『怪電波、受信中』 現代ホラー短編
碧色
縦型ショート動画
ガチャッ
大学とバイトから帰ってきた。
私は東京の女子大に通いつつ、バイトで生活費を稼ぎ一人暮らししてる。家賃はかなり安めのところを選んだけど、それでも生活費はかなり厳しかった。
そんな疲れた私は家では縦型ショート動画をぼーっと見続けることでしかストレス発散出来なかった。せっかく映画を見れるサブスクに登録しているのに、なかなか腰が重い。
ショート動画を見ていると可愛い猫の動画や、外国人がえんぴつを投げて上手く隙間に入るまで繰り返す動画みないなのが流れてくる。別に何が見たいという訳でもない。ただ、動画が流れないのが不安になってきている。お風呂の時もトイレの時も、動画の画面が見えなくてもとりあえず流しっぱなし。中毒なのかも。
その日もいつものように動画を見てた。確か時間は23時くらい。気になる動画が流れてきた。ショート動画にはバズったもの以外にも、全く人気のない動画も流れてくる。老人が使い方も分かってないような自分の顔の動画であったり、まだ人気の出ていない配信者の動画であったり。
その時流れてきた動画もそういうものだと思ってた。けど、なんだか違和感。その動画は街を歩いてる動画。カメラはブレブレで、音も雑音がひどい。でも、この動画の景色に見覚えがあった。
これ、私の地元だ。私が仲良かった友達の家が映ったから間違いない。私の地元の人が配信してるってことに気づいて思わずその人をフォローした。ホームシックもあったし、なんなら知り合いかもしれないと思った。
それからその人の動画が出る度に見てみた。相変わらず動画はひどいけど、懐かしい景色が沢山出てきてなんだか心に染みた。ただ、なんだか懐かしいことが違和感だった。
私の田舎はそこまで狭いところでもなかったし、私が行ったことのない場所も沢山ある。なのにその配信者は私が懐かしいと思うような場所の動画しか上げてなかった。いよいよ同じ学校だった人かとおもってコメントを書いたけど、見てないのか無視された。
ある日、私は気づいてしまった。その動画、私の実家に少しずつ近づいてる。友達の家の付近から始まって、学校の前を通り、少しずつ。私はなんだか不安になって、家が映った友達に久しぶりに連絡してみた。
「え?」
亡くなっていた。確かに連絡は取ってなかったけど、いつの間にかだった。その友達には連絡は取れなかったから他の地元に残った友達に聞いたところ、家が全焼して友達の家族全員が亡くなったらしい。他にも学校の前の道路で交通事故も起きていた。どちらも動画が出ている時間と一致している。日曜の19時頃。
私はもう不安でいっぱいになって家族に連絡した。家族は元気に電話に出て、大学やひとり暮らしの状況を聞いてきた。安心して涙がこぼれたが、来週までに時間は無い。動画1週間に1本、日曜の19時に出ていた。私は電話で話しながら、都内のホテルを予約をした。それから、
「 大学に通わせてくれた親孝行としてバイト代でホテルを予約した。そのホテルの予約を間違えて来週の日曜にしてしまったけど、お願いだから来て欲しい」
ということを言った。正確にはどんな風に言ったかは思い出せない。とにかく必死に家族を家から離そうと思った。家族は少し困っていたけど、嬉しくはあったらしく、来てくれる事になった。
私はひとまず安心したが、油断はできない。家族が帰ってからまた動画が出るかもしれない。家族が東京に来たのをお出迎えしてホテルに案内した。一緒に泊まろうと言われたけど、大学の課題を言い訳に私は泊まらなかった。
その配信者の続きの動画が出た。
私は震える指でその動画を再生した。その動画は私の実家を映していた。すぐに家族に連絡したが、ホテルの食事が美味しいと返ってきた。
安心していると動画がまだ続いていることに気づいた。見ているとその動画は家の中にいた。私の実家の中に。なんで、という疑問が出る隙もなく動画は進んでいく。階段を上る。2階には両親の寝室と私の部屋がある。私の部屋の前に立つ。動画はそこで終わった。
インターホンが鳴った。
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