第39話 魔人国

 その地は、混沌としていた。

 あるときからご神木が、黒きよどみを吐きだし、その影響で弱きものは命を失った。


 それに耐える力を持つ者は受け入れ、異形へと変化をした。

 それは悪いことだけではなく、その恩恵として、魔力に対して異様な親和性を持ち、従来使えなかった力を発する。


 角が生え、その大きさが力を示す。


 魔王ウーラノスが問いかける。

「神木の以上は収まらぬのか?」

「はい。浄化の光を発しております」

「うぬ。数千の昔に戻ったようだな」


 周囲には、四天の王達。

 エリーニュス、ギガース、メリアス、ヌュークスが控える。


 今となっては、忌ま忌ましさを感じる光。

 だが、古来よりの書物には、あの光を取り戻そうと先人は苦労をした。

 だがそれは、かなわないまま、時が過ぎた。


 それがなければ、とっくに切り倒したであろう。


「古来よりの悲願はなった。だがしかし……」

 魔王はやりようのない心を持て余す。


 いつ元に戻るか分からない、それなりで生活を行うが、生活の場を、少し光から離れた場所へと求め始める事にする。


 そう魔王国は、獣人国へと侵攻を開始する。



「大変です、魔人達がやってきます」

 それを聞いて、獣人王ナラシンハは剣を持つ。

 身の丈ほどもある、両刃の大剣。

 愛剣であるシニフィカトビスタムを掴む。


 この剣は、獣人王の象徴であり、扱うことは王の力を示す。

 刃は伝説の金属オリハルコンだか、アダマンタイトとか言われている。


 大昔、先祖がこの地に降り立ったときに使った、宇宙を渡る船。

 その船から削り出したと伝説がある。


「行くぞ、我が地へ踏み込んだこと後悔させてやろう」

 そうこの千年以上幾度も戦いはあった。

 武の獣人、魔法の魔人族。


 その戦いは、以外と拮抗をして、住み分けていた。



「久しぶりだな、獣の王よ」

「抜かせ異形の者達よ、性懲りもなく来るとはな、今度こそ力の違い見せてやる」


 そう、大軍を率いているのに、大将同士のドツキ合い。

 周りの兵は、声をかける。


「獣王様、今度こそ勝ってください」

「魔王様、頑張ってぇ。獣の丸焼きで祝杯をぉ」


 そう今までは、決着がつかず、両者ノックダウン。


 だが今回、魔王の方が分が悪い。

 神木からの瘴気が薄れている。

 そのため、わずかに力が落ちた。


 それが結果的に、魔王が余裕をなくすことになり、使わなかった大技を使うことになる。



「ぬうううっ」

 いきなり大技。

 今までは、言わば舐めプだった。


 だが今回は違う。

 獣人王もそれを感じる。


 見たことのない火球。

 それが、幾つも降りそそぐ。


「ぬううううっ」

 今度は獣人王が吠え、剣を振り回す。

 その姿は美しく偉大。


 幾人かの獣人兵。

 主に女性が、もじもじし始める。


「王様、ナラシンハ様ステキです」

 黄色い声が戦場に響く。


「魔王様、いけえぇ」

 野太い声が声援として聞こえる。


「ぬうううっ」

 魔王の放つ炎に、逆属性の氷が混ざり始める。


 氷と空気の摩擦、空気中の水分は増え、静電気が発生をし始める。

 それは、大剣を振り回す、獣人王の周りでも起こる。


 二人の間だ、その空間で、閃光が発生し始める。


 周りで見ていた者達は、やばいことが分かり、徐々に、離れていく。


 ガラガラドシャーンと、周囲に落雷が起こり始める。


 空にも、いつの間にか暗雲ができ上がる。


 蒸発をする水。

 それが上昇気流となり、雲となる。

 そこからも、雷が降りそそぐ。


「やばい逃げろ」

 もう周囲はパニックである。


 だが、双方共に四人ずつ、四天王達は動かない。


 途中に、落雷を受けているようだが平気…… 

 魔人族は、濡れているものすら少ない。

 能力によるガードをしている。


 だが、獣人の方は、口や鼻から煙を吐き、ずぶ濡れ。

 まあ、意地と気合い。

 仁王立ちで、腕を組み動くことはない。


 多少白目だが、平気なようだ。

 トラ人のカイメイ、狼系のフィンクス。

 猪系のカマプア、熊系のヴォーロス。


 それぞれが、立ち続けることで、武勇を示す。


「フィンクス様危険です、離れてください」

「カイメイ様そのまま死んでぇ」

「カマプア様、体から美味しそうな匂いが、離れてください」

 周囲の兵から声がかかる。


 なぜか、ヴォーロスには声がかからない。

 そう彼は、我が儘野郎。

 力はあるが、少し卑怯な事をする。

 まあ手段を選ばないというのが正解だろう。だがその行動は獣人には嫌われる。


 求められるのは、愚直なまでの力。


 魔法を躱し、打ち消し、獣人王ナラシンハは一歩ずつ前へと進んでいく。


 そこに、大きめの火球が撃ち込まれて、横に一閃。

 火球が、ぶった切られる。


 思わずナラシンハは、にやっと笑う。

 だがその体毛は焼け焦げ、体中から煙を上げている。


 そこに、意表を突いて、魔王が突っ込む。

 その拳には、周囲から集めた雷が固まっている。


「うがああああっ」

 周囲にはものすごい水蒸気が充満をする。


 その向こうに、象徴といえる大剣が見える。

「うおおおっ」

 歓声が巻き起こる。

 しかし……




「飲みなさいよ」

「酒癖が悪い、あっちへ行け。お前巫女なんだろう」

「そうよ。だけど、皆がもうしたがってくれないの。分かる? あなたのせいよ…… それにあの八重っていう人ナニをしているの?」

 あれは、花咲かじいさんだな。


 八重が灰を撒くと花が咲き乱れる。

 針葉樹に見事な桜の花が咲く。

 意外と皆は、気がつかず、桜のせいで望郷の思いがつのり、涙を流す。

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