第17話
解析したところ、あの液体には動物を生成する力があったわ……。
顕微鏡で観察したところ、うごめく塊のようなものがみえた。それは生命力の源で……光と栄養と混ざり合うことで、生命体になっている……のかな?
未知の物質だからくわしいことはよくわからない……。
深く観測しようにも、そういえばアタマオハナバタケは「催眠作用」のある花粉をまくから……眠ってしまうのよね。(私の怠慢ではないわっ!)
ともかく、生成された動物たちは、縫合が完璧ではなく、青色の液体を吐いて死ぬのよ。私がやるべきことは、縫合を補助する物質の獲得。それが急務だ。
成功すれば、人類の念願であった生殖を伴わない、生命の生成の夢がかなうかもしれないが……そんな物、どうやってみつければ?
「博士ちゃん、なーにむずかしそうな顔してんの~?」
「ム……なによ、まゆか」
まゆかは毎日のように研究所にきていた。
培養室の草抜き、死滅サンプルの埋葬、書類の整理、それからミキサーを持参して、キノコジュースを作ってくれている。
日中、キノコ探しという仕事がふえた助手君の穴を埋める……すばらしい働きをしているわ。給料を出した方がよいのかしら? ま、ティータイムにお菓子をご馳走しているから、いいでしょ。
「あ、わかった! まーた三時のおやつ、助手さんの棚からくすめとろうとしているとか?」←博士ちゃんがあまりにも散財するため、猛反対の声を押し切って、三時のおやつは配給制となりました。博士ちゃんは不服なので、いつもコッソリ盗もうとしています。
「私はそこまで暇じゃないわ……」
「じゃあユニコーンの作り方を考えているとか?!」
「そういえばそんな約束もしていたわね……でもそうね、配合例のパターンを分析すれば、馬に羽をつけた個体を生み出すことも可能かもしれないわっ!」
「あのウサギちゃんに羽がついているのはかわいかったよね~。んーお馬さんに羽か~。もっと白くてキラキラしていたのをイメージしてたけれど……まゆか、羽のついたお馬さんでもいいよ~♡あれ? でも、お馬さん作るなら、やっぱりニンジンがあったほうがよくない?」
「……いろいろ考えたけれど、業者から飼料を大量購入すればいいでしょう。ニンジン作りはおもったよりも大変だったわっ!」←博士ちゃんは畑をクワで耕そうとしたけれど、一日で腰をやられてしまったそうです。
「それもそうだねっ! わ~まゆか今から楽しみ~♡早くユニコーンさんできないかなぁ? 空をいっしょに飛びながら、きれいな湖を見にいくの!」
(まゆかといると、なんだか和むわね。彼女はいつだって笑顔だし、私たち大人のように未来に悲観している様子がない……。死地をくぐりぬけた兵士に伝記によると、高揚した感情も恐怖をいだいた感情も、ドミノ倒しのように周囲に伝播するときくけれど、それは本当カモメ)かーかー
(でも、最近すこし心配)
私は凝視しないように意識しながら、彼女の目元をのぞき見る……。
最近、彼女の顔にできる痣の量が増え、そして、大きくなっている気がする。
初めてまゆかにあった日、彼女は「お酒が入った母親」から虐待を受けていることをほのめかしていた……。
そして、お金がないからまゆかは学校に通えていない。彼女の顔にできる傷跡の数は、その問題の傷口がひろがっていく、暗示のようにもおもえた。
(なにもなければいいけれど)
その心配が杞憂になればいいとおもっていた。
けど、ある日まゆかの母親が研究所へやってきた。
「まゆか……」
培養室で試薬を投与している時、背後から声をかけられた。
まゆかは手にしていたジョウロをおとし、「ママ」ときいたことのない冷たい声でこたえた。
(この人がまゆかの母親か。まゆかに似てすぐれた容姿をしている……けれど、服は貧民街の物を着用しているようだ。縫製のほつれた個所が散見され、所々あて布で補修されている。安物の布で作られた服は、破けやすく、防寒性も低そうだ)
親に研究所へ遊びにいくことを親に伝えておくよう、まゆかに言づけておいたのだが……彼女はひとりでこの場所をみつけたのか?
「……今日は夕方から出かけるから早く帰ってきなさいといったでしょう?」
「ア……ごめんなさい。博士ちゃん、もう帰るね」
まゆかはそういって親のほうへむかった。
まゆかの母は私のほうをチラリとみて、頭をちいさくさげた。
「あの……まゆかがお世話になったみたいで」
「あ……ハイ」
(どうしよう……歳は私とおなじくらいにみえるけれど……このごろ助手君以外の大人と話してないから会話の仕方を忘れちゃった。敬語の方がいいのかな?
そうだ……この前動画配信サイトで配信していた、ストリーマーの登場挨拶をまねてウケをねらってみようかしらっ?!
キンキン、どうもチョウカキンですっ! ニートのてめぇら! 今日も親のクレカとお年玉でスパチャヨロシクゥ!
だったっけ? いや、でもこれ知っている人じゃないとキレられるかしら?)
「では……」
私がなやんでいるあいだに、まゆかをつれて、母親はでていった。
彼女はでていくまぎわに、私のことを冷たい目で一瞥していた。その目の光が私の脳裏に焼きつき離れない……。
(あの目のもち主をしっている。
壊れた水晶体のようなあの目は……精神の壊れた者のもつ目だ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます