第23話 ホーム・スイート・ホーム

「くじらぁー!」

「んお、どうしたいるかー。」

さめがお腹痛いってぇ。」

「マジか。」

何気ない俺ん家の日常。チビ達を保育園や学校に送り出す前、家の中はいつも水族館だ。


俺は渡辺わたなべくじら

年中家にいない両親に代わってチビ達の面倒を見ている。俺が長男で、下に鯆(13)、しゃち(9)、鮫(4)がいる。全員男子、まぁかわいいもんだ。

学校から帰れば家は戦場。掃除洗濯、飯に風呂。とにかく時間がない。


「ほら、ちゃっちゃと食えぇー?」

「……。」

「どしたん鮫ぇ?」

「……おなか、いたい。」

「さっきぷっぷーしたのにか?」

「……ん。」

いつも朝飯はガツガツ食う鮫だけに、この感じはなんか変だ。


「じゃ兄ぃ、いってきまーす。」

「おう。帰りは?」

「部活あるから分かんない。」

「ちょっと鮫が具合悪いみたいなんだ。早めに帰ってこれねぇか?」

「え?急に言われても。」

「しょうがねぇだろ。」

「……ごめん、なさ、えーん!!えぇーーーん!!」

「あぁーほらほら、鮫は何も悪くねぇよぉ、よしよし。頼むよ、鯆。」

「……はいはい。」


――


「便秘?」

「えぇ。お子さんは、その可能性が高いですね。」

「はぁ。」

「子供向けのお薬を出しておきますから。それを飲んで様子を見てください。」

なんだかんだ軽そうで良かった。

とはいえ、弱ってる鮫を見るのは辛い。元気印の末っ子。心配になるのも無理は無いだろう。


「よく頑張ったな。兄ちゃんなにか買ってやろうか?」

「……。」

「食いもんは……今は良く無いか。」

「一緒にいて、ほし。」

「おん?」

「今日、ずっと一緒にいてほしい。」

「あぁ……そうしたいのは山々なんだが兄ちゃんも学校が。」

「……。」

おいおい、そんな目で見るなよ。


こいつにとって俺は兄弟というより親だ。鮫の為だったら学校だって休む。何でも投げ出す覚悟がある。

鮫が生まれた時からずっとこんな感じだし、慣れたもんだ。


「よし!」

「……。」

「今日は兄ちゃんがずっとそばにいちゃる。」

「ほんと!?」

「あぁ。」

幸い両親は離婚していない。

だがほぼ家にいない。子供を育てる以外にそんな大切なことがあるのか?って常に思うが、俺は俺でチビ達が可愛くてしょうがない。


――


『ピンポーン』


『ピンポーン』


「あれ?いない?おっかしぃなぁ。」


『電気は点いてる?家にはいそうなのに。後で出直すか。』


「何か、用ですか。」

「わ、あ。えぇっと……渡辺さん家で間違いないですか?」

「……?」

「鯨くんの同級生の、國重くにしげって言います。」

「あぁ。ちょっと待ってください。」


『ガチャッ』


『ガラガラ』


「兄ぃ!友達来てるよ!!」


――


「いやぁ、悪いな。弟を看病してたら寝ちまって。」

「良かったぁ、間違ってなくて。弟くんは元気?」

「あぁ、お陰様で。」

「大変だね。」

「なんのなんの。」

「あ、これ。今日配られたプリントとか。」

「ありがとう。ホント悪いな。」

「ううん。じゃ、私はコレd」

「兄ぃ、買い物行ってくるけど今日は鍋でいい?」

「え、鯆が行ってくれるのか?」

「その為に帰って来たんだし。」

「てか、鍋?」

「その人も一緒に食べるでしょ?」

「へ?わ、私も!?」

「バカ!國重さんがウチで食うわけないだろ!なぁ?」

「わ、悪いですよ!」

「ウチは別にいいですよ。」

「え、えぇー?」

「何言ってんだ鯆!」


「えぇーん!えぇーん!!」


「お、鮫!どしたー?!」

「すいません。騒がしい家ですが上がって、ゆっくりしててください。」

「えぇ……?」


――


「忙しく、ないのか?」

「今日はマジでなんも予定無いんだ。だからこうやってプリント届けに来れた。」

「てっきり岡峰おかみねとか中埜なかのが来るかと。」

「だよね!最初はそのはずだったんだけど。」


――


「ごめん!國重さん、あs……菅波さんテスト追試になっちゃってさ。面倒みなきゃなんだ。鯨くんの家行ってもらってもいい……?」


――


「悪い、今日は家に親戚が来るからすぐ帰るんだ。」


――


「あれ、ひろみの家って鯨ん家の方向だよね?」


――


「ってわけで、私がここに。」

「そっか。」

「ね、鮫くん?おいくつなの?」

「……。」

「……はぁ、かわいい。」

「ほれ、鮫。このお姉さん、俺の同級生さんだぞ?」

「……。」

「ったく……鮫は今4つ。人見知りなんだ。俺とは真逆だよ。」

「確かに。はは!4才かぁ。可愛くてしょうがないでしょ。」

「あぁ。そりゃもうな。家には兄弟しかいないから。」

「え、そうなの!?」

「両親は共働きでいないんだ。」

「だからか……。大変だ。」

「慣れたもんよ。」

「強いんだね。」

「さんきゅ。」

「ただいまー。」

「おう。鯱おかえりぃ。」

「うぇ!?兄……ぃ、か、かか……。」

「んお?」

「彼女ぉおおおお!?」

「ちげぇわ!!!」

「お邪魔してまぁーす……。」


――


ウチは相変わらず賑やかにやってるよ。

心配はいらない。

あぁ、年末年始には顔見せてくれ。

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