彼女を希と呼び始めたのは

昔から彼女は普通じゃなかった。

思えば幼稚園の時から、どこか変わっていた。

いつも上の空というのだろうか

みんなとは馴染まず、自分の意見を持っている人だった。

でもなぜか魅力があって、自然に周りに人が集まっていたんだ。そして私もその一人だった。

それは小学校に上がっても変わらなかった。

彼女は自分のことは何も明かさないくせして、みんなのことは全部知ってる。会話が上手かったし、高学年になると容姿も際立ってきて、殊更人を寄せ付けたからだ。しかしだからと言って彼女の周りの男女関係を起点として、いじめなどのトラブルが起こることもなかった。それは彼女が集まってきた人に一切興味がないということをみんな分かっていたからだろう。


そしていつからだろう、私が彼女をのぞみと呼ぶようになったのは。


私は小学生の頃、1年から6年までクラスがずっと同じだったのもあって、彼女の近くにいる人の中でも最も近くにいた1人だったと思う。その分、他人より多く話したし、長い時間を過ごした。

でも、4年生になったころだろうか、母が「中学受験しなさい」と押しつけがましくきて、その勉強を始めてからは勉強に集中するようになって、彼女とは少し関わりが減った。


自分では結構勉強したと思ったのだが、結局受験には落ちた。正直、かなり落ち込んだし、親にも露骨に失望された。もっとレベルの低いところを受ければよかったのだが、親が国内トップの学校に行きなさいと言って勝手に出願したので、どうしようもなかった。親、特に母は理想が馬鹿みたいに高かったし、受験失敗という明確な不出来要素できてしまったためか、その日以降、私を見る目が冷たくなった。


中学受験をするということは彼女にも言っていたので、公立の中学に上がりクラスが同じになったときに、受験に落ちたことは伝わってしまった。6年間一緒にいた友達が落ち込んでいることを見て流石に何かを感じたのだろうか

「今日一緒に帰らない?」

と初めて誘われた。これまで彼女は学校以外では他人と関わろうとせず、放課後友達と遊んだという話も聞かなかったので、これにはびっくりしたし、自分を特別扱いしてくれているのではないかと、少し、いやかなり舞い上がった。

その時、長い受験生活で友達が少なく、家では家族の目が嫌で居場所がなかった私は、できるだけ彼女と一緒にいた。


そして、幾週か経ったある日、家に帰りたくなかった私は彼女に無理を言って、家にお邪魔させてもらった。それからは、学校と彼女の家にいる時間が大半を閉めるようになった。そのような日が連日続き、完全に人間関係が彼女一人となったときには、私の目には彼女、希しか映っていなかった。


あぁ、私が彼女を希と呼び始めたのは、確かこのころだったっけ……

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ある日、クラスメイト全員が死んで、僕だけ生き残ったので事情聴取されました 真辺ケイ @kei_kei

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