第18話 喧嘩

「おいッ!そこどけやァ!」


「そうだ、邪魔だ!」


「うるっせッ!!最初に場所取ってたのは俺らだっての!!」


「だいたいお前らなんかに譲るかよッ!」


騒ぎの中心には、二組の二人組の男子がそれぞれ言い争っていた。

着用している体操着の色からして恐らく三年生。

まだ殴り合いには発展していないようだったが一触即発の雰囲気である。

割れ物のある食堂で喧嘩なんて始められたら被害がどのくらい広がるか想像できない。


考えうるに最悪の事態すらある。

それだけは避けなければならない。

なんとかして沈静化しないと。


「ちょ、ちょっと!落ち着いてくださいっ!」


「ああん?なんだよっ!??俺たちは、いま大事な話の途中だっての!?」


「てか、お前らなんなんだよ!?」


「風紀委員です」


「ちッ……めんどくさいのまで出てきやがって……こんなことになったのは、さっさと席を譲っとかないオメーらのせいだかんな!!」


「だから、俺らが先にいたつってんだろうが!」


「あん?そんなわけないだろッ?俺たちが先だ、テメーらが消えろ!」


「なんだとぉ!?やるかオラ!!?」


「いいぜ……やれるもんならやってみろやッ!!」


俺の静止も虚しく、三年の先輩方はどんどんヒートアップしていく。

くそ、誰か先生が居れば止めに入ってくれたんだろうけど……

昼休みは基本的に自分の準備室や職員室にて昼食をとりながら次の時間の準備をするためわざわざ食堂までやってくるという人はあまりいない。

そして、今日もそんな日だった。

つまり、ここに教師は誰一人としておらず、いるのは生徒のみ。


やっぱり、このまま傍観してるわけにはいかないよな…

周囲の注目を集め、次第に大事になっていく様を指を咥えて待つことはできない。


「藤森、念の為職員室に行って先生を呼んできてくれ」


「わ、わかりました……でも、せんぱいはどうするんですか?」


「俺はどうにかして仲裁してみる」


「仲裁って……もうそんな域超えてますよ!?キケンです!」


「でも、誰かがやらないと。放置してたらケガ人だって出るかもしれない。だから、俺のためにも急いで先生を呼んできてくれ」


「あ〜もうっ!わかりましたよ!その代わり、絶対怪我しないでくださいね!約束ですからね!」


「わかってる。頼んだぞ藤森」


絵麻はコクりと頷くと職員室に向かって駆け出した。

よし、これでなんとか解決には向かうだろう。


あとは、俺が時間を稼ぐだけ。


両者胸ぐらを掴み合ってるその混沌の中心へ俺は歩みを進めた。


「せ、先輩方、取り敢えず落ち着きましょ??席だってまだ他にもあるんだからどちらかそっちに移っては?」


「さっきからうるせぇぞ、2年坊主!なんで、俺たちがそんなことしなきゃいけねぇんだよ!俺たちが先にここ取ってたんだから動く必要ねぇだろうが」


「じゃあ、あっちが?」


「んなわけねぇだろ!?俺たちだって、誰もいなかったから座ってただけなのに、あたかも席を取ったみたいなこと言われて許せるわけねぇだろ!こっちはなんにも悪いことなんてやっちゃいねぇーよ!」


うーん。どっちも興奮気味で言ってる意味がイマイチくみ取れない。

Aがそこに座るとあらかじめ決めてたのにBが座ったから喧嘩になってる。

この解釈で正しいのだろうか。

この考えが正解か不正解かなんてこの際どうでもいいが、これくらいでケンカするようなことなのか?というのが正直なところだ。


他に席が空いてるならそっち行けばいいじゃんと思ってしまうのだが、きっと俺にはわからないプライドというものがあるのだろう。


「もう公平にじゃんけんにしません??」


「あん?なんでじゃんけんで決めなきゃなんだよ、アイツと同じように扱いやがって。何回も言ってるがこっちは別に譲るような理由ねぇんだよ」


「てか、そこにいるオマエが一番邪魔だ。さっさとどけっ!」


一瞬足元が浮いたと思ったら俺は突き飛ばされていた。


ガシャん!!!


きゃー!と叫ぶ女子生徒。

食堂のテーブルに当たる音と共に背中に猛烈な痛みが走る。


「お、おいっ……」


「やべっ……やっちまった」


周囲のザワザワとする声と女子の悲鳴。

当事者の彼らもようやく冷静さを取り戻したのか、声は幾分か穏やかに……いや、震えていた。


「せ、せんぱい、先生を連れて……って!せんぱいッ!?」


そこにちょうど現れたのは、教師を数人引き連れてやってきた絵麻だった。


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