サッカー少年

檸衣瑠

蒼空と咲久

ボールを蹴ってみた。それは、まっすぐ進まなかったけど、前に転がった。楽しくて、面白かった。

初めての出会いだった。


「…らく〜ん、倉空そらく〜〜ん、学校遅刻しますよ〜」

母親のわざとらしいよそ行き声で目を覚ました。

ふと目に入った時計の針が、ぶっ壊れたと疑うような時間を指している。

「はっ?え、これマ?冗談だよな?」

非常に残念なことに、スマホも同じ時刻を示してたので、冗談ではないらしい。

駅まで(急いで)5分、電車が来るまで残り11分……



「あれ?倉空じゃん。あまりにも遅いから学校来ないかと思った」

「なわけないだろ。たまには颯爽と登場するヒーローにでもなろうかと」

寝坊はなんかカッコ悪い気がしたので、てきとーすぎる理由をつけておく。

「どーせ寝坊だろ?どう見ても慌てて来たようにしか見えねぇよ(笑)」

「……」

普通にバレた。

「おーい、返答がないぞー。まぁ、間に合ってよかったな笑」

「ふっ。持ってるやつは違うんだよ」

「はいはい、で持ってるやつくん、今日一限体育だけど、着替えなくて大丈夫そ?」

「へ?」

「え、今日一限体育?待って待って、ちょっと落ち着こう、な、咲久さくくん!」

「お前が落ち着け」

間に合ったことへの安心感で全く気づかなかったが、咲久は体操服を着ていたので、認めたくはないが、事実らしい。

始業まで、残り2分……



「倉空、部活行こーぜ」

「おぉ〜、行こーぜ」

咲久とは、ここ峰光みねるら高校の部活で出会った。

体験のパス練のとき、ペアになった相手。

公立中学校の部活動で緩くやってた俺にとって、咲久は衝撃そのものだった。

上手く言えないけど、佇まいから、もうなんかすごかった。

もちろん、佇まいだけじゃなくて、正確なパス、ボールとの接地面、ボールの回転、全てに圧倒された。

サッカーを初めて美しいと思った。

正直に言うと、咲久がうますぎて、一緒にパス練するの何か申し訳ない気持ちにもなるけど…


「倉空、パス練しよーぜ」

「今行くー」

多分、咲久は強豪校やジュニアユースで、サッカーをやってたんだろう。

きっと推薦や昇格の話もあって、それを蹴って、ここに来てる。

サッカー少年だった咲久は、今、別の形で、サッカー少年をしているんだ。

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