第21話  球技大会 2




「お前ら、今日はよく集まってくれた。今から、運営会議を開始する」


7限の会議室。そこには、今回の球技大会の運営を担当する生徒会と風紀委員会のメンバーが集められていた。2つの委員会合わせて総勢50名近く。本来なら生徒会室で会議を行うべきなのだが大人数ということでキャパシティに余裕のある会議室に変更されている。長机を並べてそこに椅子を置いていく。ホワイトボードが見やすいように設置された椅子にそれぞれ役員が座って行った。


ホワイトボードの前に生徒会長である道脇先輩と風紀委員長である鏑木先輩が並び、司会進行を務めていた。


「当日の流れとかその他諸々が記された資料はいま手元に配った通りだ。そこには、お前らの出場可能の種目も合わせて記載した。よく確認して間違えないようにな」


ホワイトボードにペンをトントンと音立てて鏑木先輩が資料内容を説明する。

今回の球技大会では、バスケットボール、バレーボールの例年の種目にソフトボールを追加した計3種目が行われる。


どの種目も男女別に分け、同学年の総当たりのリーグ戦を行ない上位2チームが決勝トーナメントに進むかたちとなっている。


去年までは一回戦から単純なトーナメント制だったものを今年はリーグ戦を行ってから決勝トーナメントを行う形に変更した。これでどこのクラスもある程度試合数も確保でき平等になった。年々生徒からあがる試合数を増やしてくれという要望に生徒会が応える形になったのだ。


鏑木先輩が言っていたように資料には競技概要だけではなく俺たち風紀委員の参加種目が書かれていた。風紀委員二学年男子の参加種目はバスケットボールとなっていた。因みに翼はバレーボールとなっているため生徒会と風紀委員会男女学年別に参加競技が振り分けられているようだった。


何はともあれ、参加種目は決定したのだ。


バレーボールはあまり得意ではないためバスケットボールに決まってよかった。大聖もおそらく参加するだろうし、俺のクラスも優勝を狙えるかもしれない。


そんな期待に胸を膨らませながら、会議の内容に耳を傾けていた。



「あ、せんぱ〜い。お疲れ様です♪」


放課後、風紀委員の当番のために応接室2に向かうとそこには絵麻が待っていた。

放課後の応接室2はいつもなら閑散とし風紀委員の姿は見えないのだが、球技大会が間近ということもあり当番ではない他の風紀委員役員の姿もあった。


きっと、ここにいる役員以外も放課後返上で走り回っているのだろう。俺と絵麻も昨日までその中の一人だったが、今日は放課後の見回りのため少しだけ余裕がある。


いつもなら憂鬱だと思っていた常時活動もこういう時はご褒美に感じられるのが不思議だ。

まぁ、見回りが終わったら帰れることなんてあるはずもなく、球技大会の準備に加勢しなければならないのだが……


「はぁ…さっそく、行ってくるか」


荷物を置くと同時に絵麻にそう声をかける。理由は単純明快、他の風紀委員が「見回り理由にサボるんじゃねぇぞ」と視線で訴えてきたためである。どの年中行事でも言えることだが、本番が近くなればなるほど運営側がピリピリした空気になる。


個人的にはこういう空気はあまり好きではないのだが、そこは腐っても風紀委員。やはり、どんなに個性的なメンツであったとしても真面目なところはちゃんとやらないと気が済まないらしい。普段からそれができたら今頃生徒会だったんだろうなぁ……とか思いながら、絵麻を応接室を出たのだった。



「いやぁ〜、ピリピリしてましたね」


「まあ、本番も近いし仕方ないな」


普段どんなに面白く穏やかな人たちでもこればかりは仕方ない。見回りがある俺たちだから心に余裕があるだけで終わったら死にそうな顔をして校内を駆け回ることになるだろう。


