第35話 ホームセキュリテイ

 暗闇を走る者達。


「奴らは、ゼゲンさまの手下を殺したらしい」

「やれやれ、たかが人間ごときに、ナニをやっているんだ?」

 大多数の獣人達はあきれ顔だ。


 獣人と人間では、基礎能力が違う。


 屋敷の周囲には板塀。そして、石を積み上げた門には木製のドアがあり、夜間の所為か閂がかかっていた。


 かまわず彼らは押し破る。


 一辺が一〇センチほどの閂の棒など脆いものだ。

 少し音がしたが、気にせずドカドカと家に向かって歩く。

 飛び石が、交互に並びその一つを踏んだ瞬間に、崩落をする。

 周囲にかなりの音が響く。


 当然寝ていた奴らも目が覚めて、廊下に出てきて突き当たりの窓から外を見る。


「なんだありゃ盗賊か?」

「それっぽいね」

 あわてて出てきた竜司はパンツ一丁。

 横にいる美咲も、上は羽織ったようだが、下はパンツのみ。


 ドカドカと、他の者達もでてくる。

 武神はちらっと美咲のシリを見たが、窓の外を覗き込む。


 武神は、ズボンのみで上半身は裸だ。


 業力や永礼もでてくると、永礼はいきなり魔法を放つ。

 庭が明るくなり、人数がざっと分かる。

「三十くらい居るな。盗賊にしては、武術をやっている足運びだな」

「やっぱりそう思うのか」

「ああ」

 遠見が見えている範囲に矢を放つ。


 

「ちっ屋根の下に隠れろ、そのまま踏み込め」

「おう」

 魔法を喰らい、矢を射かけられて焦ったようだ。

 賊達はあわてて屋敷に踏み込む。


 玄関先が、なぜか一段高くなっていて、勢いよくふむと板が跳ね上がる。


 与野が好きな映画。子どもが留守番中に家を守るものが好きで、夜間はトラップが動いている。

 玄関はご挨拶代わり。


 ある板をふむと、壁からバットがフルスイング。


 ある壁は、いきなり倒れる。ところが途中で折れ、三角木馬状態になる。腰を痛めること間違いなし。


 無論床は抜けるし、階段は途中の段から上は、いきなり踏み板がパタンと倒れる。

 刃物を持った仲間が振ってくるので、そう、とても危険だ。


 なんとか、乗り越えて廊下を走ると、絵だったりする。

 幾人かが、突き当たりの壁へと、思いっきりぶつかる。

 配光を考えた魔導具が、トラップを見えづらくそして、巧みに誘導をする。


 最初に、庭で魔法と矢を喰らったために、勢いがあったのが災いをした様だ。



「派手にやってんなぁ」

 流石に皆自分の格好に気がつき、着替えてきた。


 悠人と八重は途中だったため、部屋の入り口に鍵を掛けた。

「ねえ、外が大変そうだけど行かなくて良いの?」

「ああ、皆が廊下に出ているし、まだ二階に上がってこれそうな奴らは居ない」

「そうなんだ」


  みゆきは驚く。

 悠人は八重を抱っこして、ゆっくりと動いている。

 そしてみゆき以外は、気を失っている状態。

 だけど、彼は外の様子を把握しているようだ。


 一応起き出して、服を着る彼女だった。


 だがそんな心配を余所に、大騒ぎをしながら一階で騒動をしている賊達。

 その物音は結構派手で、外に人が集まってくる。


 壊された門扉。

 聞こえる叫び声、幾人かが衛兵を呼びに行くが、詰め所には誰も居ない。


 それはそうだろう。

 夜勤の連中は、中で暴れているのだから。


 連中は、他に上がれる階段が見当たらず、仕方が無しに火を放つ。


 だが空中に、水が現れて火を消されてしまう。

「畜生、引け」

 

 また幾人かが、落とし穴にはまりながら、外に駆け出す。

 その背中に、インク壺のぶら下がった矢が刺さる。

 急所は外し、インク壺からは、細く筋になったインクがこぼれる。


 翌朝、衛兵がやって来て叫ぶ。

 無論、着替えて仲間を連れ帰りに来たんだろう。


「周囲から通報があった、昨夜騒動があったようだが」

「ええ、ひどいものです」

 与野が出迎える。

 無論装備は完全だ。


 落とし穴に落ちた奴は、ふてくされて寝ているだけ。

 家の中で、トラップにかかった奴も、怪我ですんでいる。

 まあ縛って、箱罠の中に放り込んであるんだが。


 一応、縄を掛けて連れて行くようだ。

「心当たりは?」

「この赤い線、これの先に犯人がいます。捕まえるなら追いかけてください」

 地面に、細い線が続いている。


「丸一日くらいは、途切れないはずです」

「分かった。おい」

「はっ」

 兵二人が追いかけていく。


 そうして、ぞろぞろと犯人達が連れて行かれるが、周囲の住人が首をひねる。


 周囲でも、住民は獣人がおおい。

 連れていられる犯人の顔が、どいつもこいつも見たことがあるのだろう。


 一応、簡単に門扉の扉を修復。


 家に戻りながら、与野は考える。

「トラップは、死にはしないが、しばらく重体くらいがいいな。飛び石の横、細道からトラックの一時停止無視とか…… 逆紐無しバンジー、空の彼方へとか、おもしろいかもな」


 距離が足りないため、飛び石の横からは無理だったが、家の中突き当たりの壁が走ってくるのは作った様だ。


 そのかわり、飛び石の中に当たりがあり、そこを踏むと、上空十メートルほど打ち上げる装置が作られた。

 それも失敗しないように、一度落ちて、筒の中から打ち上げる極悪仕様である。

 居間方にも、銀河鉄道の旅をあなたにと名付けられたアトラクション……

 いやトラップがある。


 椅子に座る。すると、庭に向けて射出されるという代物。

 他にも定番のくくり罠。吊られるのはお好き? と言う罠。

 輪っかが足首を絞めて吊り上げる。

 特殊性癖なら、喜びの逸品だろうと喜んでいたよ。


 結局、屋敷のトラップが超危険になり、夜間は外出禁止となった。

 結局あの後、もう一度来た様だが、また朝に回収された。

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