ☆これからよろしくね♪♪」


「よろしく…まず生まれてからずっと、私とミィンが闘技場で殺し合ってた頃から話す。」


「暗っ…え!?元々殺し合ってたのかい!?!?嘘でしょ…そんでそんで?」



(………っ。)



耳を塞ごうが、嫌でも女神や天使の話が耳に入って…全く集中出来ずにいると、突如…鉄格子側の壁が思いっきり爆ぜた。


「う…うぅ…っ!?これは、一体…体が瓦礫に挟まって…」


「痛い…あ。起きたのミィン…施設が攻撃されたよ。」


「そう淡々と言われましても…って、リィンも挟まってるではありませんか!?」


このタイミングで施設を攻撃する奴は、たった1人しかいない。


(まさか……マキナか!!)


「ぺっぺっ…モロで砂食べちゃった…あぁ〜最悪…あっ、ラスットは無事だったんだっ!?」


粉塵が舞う中、俺はこのチャンスを生かす為にユティへ駆け寄り…力ずくで椅子ごと持ち上げて、土砂で下半身が埋もれた天使2機の声を無視して全力で駆け出した。


「はぇぇ〜これが本当の…『火事場の馬鹿力』って奴かぁ…」


「うるさい…!はぁ…はぁ…今は階段を降りて、施設から脱出しないと……」


下へ続く階段に辿り着く前に…どちらかの天使が背後から放ったであろう光の矢が、俺の右肩を貫いた。


「あ…ぐっ。」


「ラストっ!!」


間髪入れずに次の矢がこちらに放たれる前に、俺は歯を食いしばって、右肩に刺さった矢を無理矢理、引き抜き…その矢尻で拘束されている女神のロープを切った。


「…っ、ありがと☆」


「壁!!」


「分かってますよ〜っと!」


2本目の光の矢が俺の頭部に届く寸前で、女神が壁を創造した。


「ふぃ〜これで大丈夫にはなったけど、ラスット。その傷…」


「とても擦り傷だ…とは言えないな。」


転移神の一件ほどではないが、無理矢理引き抜いた所為で、血が際限なく床に流れている。右肩は熱を帯び…まだ俺が生きている事を教えてくれていた。


「はぁ〜言わんこっちゃない。本当、しょうがないんだから。」


女神は肩をすくめながら、服の裾を千切って、俺の右肩に巻いて止血してくれた。


「あ、ありが…」


「とりあえず、ラスートは鉱山に行きな。私はこの階にある没収された剣を探しに行くから。」


「は?…いや、しかし2人で行動した方が…」


言い淀む俺に、ユティは指を突きつけた。


「考えてみなって。私はこの施設内で生き残れる力はあるけど、あの剣も持っていない今のラストは私にとって…ただの足手纏いにしかならないんだよ?」


「ぁ…それは確かに…その通りだが。」


何だ…俺の中にあるこのモヤモヤとした感情は。あのふざけた女神が、珍しくまともな事を口走ったから、つい困惑してしまったのか。


「そういう訳で…剣探すついでに、ラスットの分まで私がしゃかりき無双して、注意を引きつけとくからさ。マキナちゃんにヨロシク♪」


「っ…待っ、」


俺の静止の声を聞かずに、塞いだ壁に扉を創造した女神は、いつもの調子で天使がいる方向へと向かって行った。


「……」


追いたい気持ちはあったがもう一度、そっちに行けば…女神の言う通り、人間である俺は天使の放つ矢によって殺されて…今までの苦労が全てが台無しになってしまうだろう。


(……チッ。)


3分後…自分の今したい事よりも、計画を優先するべきだと結論付けた俺は、無駄になった時間を取り戻すべく右肩を抑えながら、階段を駆け降りて鉱山へ向かった。



































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