第78話 一人、飲む
夕方。自分の部屋に戻って来た。少し値の良いアパート。元々入居者がなぜか少なかったのだが、年末ともあって閑散としていた、恐らく。
冷え冷えとした室内。エアコンをつけた。ファンヒーターの方がよかったのだが、灯油を買ってないし、出すのは夜でもいい。部屋が温まるまでコートは着たままだった。電気ケトルをセットしてお湯を沸かす。コーヒーの瓶を手にして、そう言えば出る前に使いきって、買い置きも用意してなかったのを思い出した。鞄をあさる。お茶っ葉を取り出した。急須はなかったけれど、コーヒーフィルターがあったので、それを使った。湯呑らしい湯呑はなかった。焼酎のお湯割りに使っているので飲むのもちょっと違う気がした。マグカップに注いだ。デジタル室温系の数字が上がっていく。コートを脱ぐ。スマホを起動する。買い物リストを書き込んでいく。灯油、湯呑、コーヒーの粉、……。冷蔵庫を開ける。何もなかった。野菜類を書き込もうとして止めた。牛乳、ヨーグルト、野菜ジュース、……。後は出かけてから決めることにした。
二部屋あるうち、一室は寝室にしてある。ひんやりとした無音の部屋。ベッドを確かめる。少し埃っぽい。寒いけれど窓を開けた。布団用掃除機をつないで動かした。それからファブリーズをした。
戻ってお茶を飲み干した。部屋はすっかり暖かくなったけれど、買うものを買わないと年末どころか今晩さえ過ごせないので、もう一度コートを着た。エアコンを切った。財布の中身を確認して玄関へ。靴を履いて出た。鍵を閉めたところでスマホを忘れたのに気付いて玄関を開けた。エアコンは切って間もないけれど、住み慣れたそこがこんなに冷え冷えとしていたかと思い、スマホをポケットに入れると早足で玄関を出た。
その晩は日本酒を飲んだ。部屋を暗くして、カーテンを開けると、雪は降っていなかった。満月ではないが半月よりも満ちた月が鮮やかだった。それを見ながら徳利から注いだ。
「志朗、お前も一献どうだ?」
お能登さまからお猪口を差し出された時を思い出した。
クイッと空けてから、また注いだ。フウっと口をすぼめて息を吐いた。十分に暖かい部屋では白い息は見えなかった。
「煙のようなもの、か」
その晩は四合ほど飲んだまでは覚えているが、その後どうやって布団に入ったかは知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます