第26話 彼は鉄壁

「へ?」

「笑わないでね。あの、渡辺わたなべ……くん。」

「はぁ!?」

「ぽ。」

あたしは開いた口が塞がらなかった。そりゃ津久田つくだちゃんも鳩みたいなリアクションになるよ。

でも確かに恋する乙女がそこにいる。國重くにしげひろみは本気だった。


「いやぁ、なんでくじら?」

「最近、よく渡辺くん家でご飯食べてるんだっけ?」

「うん。きっかけはね?プリント持って行くだけだったんだけど。全くそんな気は無かったんだけど。そこから弟くん達と仲良くなってね。ご飯も一緒に食べたり、家事やったり。」

「いや、好きになる要素!鯨だよ!?」

「すがちー、ちょっと言い過ぎ。」

「はは。無理もないよね。『アノ』渡辺くんだもんね。」

まぁでも、確かに面倒見の良さや男らしさ、リーダーシップは惹かれるかもしれない。

んー。わからん。

自分が言えた義理では無いが、人の好みというのがホント分からん。

陰キャに魅かれたり、危険な香りに魅かれたりたり、ガッツリ系に魅かれたり。


萌えポイントは十人十色だ。


「ギャップ萌え?的な?」

「ギャップ。」

「そ……なのかな。ごめんやっぱちょっと恥ずい。」

「わかるっ!!」

食い気味で津久田ちゃんが同意する。


「渡辺くん、弟くん達の話をする時すっごく優しい目になる。」

「そなんだ?」

「うん!」

流石に鯨の目までは見てなかった。

オカミーとのアイコンタクトは好き好きの好きなんだけど。


「でもさー。渡辺くんって忙しいじゃん?遊び誘ってもダメそうだし。どうしよって思ってて。」

「あそっか。」

「そうだよね。」

「そういう意味では鉄壁すぎ。うちの男子の中で一番難易度高いんじゃない?」

「うん。」

確かに。隙がない。と、いうより恋愛に全く興味ないまである。

家族一筋、弟ラブ、一本気な男。

それが渡辺鯨。


––でも、もし。


もし、彼に『その気』があったなら。

國重ひろみと『デートできる』ってなったら。

どうだろうか?


「何の冗談だ?」

「悪い話じゃなくない?」

「気持ちは嬉しいがなぁ?菅波すがなみぃ。」

「いやだから、ずっと家事してても大変だし。たまにはパーっと遊んでさ!!」

「はは。俺のことを労ってくれるのはとても嬉しい。だがな、俺は好きでチビたちの面倒見てんだ。」

「じゃあ俺たちも!」

「お?」

「好きだから、あすかのこと。家庭持ったら、どうなんのかなって。そのために!!」

「はぁ?」

「うん!オカミーのぉ!!うん!!言う通りだから!!!」

オカミーから急降下爆撃を受けて、顔を真っ赤にしながら続ける。

ホントなんなん!?


――


「はっはっは!何それ。」

「気を回してくれたんだが。なんつーかな。」

「兄ぃの友達、面白い人多いね。」

「そう、みんなイイ奴なんだ。」

「で?どうすんの?」

「断った。」

「はぁ!?」

「当然だろ。第一、恋愛なんか。」

「あーあー聞き飽きたよ。」

「だからそういうことだ!」

「へぇ。」

「じゃあ、早く寝ろ。俺はアイロンがけして畳んで、宿題やる。」

「別にいいんじゃね?」

「いや、全部今日中にやらんと。」

「恋愛の方。」

「あ?」

「してみても、いいんじゃね?」


――


簡単に言うなよ。

さめはまだ小さい。しゃちだってワガママ盛りだ。

少し大人びてきたいるかも、部活や勉強で毎日家事まで手が回らない。

全部、俺がやらなきゃ誰がやるんだ。

それぞれの好みを把握して、献立も細かく決めてる。スーパーの特売日だって全部メモって。

家計簿はバッチリ、無駄遣いは許さない。

掃除と洗濯は毎日どっさり。シャツの首周りは汚れるから予洗いして、風呂はすぐカビるから乾燥とカビ取り剤での清掃。

こんなにエキサイティングな予定が詰まった高校生、他にいるか?


『ドクンッ』


だが。

だがなぁ。

最近、たまに心臓が跳ねる。

病気とか不健康な類じゃない。

けど、少し病っぽいといえばそうだ。


「……はぁ。」


一睡も、出来なかった。


――


「うぅ。緊張して、一睡もできなかった。」

「分かる。俺も!」

なんか変な気分。今日はオカミーとの大事な日だってのに。


「てか、本当に良かったのかな。」

「ん?」

「クリスマスデートが、鯨ん家で……。」

「やっぱ、ふたりっきりがよかったよね。ごめん。」

「あぁいや、あたしもどっちかっていうと楽しんでる……んだけど。」

「ありがとう。」

「オカミーとじゃないとできないなって思った。」

「うん!!」

そう。

オカミーと一緒だからこんなトンデモナイことができる。

そうに違いない。

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アスカの目は誤魔化せない! 森零七 @Mori07

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