第22話 寒さがあたしを可愛くする

さてさて、年間通して一番色気づく季節がまもなく迫っている。なるほど、最近校内にカップル多いなって思ってたけど原因はコレか。

今までの人生では親にプレゼントもらってケーキ食うだけのイベントだった。


でも今年は違う。


「あの、さ。」

「んー?」

久々にオカミーと並んで帰る。特に何かを意識していたわけでは無い。たまには、一緒に帰りたかっただけ。


「12月24日。」

「お。」

「何か、予定ある?」

「あったらどうする?」

「あっても、手を引っ張ってく。」

「ふへ。」

なんか反応がキモくなった。

ただただ、嬉しかった。


「予定、無いよ。」

「じゃ、クリスマスデートだ。」

「うん!」

誘ってくれた。オカミーから。

初めてのクリスマスデート。全く実感は湧かないけど、ワクワクだけは止まらない。


「ドコ行く?」

「それがさ、思いつかないんだよね。」

「だよねー。」

ワクワクするだけして、プランは全く無い。

世のカップルはクリスマスに何するんだ?

どこへ行くのが正解なんだ?

ま、考えても分かんないんだけどね!


……というわけで、それぞれプランを考えて持ち寄ることになった。


――


「クリスマス?あぁー何だろうな。」

「マコトだったらどうする?」

「んー。遠出してもお金かかるし、俺だったら手近なところで赤レンガ倉庫とかかな。」

「なるほど……。」

「飯もファミレスでいいと思うよ。菅波すがなみちゃん、そんなこだわり無さそうだし。」

「はは、それはそうかも。何食べてもおいしいて言ってくれるんだよ!あ……うん。」

「そっかそっか。じゃ、なおさらだな。気取る必要は無いと思う。」


――


「いいなぁ。クリスマスデートかぁ。」

津久田つくだちゃんだったらどうする?」

「お弁当ピクニック!!」

「お、おぉ……!!」

「手作りのお弁当を、好きな人に食べてほしいなぁって思う。」

「それってクリスマス?」

「いつもと違えばクリスマスだよ!!」

「ふむ!」


――


「え?クリスマス?なんだなんだぁ岡峰おかみねぇ!!俺にぁそんなイベント関係ない!!」

「あぁ、ごめん……渡辺わたなべ君。」

「つっても、チビ達に色々プレゼント用意したり飯もちょっと豪華にしたり、そういう感じだな。」

「え、兄弟の分を用意してるの?」

「ウチは両親がいないもんでな。家事はほぼ俺がやってんだ。」

「そ、なんだ。ごめん、変なこと聞いて。」

「なんのなんの。」


――


「クリスマスかぁ。もうそんな時期かぁ。」

「ひろみは予定あるの?」

「お仕事、かな。」

「うへ。そんな時まで仕事なんだ。」

「あえて仕事入れて、紛らわせてる。街中もカップルだらけで嫌んなっちゃう。なんてね。」

「ははは……。それはそうかも。てか、マジで『そういう』予定は無いんだ?」

「言い方なんかえっち。」

「え!?いや、別に……そんなこと。」

「うそうそ!無いよ。全く。あ!てかさー。あすか、もっと可愛くなろうよ!」

「可愛く……?」

「そう!!」


――


てなわけで、なぜかトントン拍子でひろみの行きつけヘアーサロンに来てしまった。


「ひろみちゃんのお友達だって?」

「え、あ……まぁ。」

「緊張してる?」

「こんなオシャレなトコ、初めてで。」

「そう?じゃ、もっともっと可愛くしてあげるね。」

「は、はい!」

こうなったら腹をくくれ!あすかぁ!!

身を任せて納得いくまでやってみる。

髪。

お化粧。

お洋服。

全て今まで見たことない内容のオシャレだった。


「あすか、どう?」

「良い感じ?かも。」

そう言ってひろみの前に出る。


「わああぁ!!良い。良いよ!!あすか!」

「そうかな?」

「スガちー!やば!!」

「は、恥ず……。」

ひろみだけでなく津久田ちゃんにもアドバイスをもらうべく着いてきてもらった。


「じゃ、これにしよーかなー?」

「おけ!すいません!!」

トータルいくらかかってるんだろう。『大舟に乗ったつもりでまかせて!』とだけ言われ、顔と懐の広さを実感する。

あ、そうだ。写真を『1枚だけ』撮るとも言われたっけ。いずれにせよ色々申し訳ねぇ。


「これが、デートコーデ……?」

「いや、私もよく分からないけど。めちゃかわだよ。うん!」

「おへへ……。」

白ニットにショートパンツ、頭には……ベレー帽?わかんねぇ。

鏡に映る自分を見て顔が自然に綻ぶ。あんまりオシャレには興味が無かったけど、やっぱり遺伝子レベルで『可愛くなりたい』が刻み込まれているんだろうか?

あたしもそんな女子の1人だと自覚する。着飾って、お化粧して、褒められ、喜んで。


「じゃ、あすか。写真撮るからこっち来て。」

「あ、うん!」

「てかさ、まことも一緒にやらない?」

「え!?私?!」

「せっかく来てくれたんだし。」

「やろうよ!津久田ちゃん!!」

「えー?」


『シャー』

カーテンが勢いよく開かれる。

あたしとはまた違ったいわゆる『ゆるふわ系』に仕上がった津久田ちゃん。すげぇ。


「やっべー!津久田ちゃん鬼カワ!!」

「うん。良い。私の目に狂いは無かった。」

「そ、かな?あすかの言ってた恥ずかしいって意味分かった。」

「む?」

「嬉しさとニヤニヤが溢れちゃうから……それがなんか恥ずかしいのかなって。」

「それ!!それや!!」

「じゃー撮ろっか!」


『パシャッ』


―――

――


「顔は隠すから、SNS上げていい?」

「お、う、うん!」

結局ものすごい枚数撮ってしまった。カメラマンも気分をノせるのが上手い上手い。


年の瀬。寒さがあたし達を襲う。

興奮冷めやらぬ帰路、空っ風に吹かれながらもあたしは浮かれ気分だった。


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