第六話 見えてきた影
あれから三ヶ月。
『き』はギャルを巡って色々と慌しかった。中央から人も派遣された。
まずギャルだがオザマの治療により目や身体の腫れが快癒。手厚く世話した結果、割と協力的な態度になったそうだ。
そしてこちらの言葉を教え込んだところ、すごい速さで習得したとのこと。かなり頭いいんだろう。
頭が良い人間ってのは好奇心というか興味の範囲が広い特徴があり、それをベースに学んでいく。
だから学習速度も上がる。だから人生の幅も深みも凡人のそれよりも豊かなのだ。
俺? 凡人だったけど。
オザマ曰く「あれは間違いなく支配層の人間だ」とのこと。
遺跡の奥に関しては調査が行われたが、光苔が生えている以外、特に何もなかった。
まぁギャルに訊く方が早いし。
尋問は何十回も行われ、ある程度の情報が明らかになった。
そんなある日。
オザマがやってきた。
「いるか?奴の尋問に同席しろ。ご指名だ」
驚いたよ。なんで俺がって?
「お前に聞きたいことがあるそうだ」
仕方ない。ミサがそっと俺の腕を摘む。
「ミサも一緒でいい?」
「構わん」
影部隊の天幕へ。
そこには影の長とギャルがいた。入るなりギャルに睨まれる。あーほんと強気な性格だね。けどまぁ綺麗な顔立ちしてるよな。お姫さまって感じ。オタクには優しくないんだろう。
「お前だな、あの目潰しを投げたのは」
驚いた。こっちの言葉、アクセントまで完璧だ。
「そうだよ。俺が考えた」
「ふん、いいようにやられたわ」
「狙い通りに切ってくれたおかげだよ。まぁ叩いても殻は砕けるように作ったけどね」
「お前、皇女の私を前にして随分と落ち着いてるな?」
「皇女? そんなん知らんし」
うわー帝国だ。帝国っていったら悪だよなぁ。
「では始めるぞ」
影の長が尋問の準備を始める。
え?
俺もそのままいてもいいの?
まずは確認から入る。
ギャルは大森林のはるか北にある帝国から来た。
ディザ帝国。
建国から九百五十年。
現在の皇帝は十五代目。
国の政は全て皇族が行うので、常に有能な妃を求めてるそうな。
ちなみに第三十五皇妃の娘。
皇子、皇女は四十人以上。
絶倫皇帝にドン引きする。
長耳族を併合し、南下のための拠点としたらしい。元々閉鎖的な長耳族のことなので、こっち側には全く伝わっていない。
やっぱりか。
目的は遺跡の調査。彼らを偵察に送り込んだものの、全て消息を絶ったため、この皇女さまに話が来た。
それから語られたことに俺は驚愕することになる。
「私ら皇族はな、それぞれ人が持ち得ぬ能力を授かって生まれてくる。私の場合は遠くの土地へ瞬きより早く辿り着くものだ。転移と呼ぶ」
テレポーテーション?
この時代だと無敵の能力だな。
超能力者集団が国を仕切ってるのか。
影の長は理解が追いつかないのか変な顔してる。ミサもだ。
そらそうだわな。普通はピンとこない。
今回はイレギュラーだったらしい。ギャル、いや皇女さまの言うことをまとめると、
・既知の場所には思い浮かべるだけで行ける
・自分自身だけでなく、半径十メートル以内のものなら何でも任意で選択して一緒に転移出来る
・未知の場所には行けない。
・今回は長耳族の拠点集落が目的地だったが、なぜかあの遺跡の奥に転移した。
・そのまま野営するつもりだったが、騎獣(サイ)が苦しみだし、外へ出たとのこと。
光苔のあるところに獣は近寄らないからなぁ。あの光に何かあるんだろう。
「なぜ色々話すの? もっと抵抗するかと思ったけど」
「私はな、この能力の為に死か飼い殺し、そのどちらかしか選べない立場でな」
そうか。そうだよな。暗殺やテロにはうってつけだし。
「着いてきた兵も表向きは護衛だが、いざという時は私の命を奪う者達よ」
……そうか。敵の手に渡る前に殺せってか。
文字通り道具として扱われる……そりゃ辛い。
「帝国に飼い殺しにされたまま人生を終えるものだと思っていたが、ふふっ」
ギャル皇女さまは俺を見て笑う。
「此度の転移、帝国は私を見失った。お前達は私をどうする?」
結論。
皇女さまは亡命を希望している。
影の長は中央から派遣された面々へと報告に向かう。
いいなぁ。ギャル皇女さまが戦力になってくれたらそれはもう百人力だ。
でもそれって帝国での扱いと変わらないのでは?
むむむ。
俺があれこれ考えてると。
「お前は次々と表情が変わって面白いな」
皇女さまに見つめられる。
「あーうん。うちの国があなたを迎え入れてもさ、国が変わるだけで境遇は一緒じゃないかって」
「ほぅ。この身を案じてくれるのか?」
「俺だったら嫌だし」
「父である皇帝並みに冷酷で苛烈な王ならばそうであろうが、私への扱いやお前達を見る限りそれはなさそうでな」
「どういうこと?」
「下々の民を見ればその国の頂点もわかるものよ」
俺は思い出す。若い頃、勤め先の社長(叩き上げ)が繰り返し言っていたこと。
『社員はトップの姿勢を映す鏡』
これは後々、取引先の重役や経営者に会うことも増えた時に実感した。企業風土ってやつかな。
規模は違うが国も同じようなものなんだろうか?
「まぁ確かに。勇猛だけど野蛮じゃない」
日本史、世界史を少しだけ齧ってみると、蛮行の歴史だ。異民族に対しての容赦のない残虐な行為、それは身内にさえも向くし、現代でも革命の名の下に大量虐殺、自国民を数百万単位で粛清した独裁者って例もある。
あぁこの国にはそれがないよ。未来はどうかはわからないけどね。
今になってピンときたが、俺がいるこの国はネイティヴアメリカンのイメージだ。
「近々私は傘下に収めた国々の王族との婚姻も控えていてな」
「ん? 国々?」
「そうだ。七つの国の皇太子とだ」
ええーっ?!
そりゃまた凄まじい重婚だな。
「しかしそれも無くなったと思うと気分が良い」
皇女さまは心底愉快そうに笑ってる。
囚われの身にしては明るいなと思ったが、そういうことか。
ミサが俺の手を握ってくる。俺も握り返す。
皇女さまはオミと同じぐらい、つまり女子高生ぐらいの年齢だろう。そんな若さで人生を諦めて絶望の中に生きていたんだ。皇族は辛いね。
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