第46話 拉致 1
(なんでこんなことに……)
ルチアは、アレキサンダーに拉致され、どこに向かっているかもわからない馬車の床に転がされていた。
「ふむむむ……」
両手を後ろ手に縛られ、口には口枷をつけられているから喋る事も出来なかった。
ある意味、口枷があって良かったかもしれない。それぐらい、ルチアは口汚くアレキサンダーを罵っていたからだ。
ことは数時間前、ルチアはアレキサンダーを連れてゴールドフロント王と謁見していた。ノイアーはプラタニアの将軍としてではなく、ルチアの婚約者として、二人の後ろに控えていたし、護衛としてついてきたプラタニアの兵士達も、王城入りして与えられた部屋で待機していた。
ルチアは、国書をゴールドフロント王に差し出し、王が読み終わるのを待った。
「これは……」
ゴールドフロント王は、その国書に素早く目を通すと、頭を押さえて呻いた。
「私は何を読まされているんだ」
そう言いたくなる気持ちはわかる。息子のアレやコレやなんか知りたくなかっただろう。
「父上、未遂です!それに、大人同士、責任はお互いにあると思います。もし問題になるとしたら、ライザ王女と婚姻を結んでしまえば、国同士に繋がりもできて……」
「黙れ!」
ゴールドフロント王はアレキサンダーを一喝した。その肩は震え、顔は怒りで土気色になっている。
「あれだけ問題はおこすなと言い聞かせたものを……。プラタニアの王太子と親交を深めろとは言ったが、王女に手を出せなど言っとらん!」
「でも父上……」
「うるさい!おまえは黙っておれ。エムナール将軍、ゴールドフロント国王として深く陳謝する」
頭を下げるゴールドフロント王に、ノイアーは厳しい視線を送る。王はその視線に唇を震わせながらも、あえて視線をそらさずに言葉を続けた。
「この条約……、了承しよう」
王は、この条約を突っぱねればどうなるか、先の先まで読んで苦渋の選択をした。プラタニアは、アレキサンダーを許すつもりはなく、戦争を起こすきっかけとしてこの無茶な条約を持ちかけてきたのだろうと、その真意を読み取った。
条約には、アレキサンダーが言っていたような婚姻による責任をとるというようなことは一言も書いておらず、問題を起こしたアレキサンダーの廃嫡、損害賠償として塩の製造方法並びに専売権の譲渡、あと細かい要求が事細かに書いてあった。
「条約って?」
ゴールドフロント王がテーブルに置いた国書を、アレキサンダーは覗き込んだ。
「なんで僕が廃嫡されなければならないんだ!」
(そういうとこだよ。国を思うなら、自分の廃嫡よりも塩関係の条約の方が問題があるよね)
「おまえは下がっていろ!衛兵、アレキサンダーを部屋に連れて行け」
王の言葉に逆らう兵はおらず、ギャーギャー喚くアレキサンダーは、力尽くで部屋から退出させられてしまった。
「馬鹿な子ほど可愛いというのは、よく言ったものだ。一人息子だからというのもあるが、私はあの子が生きやすいようにレールを敷いてやりたかっただけなのに……」
ゴールドフロント王はがっくりと肩を下げ、ノイアーと条約のことについて話を掘り下げだした。王は全てプラタニアの意向をのむ代わりに、アレキサンダーの処分は王太子位の剥奪のみとし、廃嫡後は公爵位を与えること、また、その子供には王位継承権を与えることを条件にした。つまり、民の豊かな生活を切り捨て、息子の命と直系の継承を望んだのだ。
そのおかげで、回避不可能に思えた戦争は回避できたようではあるが、これから先、塩の専売を失った民が困窮していくだろうと思うと、なんともやるせない思いがした。ルチアは、ノイアーに先に部屋に戻ることを告げ、王城内に用意された客室へ一人戻った。
(なるようにしかならないよな)
ルチアは、大きなベッドに横たわり、もしかしたらこれで何度も繰り返されてきた死に戻りの連鎖は絶たれたんじゃないかとボンヤリと考えていた。
ルチアの死の加害者であったノイアーとは、深い繋がりができた。それこそ予想できないようなトラブルが起こったり、不可抗力的な何かが起こらない限り、ノイアーがルチアに危害を加えることはないだろう。そして、不可抗力的な何かが起こるトリガーになり得る戦争が、今回は回避できたということが、ルチアを安堵させる大きな要因となった。
(来年にはノイアーと結婚式を挙げて、子供は三年後くらいに最初は男の子、その二年後くらいに女の子が授かるといいな。なんならもう二人くらいいてもいいかも。で、子供達が大きくなったら、爵位は子供に早く譲って、また二人っきりで新婚さんみたいに過ごすの。小さな家で、使用人は数人。朝ご飯も昼ご飯も夕ご飯も一緒、もちろん寝るまで二人で……)
ルチアは、平凡だけれど幸せな将来を夢見て、いつの間にか深い眠りについていた。その時、扉が開いてノイアー以外の男が部屋に忍び込んで来たことに気がついていなかった。
★★★
「ルチア……俺は全てを失った。おまえまで失う訳にはいかない」
睡眠薬入りの小瓶の蓋を開けると、男は小さな寝息をたてるルチアの鼻先に持って行く。その揮発した液体の匂いを嗅いだルチアは、さらに深い眠りにつき、男はそれを確認すると、ルチアを後ろ手に縛って担ぎ上げ……ようとして挫折した。小さくて軽そうなルチアだったが、意識のない人間は予想以上に重かったのだ。男の筋力がなかったからというせいもあるが。
男は窓を開けると、ベランダに潜んでいた男を部屋に呼び入れた。
「サントス、ルチアを運べ」
「はあ……」
部屋に入って来たのは、アレキサンダーとその側近であるサントスだった。
「(ルチア様、申し訳ありません)」
サントスは心の中で謝って、ルチアを抱え上げ、ルチアの部屋のベランダに仕込んでおいたの荷台にルチアを乗せてシーツをかぶせると、荷台を押して裏庭を抜け、裏門に用意してあった馬車にルチアを運んだ。
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