第32話

 離縁宣言の後。

 それは驚くほどにうまく事が運んでいた。

 国王陛下と王妃殿下の署名が入った書類によって、私とマキシムの離縁はすぐに決まった。

 また、スリラリアが私の領地になることも。

 驚いたことにスリラリアとつきあいのあった貴族が離れていくことも無かったのだ。


 ……それどころ、増えたほどというのは私もさすがに驚くしかなかった。


 何せ、私は初めての女領主だ。

 本来なら、私を任命した国王陛下さえ、他の貴族に責められない事だと言える。

 にもかかわらず、今でも私は豊穣の女神と社交界で呼び続けられている。

 むしろ、夫の罪を果敢に糾弾したとして、私の名声はさらにあがっているほどだ。

 それがどれだけ異常なのか、私がわからない訳が無かった。


 その私の異常な厚遇の理由こそ、他でもないアルダムのおかげだった。

 どうやら、アルダムは私から後ろ盾になってほしいと言われたときから、ずっと手回しを行ってきていたらしい。

 それも同時進行で何十通りも。

 それは私がマキシムと離縁する為よりも多い、そう言えばどれだけ異常か理解できるだろうか?


 後でその事を知った私が目を回さずにいたのは奇跡に近い。

 ……一体この離縁の為に私がどれだけの時間をかけてきたことか。


 そして次に私に離縁されたマキシムだが、彼に待っていたのは社交界における冷遇だった。

 交流相手が増えたスリラリアと反対に、ドリュード伯爵家と交流を続ける貴族は大きく減ったらしい。

 なんなら、スリラリアよりも少なくなったとか。

 その面積、豊かさの差を考えれば異常としか言えない状態だった。

 あまりの状態に、私も最初聞いた時には驚いたものなのだから。


 というのも、本来ならマキシムは被害者になるはずだったのだから。

 私はスリラリアの利益の一ミリさえもマキシムに還元するつもりはなかったが、責任まで押しつけるつもりはなかった。

 公爵家の後ろ盾があるスリラリアに文句は言えないが、なんて可哀想なマキシム。

 悪いのはすべてあの性悪なライラという女領主だ、というのが私の作っていた着地点。


 けれど、ガズリアの噂がでた瞬間全ての話が変わった。


 その話がでた初夜式の後、ドリュード伯爵家からは長年のつきあいの家さえも逃げていったらしい。

 そんなドリュード伯爵家につきあう人間はもういなかった。

 当たり前だ。

 ガズリアというのは貴族にとって絶対につきあいたくない存在なのだから。

 そんなガズリアとつきあいのあるマキシムは、今や貴族達にとって絶対につきあいたくない存在となっていた。

 そんなマキシムを遠ざけるのに効果的なのが、私のほめ言葉らしい。


 ……聞いた話では、私のことを悪し様にいう貴族でさえ、マキシムがいると私をほめて逃げ出すらしい。


 さながらマキシムは悪霊で、私の名前は魔除けということか。


 それがここ一ヶ月あたりに起きた話だった。

 スリラリア独立してからばたばたと忙しく、そんな噂話も私は小耳に挟む程度。


 そんな私はようやく一段落をしたの期に、公爵家に訪れていた。

 私の目の前にいるのは、どこか罰が悪そうなアルダム。


「それでは教えて頂きましょうか」


 そんな彼に、私はあえて高圧的にほほえんでみせる。

 ……そうしないと顔が赤くなってしまいそうだったが故に。


「どうして私達は結婚したことになっているのでしょうか? ──愛しの旦那様」

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