第十四話 未知の世界へ
あれから数日後。
洞窟の前に立つハバと俺。
「今日は行けるとこまで行こう。ここの地形構造は全て調べておきたい」
「あーそだね。俺、あの時は高速で走り抜けたから……細かいものや分岐は見落としてるかも」
ハバは大きなバックパックを背負ってる。容量は百リットルぐらいある大型のものだ。中身は測量道具諸々だ。俺が便利だからと提案したら、瞬く間に、しかもバリエーションを増やしながら普及した。
俺が背負ってるのは飲み水と少しばかりの食糧を入れた小型のもの。日帰りだし。
光苔の薄明かりを頼りに歩いて行く。
すると突然開けた所に出た。広い。体育館ぐらいの大広間だ。
「あれ? こんなだった?」
「ハヤ、違うぞ。先日俺たちが入った時、こうではなかった」
「!」
「どうした?」
「ハバ、人がいる。それも複数」
「なっ! どこから入ったのだ?」
小柄の、まるで子どもぐらいの体格。俺より頭二つは背が低い。
異様なのはその風貌。
頭髪がない。
耳が少し尖ってるが長耳ほどじゃない。
まるで埃っぽい土のような肌。
何よりおかしいのはその目には瞳がないこと。
痩せ細った手には小型の剣が握られている。
少し違和感がある。それが何なのかはっきりしない。
パワードスーツを装着。
!
ハバに向かって後ろから矢が飛来、俺はそれを叩き落とし、矢が飛んできた方向へ八九式をセミオートで発射。
ヘッドショットが決まると、弓を持った小人は声も出さず倒れた。
相変わらずの違和感。
そうだ、こいつらは存在感が希薄なんだ。そこにいるんだけど、何か嘘くさく感じる。
「すまん! 助かった。今のは?」
「新しい武器。詳しくは後で話すよ。それよりハバ、こいつらは何もんなの?」
「俺は知らない。言い伝えでも聞いたことない」
小人が一斉に切りかかってくる。
ハバは巧みな剣捌きで捌いていく。戦う学者だ。
「倒すよ? どこかの部族じゃないよね」
「あぁ俺が知らない部族なんているものか」
全ての小人にターゲティングして順に撃つ。
無力化成功。
「あ! 一匹ぐらい残しときゃ良かった。色々と聞き出せたかも」
「言葉を話すならそうだが……」
「今度出くわしたら声かけてみるよ」
するとどうだ。小人の死骸は小さな光の粒子を放ったかと思うと霧散して消えた。
「???」
ハバは目を見開き動きが止まった。俺もわけがわからない。冷静になろうとハバに話かける、感じたことを。
「生き物じゃないと思う。何かの力で形を作り、死ぬとその力を失って消えていったと思う」
ハバの推測に俺も同意だ。
気配が生き物のそれじゃなかった。なんていうか、立体映像みたいな現実感の無さ。
「面妖だな……」
「どうする? 進む?」
「ハヤ、護衛を頼めるか? 少しでもここの変化を見ておきたい」
「いいよ。あまりに危険な奴が出たらすぐに引き返そう」
大広間を抜けると今度は広い階段状になっている。
断言できる。あの時こんなものはなかった。前に通った時はただ洞窟が真っ直ぐ奥へ続いていただけだ。
前方がかなり明るくなってる。光苔の薄い黄色じゃない。
さらに俺たちは驚く。
見渡す限りの草原。青空。そこに太陽っぽく光っているものがある。おまけに風まで吹いてきた。
パワードスーツからぼんやり伝わる位置情報は俺とハバは洞窟の中だと告げている。
「ここは……」
「外に出たわけじゃないよ。俺たちは洞窟の中にいる」
「ハヤ、わかるのか?」
「うん。なんかこの鎧ってさそういうのがわかるんだよ」
「不思議だな」
草を掻き分ける音が複数、獣か?
何か灰色のものが飛び出してきた。咄嗟にハバを庇う。
それらは次々と俺を襲う。う、兎?
