Seq. 17
デモンストレーションの内容に悩み続けた週末が終わり、新しい1週間が始まる。
みんなでアイデアの共有がしたいという話になり昼休みに食堂で集まることになった。
「さあ、どんなものを考えてきたかしら」
ミロが場を仕切ってくれる。
「私はですね、こんな感じです」
そう言ってエリーが1枚の紙を取り出した。
「これは……」
テーブルに広げられた紙に描かれていたのはヘカティアの街だった。
あちこちの道に黒い線が引かれている。
「地図かしら?」
「はい。ヘカティアの街でみんなでマラソンをするっていうのはどうでしょうか。こんな感じのコースで」
エリーは言いながら地図上の線を指でなぞっていく。
なるほど。それなら準備も時間がかからなさそうだし、いいアイデアかもしれない。
「うーん……」
でもミロはあまり好ましい反応を見せなかった。
「闘技大会の参加者は鍛錬に集中したいでしょうから、逆に参加するつもりのない人が集まってしまうと思うわ」
「あー……そうなっちゃいますか。競争心をあおるにはうってつけかなって考えていたんですが」
まさかそこまで考慮した提案だったなんて。
意外にもエリーは今回の出し物に対して真面目に取り組むつもりみたいだ。
「はあ、私の健脚っぷりを見せつけられるいい機会だと思ったんですけどねぇ」
そっちが本音か。
「そういうワタクシも何かいい案があるわけではないのよね……」
3人揃って腕を組み「うーん」と唸る。
「僕もいろいろ考えたんだけど、去年みたいなことって難しいよね」
「そうね……」
ミロが生返事を返す。
「えっと、去年は何をしたんでしょうか?」
「たしか演奏会だったよ」
頭をひねらせている僕とミロに代わって、それまで静かに様子を見ていたピアスが答えた。
「あの……話の腰を折って申し訳ないんですが、なぜピアス先輩がここに?」
ピアスだって最初からいたのに、今さら過ぎる質問だった。
「いやだって湧者会の集まりですよね、これ」
「去年は何も知らなかったけど、今年は手伝いたいなって。大会不参加のわたしでも力になれたらと思ったんですが」
気持ちを言葉にしたピアスはミロの方をじっと見た。
「もちろん歓迎するわ。人手は多いに越したことはないもの」
ミロがそう言った。
デモンストレーションは湧者会が主体の出し物になる。だからといって、別に3人だけでやらなければいけないという話ではない。
「そういうことなら私も構いません。それで、演奏会とは?」
話が戻された。
「それはね、昨年の湧者会にとある楽団の方と親しい人がいたの。そのツテで、学園で演奏会を開いてもらったのよ」
ミロの説明に去年のことが思い起こされる。
闘技大会開催前日に開かれたそれは、知名度の高い楽団であったらしく、なかなかの人が集まっていた。
「たしかにそれは真似できませんね」
ガックリとエリーが肩を落とす。
「やっぱりみんなの持ち味を活かせられるのがいいんじゃない?」
「それぞれの持ち味か……」
ピアスに言われて再び思索にふける。
ミロの長所といえば人徳が高いことだろうか。いろんな人との付き合いがあって交友関係が幅広いイメージがある。
エリーは騒がしい印象が強いけれど、よく言えば朗らかということだろう。
「今これ全然関係ないや」
我ながら的外れな思考にあきれてつぶやく。
考えるべきは人となりではなく、特技とかそういうことのはずだ。
特技か……。
小さいころから僕はずっと湧能力一辺倒だったから、これといった特技みたいなものは持っていない。
苦々しく視線をぐるりと回すとピアスと目が合った。
ピアスは何かあったっけ?
「そうだ、料理」
天から妙案が降りてきた。
「休日に学園で自主練する人たちに何か料理を振る舞うっていうのはどうかな?」
この間の自主練のときに食べたピアスのお弁当を思い出してのアイデアだ。
「スープキッチンのようなものかしら。いいわね、アリだと思うわ」
「でも、実際何を作るんでしょう? 大勢に出せるメニューとなると限られてきますよね」
好感触を示すミロと現実的な問題を挙げるエリー。
「そうだね。やるとすれば何が作れそうかな?」
ピアスの意見を聞いてみる。
「えっと、一度に大量に作れるものだと……肉じゃがとかかな」
「肉じゃが、いいですね。私も好きです」
別にエリーの好みは関係ないんだけど、賛成してくれるならなんでもいいや。
「なら決定ね」
今年は炊き出しをするということで話はまとまり、一度企画書を作ってカラスマル先生に打診してみることとなった。
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