第25話 球技大会 6

翌日を迎えた。


今日は、嬉しいことに本部の仕事がない。ようやく、役員ではなく選手としての球技大会が始まる。


当然ながら、役員は多忙なので練習する時間があまりない。だが、クラスのみんなが集まれる時は、時間の許す限り練習をした。とは言え、他のクラスと比べたら練習時間は圧倒的に少ないだろう。


こういう時こそ、普段ほとんど見せることがない協調性を発揮することが大切になる。これまでの経験から個性が強く自由人が多いこのクラスの協調性に期待なんてしていないが、そんなこと言っている場合ではない。


やる時はやらねばならないのだ。


それに、こちらには大エースの大聖がいる。


チームスポーツは、個人よりもチームが優先されるため、ひとり強い人がいたとしても対策されて終わるが、それが対策が不可能なほどの圧倒的な個だったらどうだろうか?


翼調べでは、大聖は部活内でも指折りの選手で他の部員と比較しても明確に負けるという選手はいないほど。つまり、これは圧倒的な個でありアドバンテージがあるといえる。


例え、3人を相手にしたとしても手玉に取れるだろう。ならば、戦術に組み込まないわけにはいかない。


優勝という目標をより現実的なものとするため、この大会では戦術大聖で行くことにした。

ディフェンスは、より強固に。ボールを奪って大聖にパスし速攻をしかける。

もし、大聖に渡すことが難しい場合は俺が相手自陣から3ポイントシュートを狙う。


「琴って、レイアップめちゃくちゃヘタだけど3ポイントはびっくりするくらい性能いいよな」


これは、練習の時、大聖に言われたことだった。

バスケなんて昼休みに友人とやっていたくらいしか経験がなかったから自分でもどうしてこんなに上手くいくのかわからない。


バスケの隠れた才能が開花したとかそんなことも考えたりはしたが、レイアップが下手だったりドリブルが凡才である時点で才能なんてなくて、ただ運がいいだけなのかもしれない。だけど、理由がどうであれ俺の力がチームの助けになれるなら願ってもない。


俺ができるだけいい状態でシュートが打てるようにチームメイトも協力してくれるようだった。


時間が流れ、いよいよ第一試合。


俺のクラスはAチームということになり、初戦はCチームと戦うことになる。Cチームは理系のクラスで去年クラスメイトだった面々もちょくちょく見かけた。


相手もこちらに気付くと懐かしむように手を振ってくれる。俺もそれに応えるように手を振り返したが勝負となれば話は別だ。


両チームの先発の5人がコートに並ぶ。

挨拶を交わし、それぞれの位置についた。俺はこの試合でSGを任されることになった。シューティングガードとも呼ばれるこのポジションは、3ポイントや攻撃の起点を作るなどが主な仕事だ。得点力があることが条件とされているが3ポイントが得意な俺がチームの中で1番の適任だった。PGには、小学校でミニバス経験者だった人が入り、SFには運動神経がいいクラスメイト。Cには屈強でポストプレーをこなしてくれるクラスメイト。そして、大聖はPFに入る。ミドルレンジやゴール下での得点を確実に決めてもらおうということになる。経験者が率先してポジションを決めていってくれたおかげで早いうちからそのポジションで練習することができた。お陰で役割も理解できたし、そういう部分もうちの強みであるだろう。


試合開始と共にボールが宙を舞う。


「そこ、もっとしつこく行って!!」


「大聖にパス!!」


「今だ!そっからうて!!」


バスケ経験者であるPGと大聖による的確なオーダーで相手を制圧。大聖がエースの名に相応しい活躍をして得点を重ねていった。


俺も局面で3ポイントを決めるなどそこそこの活躍をして初戦のcチームを圧倒。続くBチームや強化指定クラスのEチームも激戦の末、打ち破るなど破竹の勢いでグループリーグを突破。決勝トーナメントに進出した。


「やっぱ、俺の思った通りだ!!このチーム強ぇよ!」


グループリーグが終わり、午後から決勝トーナメントが始まるためお昼休憩だったのだが、大聖は興奮冷めやらぬ様子だった。まぁ、無傷でグループリーグを勝ち上がったんだから気持ちはわからなくもないが。


「琴も凄かったぞ!大活躍だったな!」


「いやいや、そんな活躍はしてないって……」


俺のやったことといったら一試合で数本の3ポイントを決めたことくらい。それも凄いらしいのだが、大聖へマークが集中してたこともあり、かなり余裕をもってシュートを打ててたんだ。だから、自分の力というよりかは大聖のおかげでこんなに取らせて貰っているという気持ちの方が強い。まぁ、チームに貢献できて嬉しいことには変わりないのだけど。


「謙遜するなよ。俺より全然活躍してたから!」


こうやってチームメイトも褒めてくれる。嬉しいけど勘違いして浮き足立っちゃうから程々にして欲しいものだ。


「ヨシっ!この調子でベスト8も突破して優勝取っちゃおうぜ!!」


「「「おー!!」」」


大聖の掛け声にみんなが応える。

午後からのトーナメントが始まろうとしていた。



「へいっ!俺にパス!」


「そこ、まけるな!」


「うて!!」


トーナメントになってからも我らAチームは勢い落とすことなく勝ち進んでいた。ベスト8で当たった1年のDチームを倒しベスト4に残り、そして3年のBチームをいま破り、次は決勝となる。


リーグ戦はベンチメンバーもうまく使って疲労を軽減していたが、トーナメントになるとそういうわけにはいかず、固定化されるようになっている。特に、大聖はトーナメントの二試合、ずっと出ずっぱりの状態だ。本人は大丈夫と言っているが……


「まもなく、決勝戦2年AチームVS3年Eチームの決勝戦を開始します」


アナウンスに促され、会場には多くの人が集まっていた。もちろん、そこには午前まで本部で役員の仕事をしていた絵麻の姿も。どうやら、自分の仕事が終わったらしくこちらに駆けつけたようだった。


「それでは、先発メンバーは整列してください」


挨拶を交わすためにお互いが一列に並ぶ。


「宇積田……また会ったな」


「あ、あなたは………」


俺のちょうど目の前。つまり、対戦相手である3年Eチームにいたのは、昨日絵麻を強引に誘っていた那須先輩だった。

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