森で見かけたことあるやつだ。
が! 後ろ脚に刃物がついてる。
その刃物でご丁寧に頸動脈がある場所を正確に狙ってきた。もちろんパワードスーツに傷ひとつつけられないが、ハバが狙われたら危ない。
数は二十羽ってとこか。
各個撃破するぜ。
そしてまた違和感。
今度ははっきりわかる。
獣臭さが全くないのだ、どんな小さな獣でも必ず鼻をつくのに。
集中し発射のタイミングを正確になぞっていく。撃てば必ず命中するタイミングが“わかる”んだ。
俺はサバゲーやってたとは言え射撃は素人。
なのにあれだけ素早く動いてる兎どもに全弾命中させる理由がこれだ。
パワードスーツ先輩に感謝だぜ。
しかもアサルトライフルと違って、空気を切り裂く音しかしない。
加えて威力も調整可能。
小人を倒した時は小銃弾の威力にしたが、この兎モドキには拳銃弾のそれにした。
兎モドキも小人と同じように、光の粒子を放って消えていく。焼肉は期待できない。
そしてたまらずハバに頼む。
「ハバごめん。さっきから頭痛がひどいんだ。あれ以上の数で来られたらきつい」
「む、そうだな。無理は禁物だ」
頭痛は射撃コントロールに脳の処理が追いついてないんだろう。
ひたすら練習していくしかないか……。
「この先どういう作りかわからんけど、人数揃えて行かないと」
「そうだな」
「ユリーカも呼びたいね。いざとなればハバを逃がす」
「それは」
「言わなくてもわかってると思うけど、ハバのような知識を蓄えた人ってすごく価値があるんだよ? 記録媒体以上に。だからハバの身の安全は最優先」
「うむ。従おう」
俺たちは帰途につく。帰りは何も出なかったのが幸いかな。
翌日。
季節はすっかり夏を思わせる陽射しの中、オミ達とユリーカ、俺たちは洞窟へ入る。
小人軍団、今度は数が倍になってたが、オミ達によって瞬殺。続く兎モドキもだ。
兎モドキ達がいる草原を進むと、また広い階段状となり、降りていくと砂漠になっていた。岩だらけの小山が見渡す限り続き、それを埋めるように砂、砂、砂。
「これ、海の砂浜?」
「オミ、これは砂漠って言って雨があまり降らなくて暑いところがこんな感じなんだ」
「ふぅん。この辺りにはないよねぇ?」
「だね。気をつけて。何が出てくるかわかんないから」
すぐにやって来た。
なんじゃありゃ?
三人の裸の女。いいおっぱい。髪も顔も肌も全てが白い。目だけ黒っぽいね、瞳孔無いけど。
その目が額や耳の横にもあるから視界広いんだろう。
けど腰から下は……太くでかい胴体から六本の足。
蜘蛛を思わせるけど、艶めかしい女の足のせいで禍々しい。
嫌う人多いけど、俺は蜘蛛がそんなに嫌いじゃない。アシダカグモは子どもの頃から見慣れてお馴染みで、ゴキハンターだし。ハエトリグモ可愛いと思うし。
けどこいつらはキモい。
「囲むよっ」
オミ達は展開し、矢を射た後、槍でとどめを刺す。うん、楽勝。
あの手足に捕まったらやばいだろうけど、オミ達なら寄らずに倒せる。
また階段状の地形になる。広がる光景は……サバンナ?
俺たちが住んでいる森とは違う、低潅木がところどころ生えているアフリカのサバンナそのもの。
ユリーカの騎獣バボと同じに見える大型の獣がのんびりした様子で草を食んでいる。
「ユリーカ、バボってこんな感じのところに生息してるの?」
「飼育している奴隷が言ってたな。遠くの大陸から海を越えて連れ帰ったと」
皇女さまが奴隷と会話?
「なんだ? 帝国の奴隷は給与を貰って仕事をする立派な市民だぞ?」
そうなんだ。市民権を持つ奴隷。確かローマ帝国もそうだったはず。奴隷=悲惨な労働階級にするのは野蛮人だけだな。ははっ。
そしてディザ帝国、大型の艦船を持ってることに焦る。軍船も間違いなくあるよなー。
地鳴りが聞こえてくる。
あーっ!! バボだよ! 野生の!
群れだ、ざっと見た感じ二十頭はいるか?
