第20話 人ならざる者
王都から、前線となるスヴァールの町へと帰還する。
俺達に、一個師団がつけられて、王国特殊部隊として隊が新規で組まれた。
騎士団との試合をどこかから見ていたようで、兵団の中から志願者が出て急遽決まったようだ。
王からの命令で、スヴァールの町に兵舎と、俺達の家が造られるらしく、隊長が金が入った袋を持ってにやけていた。
隊長はユーリウス=アントーニウスという、偉そうな名前の奴だ。
そしてこの部隊、俺達全員が隊長級。
そして貴族レベルで男爵相当という、特別男爵という爵位を貰った。
給料が出る。
この部隊を、有事のために鍛えるのが俺達の仕事だそうだ。
だが、基本自由で冒険者活動も問題ないらしい。
王都から帰ってくると、あれだけ落ち込んで、世の終わりといった顔をしていた委員長が、武神に尻尾を振っている。
いや本当に、お尻フリフリ状態で「武神きゅーん」状態。
周りからの冷たい目も何のその。
あーまあ、少し壊れたくらいが幸せかもしれない。
気が付けばまた軍人だよ。
まあ手を下さずに、死んでくれるのはありがたい。
八重がまだ帰りたくないと仰るし、良いか。
記憶と共に力が戻り、デスサイズも、帰ってくるようになったし問題ない。
「ふっふっふ。我に死角はなし」
デスサイズを取り出して喜んでいると、八重がまとわりついてくる。
気配も無しで現れるから、もろに切ったけど……
いまさらだ。
平気なようだし、ポーズを付けた俺を揶揄うのが何よりも優先のようだ。
「ふーん。良かったわねぇ。封印が解けて」
「ああ。そっちも満足だろ」
「そうねえ。肉体だけではなく霊体までこすり上げる。もう色んな所から全部出そうになったわ。あれこそ
「それも楽で良いかもな」
ジト目で見られた。
「業力くんとか、そういうのが好きそうよ」
笑いながらそんな事を言ってくるが、マッチョイコール男好きじゃないからな。
多分……
あら、そうか…… 焼き餅かな?
八重なのに珍しい。
建設現場に向かうと、皆が手伝っていた。
結構巨大な石を、女の子が担いで走っている。
「すごいな」
「あら、霧霞くん。ありがとう、でもこれ軽いし、力持ちを褒められてもあまりうれしくないかなぁ」
もじもじとしながら、そんな事を言われる。
だがうわさ話や、井戸端会議が好きで情報を拾ってくる。
「どこを褒められたいんだ?」
そう聞くと、また、もじもじし始める。
「えーそうねえ。綺麗な指とか、かわいい瞳だねとかぁ、私だけのパーツ? 漠然とかわいいとか、美人だと言われてもピンとこないから」
うーんよくわからんが、少し褒める。
「ああ、大丈夫、小川に美人とは言わないから。そうだな、どちらかと言えばかわいい系かな? その石にめり込む指はすごいな」
気になる所を混ぜながら、うんうんと頷きながらそう言う。すると彼女は真っ赤になって…… 石を投げてきた。
「危ないな」
無論スパッと受け取る。結構軽いな。
「運ぶ場所はあそこ、持って行って」
そう言いながら、彼女は指さす。プンプン激おこだった。
解せん。女心は難しい……
横で、八重が笑っているし。
「あーもう。かわいい系は良いけれど、それ以外は駄目よ。石にめり込む指って、褒めているつもり? でもねぇ……」
ちらっと、振り返る。
そこには、片手で石をクルクル回し、久枝灘さんと並び歩く悠人くん、その姿が羨ましい。
学校のときには、目立たなくておとなしい感じだったけれど、こっちに来て覚醒? いえ、隊長とのやり取りだと、向こうでもきっと強かったのね。
私としたことが、収集をミスるとはねぇ。
無意識にため息が出る。
淋しい。
向こうでは猫をかっていた。
家族とも離れ、最初は学校からの開放、家族からの開放。
だけどそれは、安定をした日常との決別だった。
こっちは、自由だけど日常的な、暴力の世界。
軽い命。
忍やみき、みゆき、仲の良い子と固まり何とかしてきたけれど、やはり心から信頼できる人が居ないのが辛い。ううん。三人が信用できない訳ではない、けれど、友人とは違う、なんというかよりどころが欲しい。
久枝灘さんが羨ましい。
彼女は、この世界を楽しんでいるみたい。
ファースティナ王国の王城では、報告が入り騒ぎになっていた。
「なに? 魔族領に続き、セコンディーナ王国でも殲滅をされた?」
「ええ両方とも、非常識な広範囲殲滅魔法を使ったそうです。それも話を付き合わせると同じ魔法では無いかと……」
「そんな馬鹿な、化け物がそんなにいてたまるか……」
王がそう言いながら、ぎょろぎょろと見回す感じで目を動かす。
まるでガマガエルだが、それは、何かを見ているのではなく、オロオロしている心が現れたもの。
「ひょっとしてですが、王国の秘術、召喚が使えなくなったのは、他国が使った影響ではございませんか?」
「いやあれは、我が王国の祖先が、国興しの際に神より賜った秘術」
王は、否定するが。
「そう、賜ったと言う事は、他にも与えることがあるのでは?」
宰相の言葉に悩み出す王だが、いきなり立ち上がり、秘匿されている古文書が眠る宝物殿へと走る。
その中に、初期はきちんと
ただその記述は、何ぶん古い。欠けていて不完全。
人の頭『ほど』…… の『まんじゅう』を百個…… そなえし物なり……
そう、王は抜け落ちた文字をない物として、神への祭壇に血の滴る人の頭を供えた。
当然、壊された魔法陣では起動しないが、箝口令を敷いてもそのむごさは噂となって広がっていく……
「起動せんではないか」
「そうですね……」
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