番外編 ノイアーとデート1(良いお年を)

 少し濃い目のお化粧をしたルチアは、盛りに盛った胸元を満足気に見下ろしながら、うぐいす色のドレスを整える。

 アンには、もう少し化粧を薄めにした方が良いとか、パットなんか入れなくても(すでにノイアーにはペタンコなのはばれているんだから)と言われたけれど、初のノイアーとのデートだったから、少しでも大人っぽく、ノイアーの隣に立っても見劣りしないように頑張ってみた。


 胸元の露出は少ない(盛っているのがバレてしまうから)けれど、背中はレースで透けて見えて色気を漂わせているし、十センチヒールを脱いだら引きずってしまうくらい長いロングスカートは、スタイルを良く見せてくれる筈だ。幼く見えないように、口紅は赤めを選んだ。


 ルチアはノイアーを待っている間、大人っぽい自分と、大人のノイアーが、しっとりと腕を組んで川辺りをデートする姿を想像し、ニヤニヤと笑う。「今日は綺麗だね」とか言われて、ノイアーの顔が近づいて来てチューされる……なんてこと、ちょっとしか想像していないからね。


「お嬢様、何を妄想しているかわかりませんが、お顔が崩れていますよ」

「失礼ね。ただ、初デートが楽しみだただけよ」

「あ、ノイアー様がいらっしゃいましたよ。では、私はこれでお屋敷に下がらせていただきます」

「気をつけて帰ってね。馬車代をけちらないで、ちゃんと馬車を拾ってね」


 ルチアは、少し多めの金貨をアンに握らせ、ノイアーにブンブンと手を振る。その様子はあまり大人っぽくはありませんよとアンは思いながら、後ろに下がってルチアがノイアーの元に走り寄るのを見守る。


「そんなに走ったら転んで……あぁ」


 ルチアがつんのめり、転びそうになったところを、一歩前に踏み出したノイアーが支えるのを見て、アンはホッと息を吐き出す。


 ノイアーが出征する前日、二人がお互いに気持ちを繋げ、身体を重ねたことは、ルチア付きの侍女であり姉のようにルチアを見守っていたアンは知っていた。


 最初、会ったこともないノイアーのことを好きだと言い出したルチアに、うちのお嬢様何を企んでいるんだ?と胡散臭く思っていたが、ルチアを一人でプラタニアに送り込むという選択肢はなく、一も二もなくルチアについて隣国にやって来た。初めてノイアーを見た時は、見た目の威圧感もさることながら、見えない覇気に圧倒され、ルチアを抱えて逃げ出そうかと思ったくらいだった。それが、そんな覇気にも押されることなく、ノイアーにガンガン攻めていき、あの雷靂の将軍を落としたお嬢様、最強じゃない!?と、アンは内心ルチアに喝采を送っていた。


 心配がない訳では無いが、ノイアーがルチアを大切に思っていることは伝わってくるので、婚約前に手を出しやがって……という気持ちは置いておいた。もし、ルチアを蔑ろにすることがあれば、いくら雷靂将軍とはいえ、死ぬ気で抗議をする(確実に返り討ちに合うことはわかりきっているから)つもりではいる。


 しっかりとルチアを支え、(地面に足がついているだろうか?)エスコートをして歩き出す二人を見て、アンは珍しく満面の笑みを浮かべて踵を返した。

 金貨は懐にしまい、アンは健脚で歩き出す。もし何かがあった時に、ルチアを連れて逃げ出せるように、アンはお金を貯めていた。もちろん、そんなものは使わないに限るが、アンはなにがなんでもルチアを守らなければならないと、意味もわからないけれど切実に思い込んでいた。


「今度こそは絶対に……」


 なんでそんなことをつぶやいたのか、アン自身も理解してはいなかた。



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