「あ〜あ、球技大会がなければもっとせんぱいとのんびりできたのにぃ…」


不満を堂々と漏らす絵麻。

学校なんだからもう少し自重してほしい。

どこに耳があり盗み聞きされているかわかったものじゃない。


「あまり、学校ではそういうこと言うなよな。ただでさえ、変なウワサあるんだし」


「変なウワサですか??」


「最近出始めた、俺と絵麻が付き合ってるんじゃないかってウワサだよ」


「え〜!そんなものが??」


「白々しいな、絶対知ってるだろ」


「まぁ…ウワサ程度には」


「風紀委員の当番でこうやって一緒にいるだけなのに、変な噂を立てる者もいるもんだな」


もちろん、あくまで噂。俺たちが風紀委員バッチをつけて見回りしているのでこれが仕事だということは他の生徒も理解している。

だが、そういう話が好きな生徒も存在していて根も葉もない噂をたてたがるのだ。


「にひひ……そのウワサ、わたしとしては、やぶさかではないですよ??」


「…………冗談はよしてくれ。お前のガチ恋勢の標的になんてなりたくない」


この数か月で更に絵麻のファンは増えた。中にはガチ恋と呼ばれる層がいることも知っている。


「そんなことなりませんよ~。てか、そんなことわたしが許しません」


「お前がそう言っても予想外の行動をとってくる奴は世の中に存在するんだよ」


「そうですかねぇ……」


「そうだ。だからそんなはさておき、準備に遅れるわけにもいかないから急ぐぞ」


「せんぱい??わたし、ずっと冗談じゃないですケド??」


「あ〜、多分このあとも忙しいだろなぁ……」


「むぅ……またそうやって誤魔化すんですね!!」


「ほら、早くしないと準備が間に合わないし」


準備があるのは本当だ。だが、誤魔化しているのも嘘ではない。

あれから変わらず……いや、以前にも増して絵麻からのアプローチは続いている。

言葉で言い表すのは非常に困難なのだが、色々な意味で大変なのは間違いない。


「ふーん。そういうことばかり言ってると球技大会本番で応援席からおもいっきりせんぱいのこと応援しますよ??それでもいいんですか??」


「やめろ。うわさを自ら肯定しようとするな」


「う~、じゃあ、当日の見回りで手をつないだりしちゃいますか??」


「……俺の話聞いてた?」


「聞いてましたって、球技大会当日の見回り当番わたしと一緒で嬉しかったって話ですよね??」


「全然違うから、ていうかなんでまた一緒になってるんだ??絶対何かしただろ??」


今回のペアは完全シャッフルにしたと鏑木先輩から聞いている。

それなのに何故かまた同じペアになってしまったのだ。


「え~?わたしはなにもしてませんよぉ~。むしろこれは運命なんです」


絵麻はこんなこといっているがおそらくクロだ。

常識的に考えてありえない。


「まさか、他の仕事とかにも口出ししてるんじゃないだろうな……」


「失礼ですね!さすがのわたしもそこまでやったりしませんよ!!……あっ」


「あ、自白したな」


「っ――さ、さすがですねせんぱい。わたしの純粋無垢な心を弄ぶとは中々極悪非道なことをやりますね」


「別に俺はなんにもしてないけど」


「ふふふ、わたしの弱点を的確についてくるとは……いやはや感服しましたよ」


「勝手に自白しただけなんだよなぁ……」



俺はただ当日の他の仕事に影響が生じないか心配していたにすぎない。

今回の風紀委員会は運営補佐という立場を超えて本格的に運営に参加する。

例えば、審判や案内放送、本部運営に結果集計などがある。それに加えて本来の仕事である見回り(警備)があるのだ。

見回りが同じだったので審判とかでも入り込んでくるかと思ったがどうやらそこまではやっていない様子。


「風紀委員の仕事も大切ですけど、実際に選手として出場する競技も同じくらい大事です。せんぱいは、確かバスケットボールに出るんでしたね??」


「よく知ってるな……」


「資料が配られたとき、わたしの名前よりも先に探したので!」


「さいですか……」


「せんぱいが優勝できるように精一杯応援しますね?」


「ありがとう、だけどほどほどにな……」


「はい!もちろんです」


絵麻がやっていいこととダメなことの区別がついているということはわかっているのにそれでも少しだけ不安を感じてしまうのだった。




―――――――

更新できずすみません。もうしばらく忙しいです。

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