第19話 バトルイマ
「マントヒヒ。」
「ヒ……ひ……ヒヨドリ!!」
「リ……ンゴ、あっ。」
「ゴー?え、あ、それ動物じゃない!」
「あ!あ~。負けた。」
「……ありがと。」
動物縛りしりとり。
放課後の教室。
あたしと、隣にオカミー。そして少し離れた席に
ガランとした空間には、重たい空気が流れる。
職員室では今まさに、個人への聴き取りが行われているところである。
「
「まぁ、
「そうなの?」
「うん。」
「そっか。
「あたしは……。」
何を話せば良いんだろう。
『ガラガラ』
「悪い、待たせた。」
「お。」
鯨が、聴き取りを終えて戻ってきた。
どことなく、スッキリとした顔をしている。
「次、菅波。」
「お、うん。」
「素直に話せば分かってもらえる。巻き込んで悪かったな。すまん。」
「別にいいよ。じゃ、行ってきます。」
そうして、職員室へ向かう。
廊下に差し込む斜陽が不安を掻き立てる。全身の毛がそば立つ。心臓が、バクバクする。
「菅波さんは、あの場に居合わせただけなんですね?」
開口一番、山田先生から尋ねられる。
「あ、まぁ。登校した直後だったので。何が何やら。」
「そうですか。あの場にいたのでてっきり関係しているのかと。ごめんなさいね。」
「いえ!……大丈夫です。」
山田先生のこういうフラットな対応は好きだ。正義感が強くて、生徒想いで。何か問題があると双方の言い分を聞いて判断してくれる。
「何か、知ってることは無いですか?」
「知ってること。」
「鯨君にも聞いたんだけど。例えば、生徒の中で『嫌がらせ』みたいなことがあるとか。」
……きた。
広い意味で『嫌がらせ』と受け取れる行為。
許せる訳が無い。大事な人を傷つけて、平気でいられるアイツが、許せない。
……でも証拠が無い。全てにおいて確固たる証拠が無いんだ。無闇矢鱈に主張したところで、信用なんかされない。
さらに、
『松田君は……悪く、無いと思う。』
津久田ちゃんの発言があたしにブレーキをかけさせる。
彼女は幸せなんじゃないか。幸せを邪魔する権利は、あたしには無い。
「……。」
少し長く沈黙し、完全に話し出すタイミングを失う。どうしよう、何て答えよう。
考えあぐねていると、山田先生が衝撃の一言を放った。
「生徒間の『迷惑行為』が、問題になってます。」
「え?」
「具体的に言うと、スマホでの盗撮。その画像動画のやりとり。」
「え、あ。この、学校内ですか?」
「それが、他校も含めかなり大規模に行われているようで。だから、我々職員としてもこの事態を重く受け止めて何とか食い止めたいと思ってます。」
「……そう、ですか。」
明るみに出た。今まで裏で行われていたことが、知れ渡ったのだ。
安堵。
いや、どちらかというと不安だ。ドス黒い不安があたしの中にあった。
これは、一生徒の問題では無い。1人を叩いたところで、その後ろにいる膨大なネットワークを根絶やしにしないと犯罪は終わらない。あたしが騒いだところで、何も変わらない。
変わらない。
変わらない。
変わらない。
「何か知ってることがあったら、いつでもいいかr」
「話ます。」
――でも、守りたい。
「え?」
「今から……あたしが聞いたこと、見てきたこと、感じたことを全部言います。」
「えっと、分かりました。証言としていただきます。」
守らなきゃ、いけない。
大切な人を。
友達を。これから傷つく人を出さない為にも、洗いざらい話すしか無い。
―――
――
―
それから程なくして、あたしや他校の生徒の証言などが元となって盗撮画像や動画の売買に関わったグループにメスが入った。
正直どこまで捜査が及んだのかは分からない。松田陽一は普通に学校に来ているし、國枝蓮子だって補導されたという話は聞かない。
――
「甘うまー!」
「あすかはホントにクレープ好きだよね。」
「ふふー。好き好き。」
「買い出し付き合ってもらっちゃってありがとね。」
「なんのなんの!後何買うんだっけ?」
「後は……たこ焼きの具材だけかな。」
「おっけー。」
文化祭の出し物『たこ焼き屋さん』、今はその買い出し中である。
あたしとオカミー、津久田ちゃんの3人でクレープ屋さんにて小休止。
「……松田陽一とは、その後は?」
「ちゃんとお別れした。」
「そっか。」
「あの時の私は、どうかしてた。」
「津久田ちゃんに被害が無くてホントに良かった……と思うけど。なんか余計だったかな、とも。」
「スガちー。ありがとね。」
「うん。」
「でもさ。」
オカミーが少し神妙な面持ちで口を開く。
「まだ、全部は解決してないよね。」
「全部?」
「あすかも、そう思う?」
「……それはそうだね。」
「私はもう大丈夫だから。先生や大人達が色々やってくれたし。」
「これはあたしの問題でもある。」
「スガちーの?」
「
「そういうのはやめよ。」
「でもさ!……やられっぱなしは嫌だよ。こんだけ大事な人を傷つけられて。」
「許すのも、優しさだよ。」
「……。」
優しさだけじゃ、この感情は抑えられない。
今まで受けてきた屈辱を消すこともできない。
だけど、このままだと津久田ちゃんとも言い争う形になりそうだったので一歩引いた。
「じゃ、買い出しの続き行こっか。」
「うん。」
――いつかは、きっと決着をつける。
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