やばい。
「ユリーカ! ハバを連れて転移! さっきの砂漠へ!」
「こやつは置いていく」
「ええっ! 一頭じゃやられるだけでは?」
「私のバボは強いからな。心配無用だ」
ユリーカとハバの姿が消えると同時にユリーカのバボ、ユリバボが群れへ向かって突進を始めた。
押し寄せる群れへ突っ込んでいく。すごい、弾き飛ばしたぞ。
オミ達もバボの群れへ矢を射かけるが効いてる感じがしない。硬そうだもんな、あの皮。
俺はパワードスーツを着て飛び上がり、奴らの背後へと回る。
八九式の威力を最大限にイメージする。
もとになった銃弾以上の威力は無理だろうか。
なら数だ。
発射サイクルもイングラムをイメージ。
とにかく速く。
フルオート掃射。
片っ端から狙いをつけ撃ち込んでいく。
膝の裏側、排泄口周り、鼻先、目、耳。
バボ達は悲鳴に近い叫び声を上げ、膝の裏を撃ち抜いたやつはその場で伏せる形になり、目を撃たれたやつは、見当違いの方向へ走っていく。
致命傷にならないけど、奴らを混乱させるのには成功だ。
オミ達も跳躍しながらバボの突進を避けつつ、ドラゴン戦で使った血抜きの槍を投擲。
突き刺さったバボは鮮血を撒き散らしながら次第に動かなくなる。
ユリバボも頭の角で既に三頭倒していてる。あいつ強ぇ。
いつの間にか一頭だけになった。そいつはかなり体格の良い奴で俺に向かって突進してきた。
跳んで避けようと思った瞬間、割って入ったユリバボが横腹を突き、そのまま押し出す。
助かったぜ! お前強いな、とユリバボの頭を軽く小突く。よく見ると目が可愛い。鼻息をかけられた。
「休憩が必要だねぇ」
「オミ達は大丈夫?」
「誰も怪我一つしてないよぅ」
さすが森の戦士。
ユリーカとハバも転移で帰って来た。
「バボの群れを十人そこそこで殲滅とはな。大したもんだ」
「ユリバボも強いな!」
「ユリバボ?」
「だって名前付けてないだろう? ユリーカのバボ、略してユリバボ」
「ふふふっ。あれは騎乗戦闘向けに品種改良されたものでな」
おほぉ、さすがは皇族様御用達ってわけか。
全員車座になってあれやこれや話す。
「あの小人や兎、蜘蛛みたいな女は実際にどこかにいると思う?」
ユリーカに聞くと、大陸はあと三つ以上あるらしい。ディザ帝国も観測船を出してはいるが、全て未帰還だという。
「我々の知らぬ大陸に、あのようなものが存在していても不思議じゃなかろう」
「ここから先も未知の生き物が出てくるのかー。毒持ってるのとかいたらやばいよなぁ」
「ハヤ、お前達のところで毒消しの種類はどれぐらいある?」
「色々揃えているけど、神経毒には何も用意が無いし、未知の毒ならお手上げ」
「植物型、蛇型、昆虫型が出たら注意してね」
「わかったよぅ」
みんな、死んじゃダメ、絶対。
次へ進むと海だった。見渡す限りの海。階段状の場所からすぐに海面。海惑星に降りた映画のシーンを思い出す。
「海だねぇ」
「うむ。海だな、帝国の北側に広がる大北海に似てるな」
「魚が美味しい?」
「美味だ」
いい情報をもらえた。
「魚ぁ? あたしは肉がいいなぁ」
オミは肉食女子だった。
「ハヤ、魚が好きか?」
「俺が生きていた国はね、周りがぐるっと海に囲まれてたの。魚はよく食べてたよ。今は諦めてるけど」
川魚と海岸部族『み』から来る干物だけ。
たまには刺身が食べたいとは思う。
話は脱線して俺たちは好き勝手言ってるが、打つ手がない。
パワードスーツ? 水中での性能を試してないから迂闊には飛び込めない。
すると海の中から女が現れた。
また裸だ。痴女だ。これまたいいおっぱい。
モジモジしながらこっち見てる。
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